通貨と金の関係性 金は「モノ」なの「お金」なの? | 【公式】日産証券の金投資コラム

通貨と金の関係性 金は「モノ」なの「お金」なの?

2023年6月1日

 

このページで知れること(目次)

1、通貨は血液
2、資金の供給について

通貨(currency)と金(gold)。どちらも資産価値があるという意味では同じですが、大きく異なる点が3つあります。1つは金利が付くかどうかです。通貨の貸し借りには金利が付きますが、金には付きません。もう1つは、通貨は信用(credit) 創造に関わりますが、金は関わりません。そして最後に金は自然の産物です。通貨のように各国の通貨当局の裁量によって供給量を人為的に調整するというようなことは容易にはできません。少し詳しく、金と通貨の違いをみてみましょう。

通貨は血液

通貨は経済の血液だといわれます。金融とは通貨を融通することですから、人の体を血液が流れるように、余っているところから足りないところへと通貨を回さなければなりません。

 
銀行を例にしてみましょう
 
 

銀行は預金者から通貨を預かり、資金を必要としている企業や個人に融資します。銀行は融資先から金利を受け取り、預金者へ金利を払います。企業や個人からの金利と預金者への金利の差が銀行の収益となります。

 

さて銀行は、お金を預かり貸し出します。例えば、100万円の預金があれば、銀行は預金者への払い戻しに備えて手元に残す資金(支払準備率が10%なら10万円)以外の90万円を貸し出します。90万円を借りたAさんはBさんに返済し、返済を受けたBさんは銀行に90万円を預金します。そうすると銀行は同様に90万円のうち9万円を手元に残し81万円を貸し出します。このように銀行が貸し出しを繰り返し、最初に受け入れた預金の何倍もの預金通貨をつくりだすことを信用創造といいます。社会は信用創造で回っています。金は信用創造をするという役割は持ちません。お金との大きな違いです。

 

このように、通貨はあたかも血液のように社会を流れ、経済を回すという役割があり、通貨の貸し借りには金利が付きます。一方、金にはこうした役割はありません。厳密に言えば、金にも現物を貸し借りするリース市場があり、金利の役割をするリースレートというものがあるのですが、あくまでもモノの需給によって金の金利は上下します。発行体のある通貨にはその発行体の信用によっても金利は上下しますが、金は発行体を持たないことから信用リスクはなく、リースレートの水準も一般に法定通貨の金利より低いです。

 

最近ではロシアによるウクライナ侵攻を受け、米国をはじめとする西側諸国がロシアに経済制裁を科し、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)やNY金市場(COMEX)はこれに対応して新規のロシア産金地金の取り扱いを停止しました。但し、これにより金自体の信用が失われ金価格が暴落するということはありません。ロシアは金を産出しますが、生産国の一つにすぎず、金自体の信用には何ら影響を与えません。

資金の供給について

社会を回す信用創造

20世紀末から21世紀にかけて、東西冷戦の終結、中国のWTO加盟(西側経済圏に参入)などによりグローバリゼーションが一気に進み、経済的合理性を求めた供給網(サプライチェーン)が構築されると、物価は世界的に見ても安定的に推移しました。物価が安定する中で、世界的に低金利時代が続き、金融市場には潤沢に資金が提供される中、米国では新たな成長分野であるIT関連のスタートアップ企業の設立ラッシュ(ITバブル)や不動産投資の急拡大(不動産バブル)なども発生しました。またBRICSといった新興国の台頭もこうした潤沢な資金のおかげといえるでしょう。

 

経済的効率化の効果で物価が安定したことで通貨当局は潤沢な資金提供が可能となりましたが、金は同じように供給できるかというと、自然物である金の供給は通貨のようにフレキシブルに増減させることはできません。結果的に今世紀に入り、世界各国の通貨供給量が増加する中、相対的に金の供給が少なくなったことが、金価格を押し上げる要因の一つになりました。2000年以降、金は世界中のどの通貨に対しても上昇しています。

 

物価安定を前提に運営されていた世界経済は、米トランプ政権下の米中対立の本格化に伴う経済の分断、通貨安競争があり、バイデン政権になった2020年には新型コロナウイルス感染の蔓延(パンデミック)による強制的な供給網の遮断への対応で世界的に未曽有の資金供給が行われました。そして2022年のロシアのウクライナ侵攻が決定的となり、世界はインフレ時代へと突入しています。米FRBは昨年1年間に4.5%も金利を引き上げたころで、インフレはピークアウトしたとの見方がありますが、世界経済の分断は続き、経済効率化を突き詰めたグローバリゼーションから新たな供給網の再構築はまだまだ始まったばかりです。かつてのような物価安定の時代に戻ると安心できる状況ではないでしょう。米国内でも急激な金利引き上げにより銀行不安が台頭していますし、特に新興国などは米国金利高による自国通貨安が国内インフレを助長する懸念もあります。米国以上に景気回復が進めばよいのですが、金利を下げても、通貨の量を増やしても景気が回復せず、その国の通貨がいつまでたっても安いままで下落が止まらないでいると、物価の上昇に拍車がかかり、お金は紙切れ同然となる可能性もあります。

 

一方、金は有史以来、人類共通の価値ある資産として、その地位を保ってきました。こうした観点から、たとえ金の価格は上下するとしても、価値は非常に安定的だといえるのです。

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