無国籍通貨 | 【公式】日産証券の金投資コラム

無国籍通貨

2023年5月15日

 

昔から必要とされる金

ツタンカーメンの黄金マスクなど、金に親しんだ文明としてよく知られている古代エジプト文明はその初期王朝時代(紀元前3000年)から金の装飾品を使用していました。また同時期、メソポタミア文明においてもメソポタミア人は交易に数種類の「貨幣のようなもの」を用い、その中で最も価値が高いものとして金を利用していたそうです。数千年経っても変わらぬ輝きを持つ不変性と、その希少性は世界中の人々を魅了し続けています。このいつまでも変わらない不変性から、金は“価値の保全”という目的で使われるようになりました。実際、人類の歴史上、一度もその価値はゼロになったことがありません。

 

無国籍通貨とよばれる金

無国籍通貨と呼ばれる金

不変性と希少性を併せ持つ金は、古くから価値の保全や貨幣として使われ、太陽信仰が盛んだった古代エジプトで使われた神聖文字のひとつヒエログリフには、中心に点が描かれた円記号⦿は太陽と金を表す文字として壁画に多く残されています。また、金がその国の貨幣制度の基準とする金本位制という理念は古代東ローマ帝国時代には出来上がっていました。金本位制が世界で最初に法的に導入されたのは1816年のイギリス。これに世界各国が追随しました。その後二つの世界大戦を経て、第二次大戦終戦後、戦争で疲弊した欧州各国に対し、財政的に余裕があり当時最も金を保有していたのが米国だったため、国際通貨基金(IMF)により金ドル金為替本位制を中心とした所謂「ブレトンウッズ体制」が創設され、金を平価(1トロイオンス=35ドル)で金と結びつけられた米ドルとの固定為替相場制を介し、間接的に金と結びつく金本位制となりました。この体制は1971年の「ニクソン・ショック」で金と米ドルの兌換が停止され、1973年までに各国が変動為替相場制に移行する中で金本位制は有名無実化されるまで続きました。

 

しかし、金本位制が終了したとはいえ金が通貨としての役割を失ったのかというと決してそんなことはありません。現在もなお世界各国政府・中央銀行の外貨準備の中で「金は世界的な準備資産として依然として重要」(IMFワシントン協定)とされており、金が世界全体の外貨準備に占めるシェアは、米ドル、ユーロに次いで3番目の13.2%を占めます(WGC調べ、22年第3四半期)。外貨準備とは、対外債務の返済、輸入代金の決済、自国通貨の急変動を防ぐ目的で保有する資産であり、その外貨準備の重要な位置を占める金は正に「無国籍通貨」と言えます。

 

通貨としての役割を持つ金ですが、有史以来掘り出された金の総重量はおよそ20万トン強、新規鉱山産出量は年間3000トン程度で安定しており、供給量の伸びは約1.5%といったところです。

 

世界の中高銀行の総準備に占める通貨シェア

 
 

一方、ドルや円といった「法定通貨」は、経済力や政治的安定性といったその国の信用力をベースに発行される通貨です。自国経済の状況や他国との関係を見ながら金融調整や財政調整を行うことが可能であり、発行量(通貨供給量)はその国の裁量で自由に行えます。

 

現在、基軸通貨(アンカーカレンシー)は米ドルです。石油をはじめとした貿易決済の決済通貨として米ドルが使用されます。ただ、21世紀に入り、度重なる金融危機やトランプ政権誕生とともに勃発した米中貿易戦争は、世界のデカップリング(分断)と評され、ドル安誘導で米国が利下げをすると通貨高を嫌った新興国が追随して利下げを行うという「通貨安競争」が始まり世界全体の超低金利や2020年のコロナパンデミックにより世界経済が急停止させられた対応で、世界中で巨額の財政出動が行われました。その結果、日米欧だけでもマネタリーベースの合計は2019年末(11.8兆ドル)からピークの2021年9月(19.2兆ドル)までの1年9カ月で6割強増加しました。先に書いた通り金の新規鉱山生産量による供給は1.5%程度です。これにリサイクルによる再供給(約1000~1500トン)を加えても2%を超える程度の供給増に留まります。通貨としての供給の柔軟性は金と法定通貨では大きく違います。そして未曽有の法定通貨の供給は世界的な物価上昇に発展し、金価格(ドル建て)も2020年8月に史上最高値の2000ドル超えを実現したのでした。

 

日米欧のマネタリーベース

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