Weekly Report 2023年3月6日(月)
2023年3月6日
週間展望(3/6~3/12)
このページで知れること(目次)
週間予定:全人代、雇用統計
前週Review:全人代開幕
ドル円:200日移動平均線の攻防戦
金:200日移動平均線が下値支持
金ETF
週間予定:全人代、雇用統計
2月からドル高基調になったきっかけが、2月3日に発表された1月の米雇用統計。非農業部門雇用者数(NFP)は、12月から伸びが鈍化して前月比+18.7万人前後になると見られていたが、結果は+51.7万人と昨年7月以来となる高い伸びとなった。失業率も12月の3.5%から3.6%に悪化するとの見通しに反して3.4%に 低下。1969年5月以来、約53年半ぶりの低水準となった。
サプライズな強気となり、ドル安からドル高に転換となったため、今回の雇用統計にも注目が集まる。
2月1日に発表された12月の雇用動態調査(JOLTS)の 求人数(12月末時点で、1月8日-14日の数字である1月の雇用統計に近い数字)を見ると1101.2万件と、市場予想の1030万件、11月の1044万件を超え、2022年7月以来の1100万件台と強い数字。
今回の雇用統計ですが、非農業部門雇用者数は21.5万件と前回の51.7万件から伸びが大きく鈍化。26.8万人の減少となった2020年12月以来の弱い 数字が見込まれている。予想前後であればFRBの積極的な利上げ継続見通しを支える形となりそうです。また、2ヶ月連続で予想を超えての増加になると直近で約3割が見込む3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%利上げに戻すという見通しが高まり、ドル高が加速する可能性も。
前週Review:全人代開幕
【全人代開幕】
中国全国人民代表大会(全人代)が5日に開幕した。全人代の王超報道官は4日の記者会見で、会期は13日午前までの9日間と発表。
習近平国家主席への権力集中が強まる中、ここ10年で最大の人事刷新を行う見通し。全人代では習氏の国家主席としての3期目続投や新たな経済チームを承認する見通し。李克強首相は政府活動報告で、今年の経済成長目標を事前の予想よりも低めの「5%前後」に設定した。地方財政の立て直し策として、固定資産税に相当する不動産税の試験導入などを打ち出せるかも関心を集める。経済運営を担う首相には上海市党委書記を務めた李強氏(63)が就く見通し。
今回の全人代に先立ち、2月20日、中国外交部HPに「美国的霸権霸道霸凌及其危害」(米国の覇権・覇道・覇凌とその害)という中国政府の見解が掲載された。インドで開催されたG20外相会合では、共同声明の発表が見送られたが、報告書を読むと、中国やロシアなど「新G8」が米国を、どのようにとらえているか、よく理解できる。
序言において、米国は2つの世界大戦と冷戦を経て世界一の大国となり、誰はばかることなく他国の内政に干渉し、覇権を求め、覇権を維持し、覇権を乱用し、他国政権を転覆させ、地域紛争を扇動しては、世界各地で戦争を起こしてきた。米国は自国のルールだけが世界のルールであるとして、世界の平和と秩序を乱し人類を苦しめている。本報告書は、政治・軍事・経済・金融・科学技術・文化の覇権を濫用する米国の悪行を見抜いて、人類が平和と安定を取り戻すことを目的としたものである。
特に経済覇権の項目では、如何にして米国が日本を貶めていったかが、説明されている。著者も中国セミナーで25年前は、「日本に学べ」の声を多く聞いたが、最近は「日本の二の舞になるな」「日本の失敗に学べ」と言われるのが現実だ。悔しく感じるものの、将来を正確に予測するためには、感情抜きに現状認識を行う必要がある。
「トゥキュディデスの罠」
この報告書を見る限り、米中対立は「トゥキュディデスの罠」(最盛期を過ぎた覇権国と次期覇権国が対峙した場合、非常に高い確率で戦争が勃発する)で言われるように不可避。ただ、台湾問題については、22年の報告にあった「外部勢力の干渉に断固反対する」という表現は消えた。
ドル円:200日移動平均線の攻防戦
【今週見通し・戦略】
中国全国人民代表大会(全人代)が5日に開幕した。全人代の王超報道官は4日の記者会見で、会期は13日午前までの9日間と発表。
2月に発表された一連の米マクロ経済指標は、利上げ継続が長期化することを示唆した。米消費の強さを示し、早期の米利上げ停止観測が後退し、円売り・ドル買いが優勢となった。
また、2月24日に衆院議院運営委員会で、次期日銀総裁候補の植田元審議委員への所信聴取と質疑で、植田氏は、「日銀が行っている金融政策は適切」「2%の物価目標を持続的・安定的に達成するには時間がかかる」との見解を示し、「インフレは輸入物価上昇によるコストプッシュであり、需要要因によるものではなく、今後減衰していく」「23年度半ばに向けて物価は2%を下回る水準に低下していく」と述べた。おおむね市場の想定内の内容で、市場にサプライズを与えない無難な内容(安全運転)だったことで、ドル円は円安で反応した。
債務上限問題が控える
2月は円安ドル高となったが、200日移動平均線で上値が抑えられており、米債務上限問題が控えていることや、ねじれ議会での政権運営などを考慮すると、ドルの上値も限定的か?米金利は上昇しているが、ドル円の上値への反応が鈍いのは、金利上昇だけでなく、米国の負の側面や、その先の世界を見据えてのことかもしれない。昨年末の金利水準を超えるような米金利上昇がある場合は、株価下落を招く悪い金利上昇や、景気後退とインフレが同時進行するスタグフレーションとなる場合と想定され、金利が上昇してもドルは売られやすくなるだろう。
3月のFOMCでは、「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」も更新される。ターミナルレートの修正があるか否かに注目したい。また3月は、年間で最も変動が高まりやすい月で要注意。
金:200日移動平均線が下値支持
【今週見通し・戦略】
NY金(4月限)は、強気の米マクロ経済指標と、FRB関係者のタカ派発言を受け、米長期金利上昇を嫌気して続落したが、200日移動平均線に支持され反発となっている。足元は、米金利上昇に対するNY金の下落反応が鈍くなっている。
JPX金は、海外安を円安が相殺して、三角保合いを上放れ、7連続陽線で大幅続伸となっている。
株高と共に見られるような緩やかな良い金利上昇は、NY金の上値抑制要因だが、スタグフレーションや金融危機を招くような「悪い金利上昇」局面では、金は安全資産として買われる流れだ。コスト割れ鉱山も
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)とメタルズ・フォーカスによると、22年7~9月期の金の平均生産コスト(AISC)は1トロイオンス1289ドル。2年間で約3割上がり、遡れる以降で過去最高となった。資源国でインフレが深刻化し、人件費や電力代が大幅に上昇。これが採掘や出荷、探鉱などのコストを押し上げている。AISCが金価格を上回る採算割れに陥った鉱山は7〜9月に約1割に達した。金利上昇で資金調達コストが膨らみ、鉱山拡張のための開発投資も負担が大きくなっている。資金コストを含めた実質的な採算ラインは、鉱山によっては1600ドルを上回る可能性。 金の生産コスト水準と比べると、現在の金価格は底値圏と言えるだろう。通常は価格高騰時に売却が増えやすいリサイクル供給も伸び悩んでいる。
中国のロコ金価格プレミアムも上昇しており、昨年から続く、金買いの勢いに変化はない。脱ドルの動きに伴う金買いは、今年もG7以外では継続しそうだ。米金利上昇を嫌気した金の安値は、金の持つ「現物の顔」や「安全資産の顔」からは、買い場探し戦略が有効であろう。(2/27付け市場分析レポート「金生産コスト、過去最高水準」参照)。
「ねじれ議会」での米債務上限問題を抱え、金の押し目買い戦略は維持したい。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。