Weekly Report 2022年11月7日(月)
2022年11月7日
週間展望(11/7~11/13)
このページで知れること(目次)
週間予定:米中間選挙・米消費者物価指数・FRB当局者発言
前週Review:米連邦公開市場委員会(FOMC)&雇用統計
ドル円:米雇用統計は強弱交錯
金:中央銀行の買いが過去最高
金ETF
週間予定:米中間選挙・米消費者物価指数・FRB当局者発言
米中間選挙が最大の注目。民主党は「中間選挙は”民主主義”決める投票」。共和党は「インフレ、景気、犯罪」に焦点を絞る戦略。共和党有利が予想される中、反対の結果となった場合、すんなり投票結果が決まらない可能性や、中間選挙後のバイデン弾劾の動きにも注意。
12月のFOMCでの利上げ観測を読み解く上で重要なFRB要人発言も相次ぐ。雇用統計が強弱混在していた為、10日の米消費者物価指数に注目が集まる。前回9月のCPIは前年比+8.2%と8月の+8.3%から鈍化も、市場予想(+8.1%)を上回った。食品とエネルギーを除いたコアは、前年比+6.6%と8月の+6.3%から伸びが加速。市場予想(+6.5%)も超える強い伸びとなった。前年比は6月分が+9.1%まで伸びた後は、3ヶ月連続で鈍化中。ただ、全体の数字の伸びを抑える主要因となっているエネルギー価格は、9月から10月にかけてガソリン小売価格が上昇している。米国市場は冬時間入り。
前週Review:米連邦公開市場委員会(FOMC)&雇用統計
【ターミナルレートへ市場の関心は移行】
11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、事前予想通り、0.75%の利上げを決定。通常の3倍の利上げ幅で、6月に約27年ぶりに実施してから4会合連続となる。
声明文では「金利目標の継続的な引き上げが適切」と前回までの表現を踏襲しつつ、今後の利上げペースの決定には「金融政策が経済活動や物価に影響を及ぼすのに時間差がある点を考慮する」と新たに加えた。
注目のパウエル議長は記者会見では、次回以降の会合で減速について議論することを認めつつ、金融引き締めをどの時期まで続けるかという問題の方がより重要になっているという見方を示した。その上で23年中に4.6%とした9月会合での金利見通しについて「最近のデータを踏まえれば、最終的な金利はより高くなる」との見解を示した。利上げの停止についての議論は「かなり時期尚早だ」とも指摘した。
また「強いドルはいくつかの国で試練となっている」とも言及し、波及効果について注視していることも付け加えた。
雇用統計は強弱混在
パウエル議長が早期の利上げ停止の検討も否定した事で、米長期金利が上昇し、ドル買い・株売りとなったが、週末の雇用統計が、強弱混在した結果であったものの、米雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比26万1000人増と市場予想(20万5000人増)を上回った一方、失業率は3.7%と前月(3.5%)から上昇した事で、米労働市場は依然として力強いものの、米金融政策の見通しを変えるほど強くないとの見方からドル売り・株高で反応している。ユーロも金も原油も、長大陽線を付ける強い買いで反応した。
米利上げは続くものの、最終局面に近づいているとの認識が徐々に高まってきた感触だ。市場の関心は、ターミナルレートに移行しつつある。ただし、中間選挙の結果如何では、マーケットの関心が金融市場から政治ファクターに移行する可能性には注意したい。経済的には欧州や日本・中国よりも強いマクロ経済指標が続いているものの、政治的分断は深刻で、米国の負の側面に焦点が当たってくると、米国売りが意識される可能性も。
ドル円:米雇用統計は強弱交錯
【今週見通し・戦略】
注目のFOMCで市場予想通り、4会合連続で0.75%の利上げを決定。声明では「金融政策の累積的な引き締め効果、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える際のラグ(遅れ)を検証する」との文言を入れ、いったん利上げペースを緩める可能性を示唆した。ただし、FOMC後のパウエル議長会見で「最終的な金利水準は(FRBの)従来予想より高くなるだろう」と述べ、早期の利上げ停止の検討も否定した事で、米長期金利が4.1%台半ばに上昇し、円売りドル買いが強まった。
英中銀は3日、0.75%の大幅利上げを実施。0.75%の利上げは、1992年の「暗黒の水曜日」を除けば過去33年間で最大規模。英国経済の見通しは非常に厳しいとの認識を示した事で、金利差よりも景気悪化を嫌気して急反落。ポンド売り・ドル買いに振れた事も円安ドル高の一因となった。一方、本邦の介入警戒感や、雇用統計を控えて、様子見ムードから上値も抑えられた。
ゼロコロナ政策緩和期待
10月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比26万1000人増と市場予想(20万5000人増)を上回り、発表直後に円売り・ドル買いが一時的に強まったが、失業率が3.7%と市場予想(3.5%)以上となり、平均時給の伸び鈍化が確認されると、ドル円の戻りは売られた。4日は1日に続き中国政府が新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策を緩和するとの思惑が浮上し、オフショア市場(中国本土以外の市場)で人民元がドルに対して上昇。中国景気の回復期待で、ユーロ買い・ドル売りとなった事も、ドル円の上値抑制要因なった。
財務省が10月31日に発表した9月29~10月27日の為替介入実績は6兆3499億円で、単月の円買い・ドル売り介入として過去最大を更新した。24年ぶりに実施した9月22日分を含めた一連の介入額は9兆1881億円。介入の原資となる外貨準備高は、21年末で1兆4058億ドル(当時の為替レートで約161兆円相当)。他のG7諸国の約4〜13倍。過去最大の為替介入後でも、外貨準備高の高水準に変化はない。(11/1付:マンスリーレポート参照)。
ドル円は、介入で上値が抑えられており、ダブルトップのネックライン(145円)を明確に割り込むと、テクニカル的な売り圧力が高まる。その際に、ポンドやユーロが三角保合いの上限を再度、上抜いてくると、ドル円の頭打ちの信頼性が高まる。
その場合の下値目標は、N=141.99円、V=141.31円。E=138.22円。
金:中央銀行の買いが過去最高
【今週見通し・戦略】
FOMC後に記者会見したパウエル議長は「最終的な金利水準は従来予想より高くなるだろう」と述べ、早期の利上げ停止の検討も否定。米金利上昇・ドル高を受けて、金は売り優勢となり、2020年4月以来の安値を付けたものの、米雇用統計後のドル安で、金の押し目は買われ、急反発となった。
バイデン弾劾の可能性も
米中間選挙後の不透明感もドルを圧迫。共和党が中間選挙で下院の過半数を獲得した場合、バイデン大統領の弾劾動議を出す可能性が嫌気された。トランプ氏を2度にわたって弾劾した下院司法委員会も委員長はジェリー・ナドラー氏(民主)からジム・ジョーダン氏(共和、オハイオ州選出)に交代する。
WGC四半期報告によると、2022年7~9月期に各国の中央銀行が購入した金の量は399トン(約200億ドル相当)と、過去最高となった。中銀による金購入量は1~9月の累計で673トンに達し、第三四半期の段階で、1967年以降の年間購入量をいずれも上回る規模。購入規模の大きい中銀は、トルコ、ウズベキスタン、カタールやインド。中国やロシアなど、購入量を公表していない中銀による金購入も、かなりの規模と推測される。これは、ロシアによるウクライナ侵攻で、米国と欧州が、ロシア中央銀行が世界各国中央銀行に預けている外貨準備を強制的に没収したことが背景だろう。外貨準備をドルや米国債で持つリスクが、G7以外の国々、特にロシアや中国に近い国々に強く意識され、警戒されたのだろう。
新たな冷戦が始まる中、G7以外の中国・ロシア以外にも、アジア・アフリカ・南米諸国の新興国(ロシアが唱える新G8)がドル離れに伴う金購入に動いている流れだ。
欧州通貨が再度、三角保合いのネックラインを上抜いてくると、NY金の底打ち感も高まる。米金利上昇・ドル高で上値が抑えられていたNY金だが、徐々に米国の負の側面(分断・2極化)、覇権・基軸通貨の揺らぎが材料視されてくると、安全資産としての金買いが更に、高まるだろう。押し目買い戦略維持。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。