金融緩和と財政拡大政策継続で米経済は好調を維持。インフレ懸念の高まりにも警戒が必要か。

金融緩和と財政拡大政策継続で米経済は好調を維持。インフレ懸念の高まりにも警戒が必要か。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2021年5月15日

 

4月の米雇用統計は、失業率が6.1%、非農業部門就業者数+267千人と事前予想と大きくかけ離れた低水準に留まり、長期金利が急低下してドル売りに繋がりました。しかし、翌週発表された消費者物価指数は12年ぶりの高い伸びを示し、金利は急反発してドルの買い戻しの動きが強まりましたが、週末の小売売上高は予想値に届かず、為替市場は気迷いの展開となっています。

米経済の先行きに楽観的な見方が広がっていただけに、雇用統計の結果はサプライズでしたが、基本的には財政拡大と金融緩和の両輪で経済を力強く支えており、また、政府の「バラマキ」により消費も好調で、“過剰流動性”の下では、余程の景気失速に繋がる指標や、株式相場の急落が無い限り、リスクオフの動きも限定的と見られます。足元の物価の上昇が一時的なものに留まらず、インフレ懸念が収まらない場合は金融市場に悪影響を及ぼし、長期金利の一段の上昇とリスクオフによるドル買いの動きが強まる可能性が高くなりますが、現状は原材料の不足などにより供給ペースが需要に追いついていないだけとの見方が多く、長期金利も小康状態を保っていることから、大きな懸念材料には繋がらないと見られます。

一方、欧州ではワクチン接種がさらに進んで行動制限が段階的に解除されており、強い需要が製造業を支えて、経済は着実に拡大傾向を強めています。ワクチン接種の進捗状況、経済指標、金利動向を見ながら米欧のファンダメンタルズ格差を睨んで一喜一憂を繰り返す展開が予想されますが、日本についてはワクチン接種の進捗の遅れと感染者の増加傾向が大都市圏の経済活性化を阻んでおり、オリンピック開催の有無も含めて日本政府の対応が問われる状況下にあります。経済活動が制限される中で、円は主要通貨で売られ易く“円の独歩安”の流れが継続すると見られます。
また、忘れてならないのは、米中関係の悪化による地政学的リスクで、一触即発の可能性にも注意する必要がありそうです。

チャートから見た、注目通貨の方向性

1.ドル/円相場:短・中期トレンドは“ドルやや強気”を維持。108円割れでトレ
ンドに変化。

直近の日足を見ると、2手連続小陰線で終え上値を切り下げていますが、4/23に付けた107.48を基点として下値を切り上げる流れを守っています。この日足の下値抵抗は108.50-60にあります。また、今年1月に付けた102.59を基点として下値を切り上げる流れも維持しており、この日足の下値抵抗(A)は108.80-90に、(B)は108.50-60に位置しており、これを守った状態にあります。また、3/31に付けた110.97を基点とする短期的なレジスタンスライン(C)からも上抜けた位置を守っており、この日足の下値抵抗は109.00-10にあります。短期トレンドは“ドルやや強気”の流れを変えていませんが、上記(B)の108.50-60の抵抗を下抜けて終えた場合は、下値リスクがやや高くなります。さらに108円割れで終えた場合は(A)及び(B)のサポートラインを下抜けて短期トレンドに変化が生じます。この場合は107.50-60にある下値抵抗を切り崩しつつ107.00割れトライの動きが強まり易くなります。逆に、日足の上値抵抗が109.60-70にありますが、これを実体ベースで上抜けるか、109.80-90の抵抗をクリアした場合は新たな上昇エネルギーを得て110~111円台の抵抗をトライする動きが強まり易くなります。日足の上値抵抗は109.60-70,110.50-60、111.10-20に、下値抵抗は109.00-10,108.80-90,108.50-60にあります。21日移動平均線は、108.75に位置しており、短期的な下値抵抗として働く可能性があります。また、120日、200日線は106.39と105.97にあり、中期トレンドは“ドル強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

週足を見ると、2018年10月に付けた114.54を基点として上値を切り下げて来たトレンドライン(A)を上抜けていませんが、今年1月に付けた102.56を基点として下値を切り上げる流れを維持しており、短期トレンドは“ドル強気”の流れを維持しています。この週足サポートは今週(5/17週)、108.40-50に位置しています。また、今週の週足の上値抵抗が109.50-60,110.40-50にありますが、これらを全て上抜けて越週した場合は新たな上昇エネルギーが生じて111~112円台をトライする流れに入ります。逆に前述の週足の抵抗である108.40-50を下抜けて越週した場合は下値リスクが点灯、108.00割れで越週した場合は短期トレンドが“ドル弱気”に変化して107.00以下にある下値抵抗をどこまで切り崩せるかトライする流れが強まり易くなります。107円も割り込んだ場合は105~106円台にある中期的な下値抵抗の強さを確認する動きが強まり易くなります。週足ベースで見た上値抵抗は、109.50-60,110.40-50,111.30-40に、下値抵抗は108.90-00,108.40-50,107.00-10にあります。31週、62週移動平均線は106.05と106.51に位置しており、中期トレンドは“ドル強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2.ユーロ/円相場:短・中期トレンドは“ユーロ強気”を維持。130円割れの越週で短期トレンドに変化。

日足は今年1月に付けた125.09を基点として下値を切り上げる流れを維持しており、このサポートライン(A)の下値抵抗は130.50-60にあります。また、これを下抜けた場合でも昨年10月に付けた121.62を基点とする中期的なサポートラインの下値抵抗が130.10-20に位置しており、130円を割り込んで終えない限り、トレンドは大きく変化しません。短期的には、3/18に付けた130.67を高値とする揉み合い状態から4/27の陽線が実体で上抜けて(C)新たな上昇トレンド入りしています。この短期的なサポートライン(D)の下値抵抗は132.00-10にあります。これを下抜けて終えた場合は、下値余地が若干拡がる可能性が生じますが、調整的な押しに留まるなら131円台を大きく割り込まない可能性が高くなります。日足の上値抵抗は133.00-10,133.30-40,134.00-10に、下値抵抗は132.10-20,131.00-10,130.50-60にあります。短期トレンドは130.50割れで“ニュートラル”な状態に戻します。130円割れで終えた場合はトレンドが“ユーロ弱気”に変化して下値余地がさらに拡がり易くなります。21日、120日、200日移動平均線は131.30,128.29,126.68に位置しており、短・中期トレンドは“ユーロ強気”の流れを維持しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

一方、週足を見ると、4週連続陽線引けとなり、今年1月に付けた125.09を基点とする短期的なサポートラインに沿って下値を切り上げています。この短期的な下値抵抗(A)は131.00-10にあります。また、これを下抜けた場合でも、昨年5月に付けた114.43を基点とする中期的なサポートライン(B)の下値抵抗が130.00-10に位置しており、これを割り込んで越週しない限り、トレンドは大きく変化しません。個々の陽線は上昇エネルギーの強いものではありませんが、小反落を繰り返しながら適度にガス抜きしており、急反落にも繋がり難い状態です。但し、前述の130.00-10の抵抗を下抜けて越週するか、値動きの中で129.50割れを見た場合はトレンドが変化して下値余地が拡がり易くなるので注意が必要です。一方上値は、週足の上値抵抗が134円台半ばに控えていることや、中・長期的な抵抗が135~137円ゾーンにあり、これらを一気に上抜けるのも難しいでしょう。週足の上値抵抗は133.10-20,134.40-50,135.50-60に、下値抵抗は132.00-10,131.00-10,130.00-10にあります。31週、62週移動平均線は127.35と124.29にあり、中期トレンドは“ユーロ強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。