Weekly Report 2023年2月13日(月)
2023年2月13日
週間展望(2/13~2/19)
このページで知れること(目次)
週間予定:米CPI、日銀総裁人事、OPEC月報、IEA月報
前週Review:FRB主要メンバー発言
ドル円:植田和男氏を日銀総裁に起用方針
金:200日移動平均線への押し目形成
金ETF
週間予定:米CPI、日銀総裁人事、OPEC月報、IEA月報
14日に米消費者物価指数(CPI)や、日銀総裁人事、OPEC月報などが重なる。
CPIの伸びはピークとなった2022年6月の+9.1%から6ヶ月連続で鈍化。昨年6月時は前年同月比+41.6%あったエネルギー価格が、同+7.3%まで鈍化。ガソリンが+59.9%から前回は-1.5%とマイナスに転じたことが全体を押し下げた。
今回の見通しは、前年同月比+6.2%、コア指数も同+5.4%と鈍化見込み。
米中古車価格の上昇には注意。1月の米中古車平均価格は前月比で+2.5%と反発。中古車価格はCPI全体の3.6%、コア指数の4.5%とかなりの部分を占める項目。物価鈍化が見られなかった場合、年内の利下げ 開始期待は後退し、5月までの利上げ継続だけでなく、6月まで利上げが続く可能性も意識されドル買い要因となる。CPIショックが起きるとすれば、こちらのケース。一方、予想を下回るような物価鈍化が示されると、ドル売り要因となる。
過去2月末は、ロシアによるクリミア侵攻(2014)、ウクライナ侵攻(2022)、コロナパンデミック(2020)、米ゼロ金利解除(2015)、イタリアショック(2013)、エルピーダメモリ破綻(2012)、上海発世界同時株安(2007)など、サプライズが多い時間帯。
前週Review:FRB主要メンバー発言
【FRBメンバー発言】
強気の雇用統計をどのようにとらえるかに注目されたパウエルFRB議長のインタビューが7日、ワシントン経済クラブで行われた。議長は3日発表された1月の雇用統計について「誰も想定していない強さだった」と振リ返り、労働市場の非常に強い状況が続いた場合、「さらなる措置を講じる必要が生じる可能性は十分にある」とし、「労働市場は並外れて強い」と付け加えた。
ただ、「ディスインフレのプロセスが始まった」との認識を改めて示し、金融引き締めへの警戒が和らいだ。「今年はインフレが大幅に鈍化する年」とも述べた。
ディスインフレが始まった
パウエルFRB議長の発言内容がそれほどタカ派寄りではなかったが、その後に発言した米金融当局者発言は、ウィリアムズNY連銀総裁は、ターミナルレート(最終到達点)は5.00-5.25%がなお理に適うとの見解を示し、クックFRB理事や、カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁の発言も利上げ継続を示唆する内容は限定的だった。ただ、タカ派のクリストファー・ウォラーFRB理事は「金利を一部予想より高く、より長く維持する必要があるかもしれない」と述べ、米株は弱気で反応した。
一方、日本では雨宮日銀副総裁が総裁就任の打診を断り、政府は元審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する方針と報じられた。正副総裁の候補者3名の所信聴取と質疑は、2月24日の衆参両院の議院運営委員会にて行われる見通し。
ドル円:植田和男氏を日銀総裁に起用方針
【今週見通し・戦略】
マクロ経済指標を受けて、今後も多少の見通し変化はあろうが、現段階では、利下げ時期は不透明であるものの、利上げの最終局面に接近中。インフレは鎮静化の方向とみなしており、3月に0.25%、状況によっては5月に0.25%の追加利上げを行い、利上げ休止という流れが市場コンセンサスだ。
波乱要因は、インフレ動向や6月に控える米債務上限問題などが想定されるが、先週末には、日銀人事についてのサプライズ報道があった。黒田体制を踏襲するとみられた雨宮副総裁が総裁就任の打診を断り、日銀新総裁人事について政府は植田和男氏を起用する方針固めると報じられた。
雨宮総裁報道で円安に振れた流れが巻き戻しの展開となった。その後、植田氏の「日銀の金融政策は適切、緩和的な政策を継続する必要」との発言が報じられ、円高は一服している。
日銀総裁に学者出身の植田氏
これまで日銀総裁は慣例として日銀出身者と財務省出身者の襷掛け人事が続いてきた事もあり、雨宮総裁案が有力視されていた訳だが、元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史氏曰く「日銀マンが総裁職から逃げ回ったこと自体、日銀がいかにヤバい状態かの、強烈な証左だ。植田氏は、日銀審議委員を経験したとはいえ、そもそもが東大の学者。学者の純粋さで、市場の怖さを全く知らないから、うかつに受けてしまったのだろう。」植田次期日銀総裁は、「(終戦(1945年8月15日)直前の8月2日に、「陸軍大将にしてあげる」と言われて大将職を受けてしまったようなもの」と指摘している。
S&Pグローバル・レーティングは9日、日銀による将来の利上げについて、企業が資金調達コスト上昇を吸収するのに苦戦した場合、日本のソブリン債格付けに影響する可能性があると警告した。
植田氏は経済学者としては立派な方だが、今後、市場との対話が出来るかどうかが焦点に。 植田氏の日本金融学会講演では、「債務超過の怖さ」を指摘されている。日銀審議員時代、2008年8月のゼロ金利政策解除では反対票を投じている。今後は、黒田・岸田・植田の「3田」発言に注目が集まる。
今週は、米CPIショックの可能性にも注意したい。
金:200日移動平均線への押し目形成
【今週見通し・戦略】
NY金(4月限)は、ネックライン(1月31日安値)割れで、ダブルトップ完成となり、下げ加速となった流れを継続。予想以上の米雇用統計を受けてCMEフェドウォッチでは、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)が5.00~5.25%に引き上げられ、米金利も上昇。金の売り圧力となっている。FRB議長のインタビューがタカ派出なかったことで、下げ一服となったが、戻りは限定的となっている。
JPX金は海外安を円安が相殺しているが、心理的節目8000円は回復できず。先週レポートで≪三角保合いを上放れた後の調整で、200日移動平均線へ向けての押し目は、買い場と考える。長い下ヒゲや、長大陽線などチャート上の底打ちパターン出現を確認できたら、買い主体の戦術で対処したい。≫と指摘したが、同戦略は継続したい。ザラバで200日移動平均線や一目均衡表の雲を割り込む場面が出現するかもしれないが、長い下ヒゲで戻すなど、下げはダマシになる可能性。中長期スタンスから8000円以下を買いたいとするバーゲンハンターは多い。短期的な投機筋の買いが投げさせられた安値を売り込むことは避けたい。買い場探しで。
春季攻勢で戦局膠着に変化も
1月にバーンズCIA長官とゼレンスキー大統領との会談で、ロシアが春季に軍事作戦が仕掛けられる米側の見立てが説明されたが、イタリアのクロゼット国防相は2月9日、「ロシアが数日中に攻撃を強めるようにみられる」との認識を示した。ドイツ製主力戦車「レオパルト2」の最初の大隊が3~4月に引き渡される見通しで、その前にロシアが春季攻勢で東部ドンバス地方の完全制圧を目指すとの見方も根強い。膠着状態となっている戦況が激変するリスクには注意したい。
米国はロシア産アルミニウムに200%の関税を課す準備を進めているとBloombergが報じたが、グローバリゼーションが強まった経済合理性で動く平時相場ではなく、冷戦時と同じように政治的メンツが重んじられる有事相場となっている。仮に今週の米CPIが落ち着いた数字が出ても、物価は低位安定ではなく、変動が大きくなる時代が再来していると考えた方が良いだろう。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。