いまさら聞けない?「ドル化」、「脱ドル化」って何?①
最近新聞やニュース等でよく耳にする「脱ドル化」という言葉。ドル化を脱する(取り去る、はずれる)こととは?
そもそもドル化とはどういった意味でしょうか?
今回は「ドル化」について紹介します。
「ドル化:Dollarization」とは、もともと自国の通貨が存在していた国で、アメリカ・ドルが事実上の代わりの通貨となることです。
戦争後の混乱、内紛、政治体制の崩壊、経済・金融危機などで自国の中央銀行の機能が十分に働かなくなった際、預金、決済、賃金支払い、納税などに基軸通貨であるアメリカ・ドルが使われることを意味します。
国家が経済・金融体制を安定させるため、ドル化を法的に認める場合もあります。国内経済のアメリカ依存が極端に強まり、アメリカ経済に連動してインフレが進むほか、独自の金融政策をとれないなどの欠点もあります。
上記のような状況は主に新興国や冷戦後の旧東側諸国において見られる現象で、現在の日本ではあまり関係ないと思われるかもしれません。
確かに自国通貨の円で国内の経済活動全般の支払いが行われ、内紛や政治体制の崩壊には見舞われておらず、バブル崩壊など戦後の金融危機の際にも、店頭で円での支払いを拒否されドルでの支払いを要求されたなどという経験を持つ人はいないでしょう。
しかしながら、日本や他の先進国も各国との貿易には主に基軸通貨であるアメリカ・ドルが使用されています。そのためアメリカの経済や金融政策に大きく影響を受けるという点では新興国や旧東側諸国と大きな違いはなく、広義の意味では現在の世界は「ドル化」経済といえます。
普段何気なく見ているテレビのニュース番組で経済情報が流れる時、「外国為替市場の状況です。本日のドル円相場は・・・」とアメリカ・ドルの対円相場が伝えられます。
なかにはユーロや他の通貨も伝える番組もありますが、アメリカ・ドルがなく、ユーロや他の通貨だけを伝えるという番組はまずありません。
では、いつ頃からドルが基軸通貨となったのでしょうか?
今から100年ほど前の第一次世界大戦(1914年~1918年)後の1920年代、それまで国際準備通貨であった英ポンドのイギリスが経済的にも軍事的にも疲弊し凋落したことや、戦時中、資金調達のために金(GOLD)が米国に集中したことで、アメリカ・ドルが英ポンドに代わる国際準備通貨になり、このころから国際貿易でアメリカ・ドルが中心的な役割を担うようになりました。
その後第二次大戦中の1944年7月、 連合国通貨金融会議(45ヵ国参加)で「アメリカ合衆国ドルを基軸とした固定為替相場制」であり、「1オンス35USドル」と「金兌換」によってアメリカのドルと各国の通貨の交換比率(為替レート)を一定に保つことによって自由貿易を発展させ、世界経済を安定させる仕組みが締結されました。
これがいわゆるブレトン・ウッズ協定と呼ばれるもので、名実ともにドルが基軸通貨になった瞬間です。このブレトン・ウッズ体制は1971年のニクソン・ショックまで続き、戦後の西側諸国の経済の復興を支えました。
1920年代からニクソン・ショックまでの約半世紀、またそれ以前の英ポンドも基軸通貨として使用される要素には金の保有量が大きな意味を持っていました。
金本位制、またはブレトン・ウッズ体制時代の金・ドル本位制は、金の保有量によって通貨供給量が制限されます。1971年8月15日、ニクソン大統領が金の兌換停止を宣言(ニクソン・ショック)したのは、欧州や日本で生産される物が米国産よりたくさん売れるようになり、またベトナム戦争の激化で米国は貿易・財政とも悪化し、金が米国からどんどん流出してしまったためです。
このあたりは1920年前後の英ポンドからアメリカ・ドルへ国際準備通貨に変わった流れと似ています。
しかし、アメリカ・ドルはその後も現在に至るまで基軸通貨であり続けています。その背景は金に代わる新たな裏付けを身に着けたためでした。
それは「石油(オイル)」です。1973年の第1次オイルショック後の1974年、財政赤字とドル防衛が問題化していたアメリカはヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官(後に国務長官)がサウジアラビアを訪問し、ドル建てで原油を安定的に供給することと貿易黒字での米国債の購入、その引き換えに安全保障(サウジ王家を未来永劫保護する約束を含む)を提供する協定(ワシントン・リヤド密約)を交わしました。
これにより、アメリカ・ドルは金に代わり石油に裏打ちされることで基軸通貨としての信用を維持し続けることが可能になるだけでなく、金本位制のような縛りがなくアメリカは自由にドル紙幣を刷れるようになりました。翌年には他のOPEC諸国もアメリカ・ドル建て取引を決め、以降、世界的に石油取引がアメリカ・ドル建てで行われるようになりました。「ペトロダラー(石油ドル)・システム」の誕生です。
石油には世界中から需要があります。その決済を全てアメリカ・ドルで行うということは世界中にアメリカ・ドル需要があるということです。
これによりFRBはほとんどゼロコストでドルを発行することが可能になったのです。これこそが「ドル化」と言えるでしょう。
ワシントン・リヤド密約が交わされた当時は東西冷戦時代でしたが、89年6月に中国で天安門事件が、11月にベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終わり、米国が世界で唯一の超大国になるとともに世界覇権の絶頂期を迎えました。
但し、現在、そのアメリカ・ドルの覇権にも揺らぎが生じているといわれています。それは「脱ドル化」と表現されます。次回は「脱ドル化」について紹介します。