スポンジPGM先物の中国上場が示す白金市場の転換点 | 【公式】日産証券の金投資コラム

スポンジPGM先物の中国上場が示す白金市場の転換点

2025年8月12日
— GFEXの制度構築がもたらす「実需主導型」の新地政学 —

 
 
2025年、中国は白金族金属(PGM)市場において、これまでにない制度的挑戦を進めている。
広州期貨交易所(GFEX)が設計中の「スポンジ形状での現物受渡しを認めるプラチナ・パラジウム先物」が、正式上場に向け最終調整段階に入った。
この構想は2024年に開催された「上海プラチナウィーク2024」で初めて公式に明らかにされ、
さらに今年2025年の「上海プラチナウィーク2025」においても、制度設計や上場計画の進捗に関するアップデートが改めて発表された。
GFEXのPGM市場設計が、中国の産業構造や資源戦略と深く結びついていることが改めて印象づけられる内容だった。

GFEXとは何か:グリーン素材専用の新世代取引所

GFEX(Guangzhou Futures Exchange)は、2021年設立の中国で最も新しい商品先物取引所であり、
カーボン、リチウム、ニッケル、水素関連など「エネルギー転換に不可欠な素材」の価格指標を中国国内で自立的に形成することを目的に設計されている。
その中核商品として、プラチナ(白金)・パラジウムの上場が準備されており、スポンジ形状での現物受渡しを認める制度は世界初の試みとなる。
この設計方針は2024年時点で公表されていたが、2025年の上海プラチナウィークでは、「年内の正式上場承認に向けて制度設計と実務が整備されている」との最新報告があった。

中国がこの市場を作る背景と狙い

GFEXのPGM市場は、「実需の声を価格形成に反映させたい」という中国産業界の強い要請と合致している。
 
•中国のPGM消費は世界最大で、その大部分がスポンジ形状の工業原料として使われている
•にもかかわらず、従来のLPPM・NYMEXではインゴット限定の制度が主流
•そのため、中国国内では「価格指標が実需を反映していない」という不満が根強くあった
 
GFEXはこうした声に応え、スポンジとバーを共用品として扱う「実需起点型市場」の構築に踏み切った。
これは単なる利便性向上ではなく、「西側主導の価格形成構造からの脱却」という戦略的な意味合いを持つ。

白金の流通・価格構造への影響

この構造転換により、中国国内に偏在していたスポンジ在庫が表面化し、流動性を持ち始める。
一見すると供給拡大の印象を与えるが、その在庫は国内にとどまるため、国際市場から見れば「供給不安」が増す要因となり得る。
 
•GFEX価格 vs LPPM価格:地域間スプレッド
•スポンジ vs インゴット:形状間スプレッド
 
これにより、NYやロンドンのリースレートが上昇し、限月間スプレッドにも歪みが生じる可能性がある。

誰がこの市場を歓迎するか?

歓迎:実需家(特に中国国内)
•スポンジ形状での現物受渡しが可能となり、価格の実需連動性が向上
•中国政府が制度・倉庫・決済すべてを支援するため、コスト・信用面でも優位
 
懸念:国際的な金融投資家
•GFEXは外国人参加に制限があり、流動性・裁定性に制約がある
•スポンジの価格が国際市場に取り込まれにくく、指標との乖離リスクがある

西側市場の反応:LPPMとNYMEXの立場

LPPMは品位認定とリファレンス価格を守る中立的機関であり、現状維持が基本姿勢。
  oスポンジに関する国際標準も存在しないため、短期的な制度変化は想定しにくい
●一方、NYMEX(米国)は柔軟性が高く、過去にも金の1kgバー先物などの新商品を導入してきた。
  o今回もGFEXへの対応として、将来的にスポンジ現物受渡し制度を検討する可能性がある。

スポンジ市場がもたらす在庫可視化と価格修正効果

 
スポンジ市場がもたらす在庫可視化と価格修正効果
 
これまで白金市場は、「需給タイト」の割に価格が長らく低迷してきた。WPICやJohnson Mattheyといった調査機関は数年にわたり供給不足を指摘してきたが、価格面では金の1/3以下に落ち込むという割安水準が続いていた。
 
この需給と価格の乖離の背景にある最大の問題が、「地上在庫の不可視性」と「形状(インゴット/スポンジ)の違いによる裁定不能性」である。
 
GFEXが導入を進めるスポンジ受渡し型の市場は、以下の3つの面で構造的な是正をもたらす可能性がある:
① 在庫の可視化が進む
•スポンジ在庫が受渡対象として登録・管理されれば、これまでブラックボックスだった中国国内在庫の一部が可視化され、地上在庫に関する調査機関の推計精度が向上する。
•WPIC等の需給バランス分析に信頼が加わり、市場がより真剣に反応するようになる。
 
② 価格形成における実需の重みが高まる
•現在のインゴット基準市場では、工業用・触媒用途で主流であるスポンジ需要が価格に反映されづらかった。
•スポンジ価格が市場で明示されれば、実需の動きがそのまま先物価格に影響を与える構造が生まれる
 
③ 投資家にとっての信頼性が高まる
•現在、需給レポートと価格のズレが大きすぎることが、投資家の参入を阻む要因となっていた。
•可視化によって「この価格はおかしい」という根拠が強まり、価格修正(評価の見直し)が進みやすくなる

結論:GFEXのPGM市場は、白金価格の再評価を促す基盤となるか

GFEXは、単なる新興取引所ではなく、中国の産業戦略・資源政策・金融主権の交差点に位置する存在である。
そのPGM市場制度がついに始動しようとしている今、白金価格形成の地政学的重心が大きく動こうとしている
 
2025年の上海プラチナウィークで示された最新の動きは、それが決して一過性の試みではなく、
「ポストLPPM・ポストNYMEX時代」を見据えた構造的転換であることを強く印象づけた。
 
特に、スポンジ形状の現物受渡しを伴う市場の登場によって、「供給不足=価格上昇」という常識がついに機能しはじめる土壌が整う
これまで割安放置されていた白金が、「需給と価格が接続された」資産クラスとして再評価される可能性は、確実に高まりつつある。

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