トランプ政権下における米国金準備の評価替えとFRB・ドル体制への影響分析 | 【公式】日産証券の金投資コラム

トランプ政権下における米国金準備の評価替えとFRB・ドル体制への影響分析

2025年10月20日

 

1. 米国における通貨供給の構造とトランプ政権の不満

米国では、FRBが通貨発行権を持つ一方で、財務省(国家)は基本的に国債発行による資金供給しか行えない。
このため、FRBは金融政策を通じて景気刺激や流動性供給を比較的自由に実行できるが、財務省は高金利下での国債発行は将来の財政赤字拡大に直結するという制約を常に抱える。
この非対称性が、トランプ大統領がFRB議長に対して繰り返し金利引き下げを要請する背景にある。政権は景気刺激策を実行したくても、財政赤字の拡大リスクに縛られるため、金融政策への依存度が高くなる。

2. トランプ政権とFRB人事介入

トランプ大統領がFRB人事に強く介入する姿勢は、表向きには「中央銀行の独立性の毀損」として批判されている。
しかし、その背後には米国特有の構造的な対立が存在する。すなわち、国家(財務省)とFRB株主である民間金融エリート(大手銀行)との力学である。
この二重構造が政策判断に緊張を生じさせてきた。

3. 金準備の起源と金証券の仕組み

金準備の起源と金証券の仕組み
 
米国財務省が保有する金準備は、1933〜34年の金没収政策によって形成された。
ルーズベルト政権は大統領令により国民に金の所有を禁じ、同時に民間銀行(すなわちFRBを含む金融機関)からも金を強制的に引き渡させ、国家が一元的に管理する体制を整えた。
その後、これらの金準備はFRBに「金証券(gold certificate)」として預託されている。この証券は金現物を引き出す権利を持たず、あくまで簿価ベースでの評価を意味する。
現在、財務省の金は1オンスあたり42.22ドルという歴史的に固定された簿価で評価されており、現行の金価格(2025年9月時点で約3,600ドル/オンス)との乖離は極めて大きい。

4. 金評価替えとドル増発の歴史的アナロジー

今年に入り、一部の上院議員の発言やFRBエコノミストのレポートで財務省が所有する金準備の評価替えの可能性が話題になった。
仮に財務省が金評価替えを行えば、その含み益が財務省の資産増加として計上され、FRBはこれを裏付けに新たなドルを供給する必要が生じる。
これは一種の「簿価操作」に見えるが、実態としてはFRBによるドルの増発行為である。
 
歴史的には、1934年のルーズベルト政権が金価格を国民から没収した際に支払った20.67ドルから35ドル/オンスに引き上げた際、財務省の帳簿上の金資産は約1.7倍に増加し、FRBはこれを裏付けにドルを拡張した。
この操作は結果的にドルの希薄化をもたらし、通貨価値を相対的に下げる作用を持った。現在の金価格を3,600ドル/オンスとした場合の再評価でも、同様の効果が発生し、帳簿上の資産増加は巨額であるものの、実質的にはドルの購買力に影響する可能性が高い。

5. 他国との関係とリスク

評価替えが実施されれば、他国の中央銀行や国際金融市場は「米国の金庫に本当にその金現物が存在するのか」を改めて確認しようとする可能性がある。
さらに、過去にFRBに預託した金を自国に返還したいという要求も強まる恐れがある。米国は即時対応できる十分な物理的金保有を主張しているが、全面的な監査や返還要求が集中すれば信認不安につながりかねない。

6. 総合評価

トータルに考えれば、金準備の評価替えは米国財政を帳簿上改善させる「最後の手段」だが、その副作用は大きい。
それでも金準備の評価替えが実行されたとしたら、FRBによるドル増発に直結し、ドルの信認を揺るがすだけでなく、国際金融秩序に波紋を広げることになるだろう。
また、評価替えは金価格の急騰を不可避とし、他国中央銀行や投資家の行動を刺激するため、米国としては極めて慎重に扱わざるを得ない。
 
さらに、仮に現在の時価(約3,600ドル/オンス)で評価替えを行ったとしても、その金準備額は米国の総債務36兆ドルのわずか3%程度に過ぎないため、財政的インパクトは限定的である。したがって、「最後のオプション」として、ドル基盤に対する信認危機が深刻化(国債市場の信頼低下、債務膨張、他国の金・資源通貨化)するなどの時に「制度的安全弁」として検討される可能性はあるものの、実際に実行される可能性は低いと考えられる。

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