Weekly Report 2022年10月31日(月)
2022年10月31日
週間展望(10/31~11/6)
このページで知れること(目次)
週間予定:FOMC。英中銀政策金利、米雇用統計
前週Review:価値観戦争へステージが変化
ドル円:FOMCでは、声明・会見に注目
金:中間選挙年の年末高パターン
金ETF
週間予定:FOMC。英中銀政策金利、米雇用統計
31日には、為替介入実績公表があり、円買い介入額は過去最大5.5兆円規模になった可能性が判明する。
FOMC(11月1日~2日)での0.75%の利上げは織り込み済み。市場の関心は、12月の利上げ動向・利上げの終着点に移行しており、声明・会見が注目。
3日には英中銀政策金利 4日には米雇用統計。
10月中旬に発表が予定されていた半期米財務省為替報告の議会提出が期限を過ぎており、日本が為替操作国に認定されるような事態になると、単独介入もやりづらくなる。一方、98年の日米協調介入も、米国の製造業の悪化から実施された経緯もあり、ドル高による米製造業の業績悪化からのバイデン政権批判が高まっている点には注意。
前週Review:価値観戦争へステージが変化
【国際秩序の再編】
プーチン大統領が国家総動員体制を決定し、核戦争に発展し得る米国との直接的戦闘を避けつつも、米国の傀儡と見做しているウクライナに関しては、軍事目標だけでなく、電気、鉄道などの民生用システムも徹底的に破壊し、ゼレンスキー政権の降伏を狙っている。さらに、天然ガスと石油をヨーロッパに対して圧力をかける資源兵器として躊躇なく用いるようになっている。
今年、実験を成功させた大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」は、米テキサス州と同等の面積を壊滅させる破壊力がある上、射程は世界最長を誇り、様々な軌道で飛行してミサイル防衛システムをかいくぐりながら、従来の北極経由に加え、南極経由でも米国を攻撃できることが判明した。現段階で米国は、南極経由の攻撃には、完全に対応できない。
価値観戦争へ
プーチン大統領は10月27日、バルダイ会議で演説し、西側諸国が戦争をあおり、世界中に混乱をもたらす「危険で血に染まった汚い」地政学的ゲームを展開していると非難。「西側諸国が世界情勢を一手に支配してきた歴史的時代は終わりを告げようとしている。われわれは今、歴史的な境目に立っている。この先はおそらく、第二次世界大戦以降、最も危険で予測不可能かつ重要な10年になるだろう」とした。
バイデン政権が、「民主主義」VS「独裁」を大義として行動しているのに対して、プーチン大統領は「真のキリスト教(正教)」VS「悪魔崇拝」という二項対立を掲げ、価値観戦争へステージが変化してきている。以前よりプーチン大統領は同性愛に否定的だったが、伝統的家族観に反する価値観を悪魔崇拝と述べている。
また、9月30日のプーチン大統領演説(ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ザポロジエ州、ヘルソン州のロシア加盟に関する条約調印)で、「欧米は、ドルの力と技術的独裁を利用して世界に寄生し、本質的に世界から収奪し、人類から真の貢ぎ物を集め、不当な繁栄の主な源泉である覇権的不労所得を抽出することができるような新植民地体制を維持するためには何でもする。」と述べ、ドルの基軸通貨体制への挑戦も表明している。英国で金・銀地金取引を監督しているロンドン貴金属市場協会(LBMA)に代わるモスクワ・ワールド・スタンダード(MWS)設立構想も進んでいる。(8/18付け市場分析レポート「モスクワ・ワールド・スタンダード(MWS)」参照)。
6月2日にイタリアのベルスコーニ元首相は「ウクライナの状況は、西側が他の世界から孤立していることを示している。ウクライナの危機に西側は結束して対応したが、その結果はロシアが西側から孤立しただけでなく、西側が残りの世界から孤立していることを示した」と述べたが、今月に入り、ドイツやフランスからも、「ウクライナ紛争によってアメリカのエネルギー独占や、ヨーロッパの衰退を招くことはあってはならない。アメリカは、LNGを本国の価格の4倍で販売しており到底容認できない。」との声も高まっている。米中間選挙後に、バイデン大統領の急速なレイムダッグ化が進むようなら、ウクライナ支援の連携も欧州から崩れてくる可能性もあろう。
米中間選挙でも接戦投票に伴う混乱には要注意だ。結果判明に時間が掛かるリスクも潜在する。米国内の分断はますます高まり、米国の覇権・基軸通貨体制に揺らぎが出てくることは、金にとっては大きな波動の中で強気要因だ。
ドル円:FOMCでは、声明・会見に注目
【今週見通し・戦略】
25日の当座預金残高見通しから推計すると、政府・日銀が21日に実施した円買い・ドル売りの為替介入は、9月22日に実施した2.8兆円を大幅に上回り、円買い介入としては過去最大となった可能性が高い。150円台を定着させないとの当局の意志を感じさせる介入だったが、ファンダメンタルズに反した単独介入は時間稼ぎ以上の効果は限定的で、145円で支持され反発している。
過去最大規模の介入額
黒田日銀総裁体制の任期(2023年4月8日)の間に政策変更の可能性は低く、米国の金利引き上げの終着点が見えてくるまでは、日米金融政策の差が材料視されやすい地合いとの見方は根強く、介入で付けた安値を買い拾う動きが続いている。イエレン財務長官が、「為替介入についての情報は、得ていない。日本から知らされていない。」との発言や、半期米財務省為替報告の議会提出が期限を過ぎており、日本が為替操作国に指定されると、本邦の介入が、やりづらくなるとの思惑も買い方を勢いづかせた。
11月FOMCでの0.75%の利上げは織り込み済み。市場の関心は、12月FOMCでの利上げ幅動向に移行している。「CME FedWatch」の12月FOMCでの利上げ見通しは、0.50%と0.75%の見通しが交錯している状況。 11月のFOMCでパウエル議長は、声明や議長会見で何らかの示唆をしてくる可能性が高く、織り込み済みの利上げ幅よりも声明や会見に注意。 雇用統計でFOMCの結果が追認されるか否かにも注意。145-150円のレンジ相場だが、日本の休場もあり、変動が高まる可能性も高い。
金:中間選挙年の年末高パターン
【今週見通し・戦略】
大統領選挙年と同様、中間選挙年も各市場でアノマリー的な値動きパターンが観測される。NY株式市場(S&P500やNYダウ)の中間選挙年の11月~翌春にかけての上昇パターンは、よく知られるアノマリーだが、金市場においても、年末高パターンが中間選挙年ではより顕著になっている。
1番底を維持
通常年も中間選挙年も10月は弱気優勢な傾向があり、今年も米金利高・ドル高を背景に軟調推移が続いているが、仮に、アノマリー通りの展開を採るなら、10月のNY金の安値は、年末高に向けての良い買い場になるかもしれない。
10月4日付け「市場分析レポート」の「NY金、自己相似形(フラクタル)」で採り上げた自己相似パターンも継続している。仮に、自己相似が継続するなら、ダブルボトム完成後、上昇加速パターンが想定される。
FOMCでの連続した大幅利上げ観測は織り込み済み、徐々に利上げ終着点は、いつ・どの当たりになるかに移行しつつある雰囲気だ。米金利上昇・ドル高と共にNY金の上値を抑えていた欧州通貨安もトラス英首相の退任表明を受けて、ユーロも英ポンドも、2番底を形成後、三角もち合い放れ待ちに移行している。ポンドに至っては、スナク氏が英国首相に就任したことを好感して、一足早く三角保合い上放れとなっている。ポンドに続いて、ユーロが明確にパリティを上抜け、下値支持に変化するようなら、NY金の底打ち感も高まるだろう。NY金は、ザラ場で一番底を更新する可能性は残っているものの、ユーロ・ドルやポンド・ドルが1番底を維持するなら、NY金の支持線割れはダマシとなるだろう。安値売り込みは避けたいと考える。
JPX金は、円安調整が入って下押したが、円高も限定的で、引き続き、7500円~8000円のレンジ放れ待ちの展開が継続見通し。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。