Monthly Report 2023年4月 | 【公式】日産証券の金投資コラム

Monthly Report 2023年4月

調査課 菊川弘之
2023年4月3日

~4月1日~4月30日 ~

ドル円:戻り売り基調継続か?
米個人消費支出(PCE)・期待インフレ率(PCE)

4月騰落率(ドル円)

【今月見通し・戦略】

先月レポートで≪2月は円安ドル高となったが、200日移動平均線で上値が抑えられており、米債務上限問題が控えていることや、ねじれ議会での政権運営などを考慮すると、ドルの上値も限定的か?≫としたが、3月のドル円は、パウエル議長の議会証言(3/7-8)がタカ派的な内容となり、今後の利上げペースの加速や利上げ長期化への警戒感からドル買いとなる場面もあったが、200日移動平均線に上値が抑えられた。



FOMC参加者による政策金利・経済見通し(中央値)


2月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比31万1000人増と市場予想を上回った一方、失業率は3.6%に上昇。平均時給の伸びも予想を下回ったことや、シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻した事を受けて、3月FOMCで、0.25%の利上げを決定。 政策金利の見通し(ドットチャート)では、2023年末の政策金利見通しは5.125%。2024年末の政策金利は4.375%としている。現段階では、FRBによる利上げは、あと1回とみられている。


欧米当局者の迅速な対応で、市場はいったん落ち着きを見せているが、ドルに関しては、中長期的な材料としてドル基軸通貨体制の揺らぎが根底にあり、戻りは鈍い。銀行救済で米財政問題も改めて材料視されさそうだ。当局は否定しているものの、預金全額保証などで、債務上限問題の前倒しも想定される。


2022年1月安値~10月高値までの上昇に対する61.8%押しと重なる2023年1月安値を維持し、2番底を形成して戻りを試す流れとなっており、ネックラインと重なる200日移動平均線を上抜けば、(ドル高への)トレンド転換も想定されるが、現段階では上値は重そう。過去の季節伊傾向で4月は、円高ドル安傾向の強い時間帯(32戦12勝20敗)。



~米個人消費支出(PCE)・期待インフレ率~


【米PCE】

利上げ打ち止め期


【ミシガン大学期待インフレ率】

米国 ミシガン大学1年先期待インフレ率、5年先期待インフレ率速報値



金:ドル離れ・基軸通貨ドルの揺らぎ
2000年以降比較・1980年以降比較

4月騰落率(NY金)

【今月見通し・戦略】

3月にNY金は2000ドル突破、円建て金(小売価格・JPX金)は史上最高値を更新した。一般メディアで、欧米銀行の経営不安に伴う金融システム不安が金上昇の主因として報じられたが、金大幅上昇の主因は、中国が仲介したサウジとイランの外交復活が、覇権国家・基軸通貨を巡る歴史の中で、大きなターニングポイントとなる可能性を金が織り込み始めたからだ。仮に、欧米銀行リスクが落ち着きを見せたとしても、金相場の調整は限定的でメイントレンドを変えることはないだろう。


世界の火薬庫と呼ばれた中東において、仲介を成功させた中国が次の覇権国として存在感が大きくなることは確実だ。裏を返せば、中東における米国の影響力が顕著に落ち込んでいると言うことがアフガンの撤退失敗に続き表面化している。過去、原油取引のドル決済をユーロ決済に移行しようとしたイラクのフセイン大統領は米国に抹殺されたが、今回はロシア・中国が、中東・インド・南米を巻き込み、ニクソンショック以降、強大な軍事力と共にドルの基軸通貨体制を支えてきたペトロダラー体制に挑戦している。新G8中心にドル離れ・金シフトも昨年から顕著となっている。覇権の行方は容易に付くものではなく、決着には長い時間が掛かるが、人類の歴史を振り返ると、中国とインドの両国で全世界の過半のGDPシェアを占めていた時代は長い。西洋の一部が覇権を握っている現在が例外的とも言えよう。日本とドイツへの影響力は強めているが、欧州では米国離れの気配も出ている。マクロン仏大統領とEU首脳のフォンデアライエンが中国を訪問(4月5-8日)する。


国内投資家は円建て金価格の500円、1000円刻みを利食いのタイミングと捉える傾向があり、高値更新場面での心理的節目水準では利食いで一旦、押されるものの、価格慣れしてくると、今度はこれまでの上値抵抗が下値支持に変化していく。「金の1万円以下は安かった」と言う日は、それほど遠くないだろう。


2000年以降、1000円超は高い、2000円超は高い、3000円超は高い、と金を買えなかった人達は心理学でいう「アンカー効果」に囚われ、機会を逃した。相場格言では、「買い難い相場は高い」だ。史上最高値を更新している金だが、10年後、20年後に、「あの時、買っておけば良かった」とならぬよう、値頃感に囚われない賢い投資家になりたい。今後、波乱含みの時代が到来すると予想するなら、値頃に関係なく、金の現物を持つ価値は十分にあると考える。



~2000年以降比較・1980年以降比較~


【2000年以降比較】

2000年以降の金と株価の推移


【長期での円建て金の割安感は継続】

各通貨建ての明国金価格の推移(1980-2023年 年間平均)



4月注目スケジュール:
5日、マクロン仏大統領訪中、7日米雇用統計、
9日植田新日銀総裁就任、27、28日日銀政策決定会合、28日「展望レポート」

4月注目スケジュール


欧米金融機関破たんに伴う金融システム懸念は一服したものの、「OPECプラス」による予想外の追加減産決定で、米金融当局の舵取りは難しいままだ。

覇権・基軸通貨の揺らぎに伴い、マーケットにおいても、通常の変動要因だけでなく政治ファクターの高まりにも注意したい。


日本では、9日に経済学者の植田和男氏が日銀の新総裁に就任し、27日には新体制で初となる金融政策決定会合が開催されます。植田氏は2月の所信表明で、緩和路線の継続を宣言しているが、金融緩和政策の副作用を指摘する声もあがっている。28日に公表される経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、新たに25年度の経済・物価見通しが示される予定。

この記事の監修者

菊川弘之

東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社

日産証券インベストメント株式会社

取締役 菊川 弘之

NY大学留学。その間GelberGroup社、FutureTruth社などでトレーニーを経験。
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。

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