海水が金になる? | 【公式】日産証券の金投資コラム

海水が金になる?

2025年1月6日

海水には推定50億トンもの金や、多くのレアメタルが溶け込んでおり、鉱物資源として注目されています。
近年、海水から金やレアメタルを取り出す研究が日本でも行われています。
日本人にも身近な海から効率的に金を取り出すことができれば、金取引のあり方が大きく変わるかもしれません。
海水から金を取り出す技術の今についてみていきましょう。

 

鉱物資源として注目される海

海から何かを取り出すというと、一般的には「塩」が思い浮かぶのではないでしょうか。
実は、海には食塩のもととなる塩化ナトリウム以外にも、マグネシウム、臭素、ウラン、そして金など、77種類もの元素が溶け込んでおり、リチウムやチタン、バナジウムなどのレアメタルも存在します。
地球科学分野では「海水の1滴1滴が元素の宝庫」とも言われるほどです。
 
種類だけでなく、量も膨大で、海水中に溶け込んでいる金は推定50億トンとも言われています。
人類がこれまでに採掘した金の総量は、16~18万トンと言われているので、海水に含まれる量がいかに並外れているのかがわかります。
しかしながら、地球の海水の総量は13億5,000万k㎥、リットルにすると約13亥5千京リットルもあるため、濃度としては、1トンの海水に対し1mg程度の金しか含まれていません。
 
人類は、紀元前2,200年ごろの中国ですでに、海から食塩を作って有効利用していました。
とはいえ、昔から海水中の資源を活用できていたのは、取り出しやすい塩だけでした。
21世紀においても、海水中の金属イオンの多様さや希薄さのために、分離回収コストが見合わず、商業利用の最大の障害となっています。

 

海水からの金回収

海水からの金回収
海水中に金が溶け込んでいることは、19世紀半ばにはすでに知られていました。
ドイツは、1924年~28年ごろ、科学者F.ハーベルを指導者として、メテオール号という船に巨大な海水ろ過装置と実験室を設け、金の抽出、および、金の含有量が高い水域・海流の発見を目指しました。
しかし、経済的に採算が合わず失敗に終わっています。のちにアメリカの科学者C.ドウが、ハーベルの方法を用いて12トンの海水から0.09mgの金を得たとありますが、この効率では採算が合わなくても仕方がありません。
 
その後も、より効率的に海水から金を抽出する方法の研究が進められていますが、商業的に採算が取れるような抽出方法はまだ開発されていないのが現状です。
しかし、その一方で、日本の技術力を生かした海水・かん水からの金属元素回収実験も本格化しています。

 

日本の先端技術と海水からの金属回収の試み

日本の先端技術と海水からの金属回収の試み"
日本は四方を海に囲まれているので、以前から海水から効率的に金を回収する技術開発に取り組んでいました。
1980年代にはレアメタルを回収できる吸着剤を開発、海に沈める試みを行っています。
しかし、結果としては、レアメタルよりも海藻や貝殻、コケなどがたくさん付着してしまい、失敗に終わりました。海水は無機物だけでなく、有機物も豊かであるがために、一筋縄ではいかないようです。
 
2010年には、波を利用して海水を給水しつつ、微量の金とレアメタルだけを油に付着させて、油と共に浮き上がせる採取装置なども考案されています。
 
ところで、海水中の金属元素の抽出・精製に使用される技術はいくつかありますが、日本はイオン吸着剤や、電気化学的処理、加熱晶析などにおいて、優れた技術を有しています。
これは、日本は岩塩が採れないため、代わりに独自の製塩法を発達させたことに由来しています。
 
2011年には、海水総合研究所が、アルゼンチンのカウチャリ塩湖にて、日本の製塩技術を利用し、塩湖かん水からリチウムを回収する技術の実験を行い、効率的なリチウム回収の可能性が開けました。
また、海洋研究開発機構と株式会社IHIの研究チームは温泉に溶け込んでいる金を藻を加工した特殊なシートを使用し吸着、回収する方法を開発しました。
2023年に研究チームは東京・青ヶ島沖の深海で高温の熱水が噴出している箇所で金を回収しました。しかし、深海への潜航費用を鑑みると現況では到底採算があわないとのことです。
 
結論としては、海水からの金採取の実用化に向けてはまだ長い道のりがあるようです。
しかし、海水からの金採取の技術開発は重要なテーマといえます。世界の鉱山などに眠っている金の量は推定5万トンとも言われており、年間の採掘量が3,000トンのため、遠くない将来に取りつくされる可能性があるからです。
 
日本の優れた技術をさらに活用・発展させることができれば、いずれは商業ベースに乗る金の回収方法も開発され、日本を囲む海が、宝の海になる日が来るかもしれません。

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