産金コストとは 一万円札のコストは22~24円
2024年度上期を目途に発行される新しいお札。最新の技術を用いて偽造防止の強化を図るため、紙幣のデザイン変更は約20年ごとに行われており、一万円札、五千円札、千円札が刷新されます。もちろん、お金の製造にはコストがかかります。ここでは、お金のコストについてみてみましょう。
製造コストを推計すると?
日本の硬貨は、独立行政法人造幣局が製造し、政府(国)が発行しています。
【硬貨製造枚数】
その製造原価(コスト)については、「国民の貨幣に対する信任を維持するためや、貨幣の偽造を助長するおそれがあると考えられることから、公表していません」(独立行政法人造幣局)とされていますので、正確な金額は分かりません。
しかし、公表されている数字、例えば、硬貨の製造枚数や、造幣局の貨幣製造事業にかける支出、硬貨に含まれる金属の割合やその市場価格などから、1円玉は約3.1円、100円玉は約14.6円、500円玉は約19.9円などと推計されています。
一方、日本の紙幣である「日本銀行券」は、独立行政法人国立印刷局が製造し、日本銀行が発行しています。
紙幣のコストは、日本銀行が印刷局から買い上げる時の価格と考えられますから、その費用(銀行券製造費)から推計できます。例えば、令和元年度の銀行券製造費は約481億円、日本銀行券の発行枚数は30億枚なので、日本銀行券1枚当たりのコストは約16円となります。なお、紙幣別にみると、1万円札1枚当たりのコストは22~24円といわれています。
人々が抱く共通の信念
様々な加工がなされているとはいえ、1万円札自体は紙で作られているにすぎません。特に価値を感じるものではないでしょう。しかし、原価が22~24円で作られた1枚の紙が、世の中ではまさに1万円の価値を持ちます。誰でも1万円分の商品やサービスを購入することができるのです。
なぜでしょうか?
その理由は、貨幣に対する信用があるからです。買い手と売り手の双方が1枚の紙を1万円として、その価値を認めているからです。1万円を受け取った人が、同じように1万円として使うことができると信じているのです。言い換えれば、人々がみな共通の信念を抱いているということです。
貨幣の信用を支える3つの要素をみてみましょう。
貨幣の歴史を振り返ると
簡単に貨幣の歴史を振り返ってみます。
最初に貨幣の役割を果たしたのは、穀物や金属などの「物品貨幣」です。やがて保存や運搬の利便性から一定の型に固めた金属の「鋳造貨幣」が使われるようになりました。その後、「金属との引換券」として紙幣が登場し、貨幣と同等のものとして流通するようになっていきます。少し歴史をさかのぼれば、19世紀までは各国が金の保有量に従って金と引き換えが可能な紙幣を発行していました。そして20世紀になり、金の裏付けのない「不換紙幣」が登場します。
現代社会では、多くの国が通貨供給量の調整や、経済政策などによってお金の信用を維持し、人々の共通信念を守っています。わずか数十円の1枚の紙が1万円札として流通するのは、人類の長い歴史と知恵の結晶によるものといえるでしょう。