金:地政学リスク急浮上で安全資産への買い②|【Weekly Report】週間予定
2025年6月23日
週間展望(6/23~6/29)
このページで知れること(目次)
週間予定
前週:米軍、イラン核施設を直接攻撃
ドル円:140-150円レンジ放れ待ち
金:地政学リスク急浮上で安全資産への買い
【雇用統計】
【CME FED WATCH】
金ETF
週間予定
・FRBブラックアウト明け
次期議長候補として名前が挙がるウォラー理事やボウマン副議長らFRB当局者の講演が相次ぐ
・パウエルFRB議長の半期に1度の議会証言
インフレ再加速警戒、利下げ急がず
・日銀主な意見
6月会合では26年4月から国債購入減額幅を縮小することを決定
・田村日銀委員(タカ派)の講演
6月会合で国債買入減額幅縮小に唯一反対した
・NATO首脳会議
トランプ米大統領が出席予定。ゼレンスキー大統領との会談の有無に注目。
・米国がイランに2週間の猶予
イランの核施設3カ所に攻撃。緊急安保理事会開催。
前週:米軍、イラン核施設を直接攻撃
【核施設攻撃】
トランプ大統領は19日時点でアメリカの直接介入について「2週間以内に決める」との考えを示し、市場も外交的な解決期待の動きを見せていたが、休場中の21日にトランプ大統領がイランの核関連施設への空爆を表明した。週明けの東京市場でもリスク回避が先行して、有事の金買い・株売りで始まりそうだ。
金買い・株売り
トランプ大統領はイランの核放棄を軍事手段でなく、交渉で実現しようとギリギリまで模索(トルコの仲介でイランのペゼシュキアン大統領と会談して打開する案を検討)したものの、イラン側が後ろ向きと判断して空爆に踏み切った。結果的に米国を巻き込みたかったイスラエルによって、引きずり込まれた格好だ。イスラエルは24年には親イラン武装組織ヒズボラを壊滅状態に追い込み、10月のイラン領土空爆で防空システムも破壊。今回、イラン革命防衛隊トップや軍要人を立て続けに殺害し、イランの制空権を掌握する中、地下核施設の破壊という最大の手柄をトランプ氏に渡すことで、米国を引きずり込んだ。
イスラエルの見立て通り、イランに反撃能力がなければ、イスラエルには折れる姿勢を見せれないイランが、米国との戦闘は国内的なメンツが立つ格好で矛を収めやすい。この場合は、リスク回避の動きは限定的だろう。
一方、イランの核開発能力を破壊しきれていなかった場合、既に9発分の核爆弾を生産する能力があるとされ、長期戦への泥沼に入り込むリスクはある。米国・イランの「ダブルスタンダード」を非難する声も大きくなり、原油高に伴うスタグフレーションや、米国の覇権体制の更なる揺らぎを、巻き起こす可能性もあろう。国連安全保障理事会は22日、米国のイラン攻撃を協議する緊急会合を22日午後(日本時間23日未明)に開くと決めた。イランが要請し、理事国のロシアや中国が支持した。
ドル円:140-150円レンジ放れ待ち
【今週見通し・戦略】
ドル円は、イスラエルによるイランへの攻撃を受けて、中東の地政学リスクの高まりから、有事のドル買いの動きが見られる中、米連邦公開市場委員会(FOMC)では、金利引き下げ時期を急がないとの観測から、ドル買いが継続した。
FOMC
FOMC経済見通し(SEP)の02025年末時点の見通しにおいて経済成長率見通しの引き下げ、失業率見通しの引き上げ、物価見通しの引き上げとなった。年末時点での政策金利見通しについては、年内利下げ2回が維持された。市場では1回になるとの見方があったため、FOMC結果発表後に一時144円台前半まで下落。一方、パウエルFRB議長の会見を受けて、下ヒゲを付けて値を戻す格好に。パウエル氏は米経済を取り巻く不確実性は高まったままだとして、関税が与える影響が分かるまで、現行の政策金利を維持することが「適切だ」と改めて主張した。
日銀金融政策決定会合では、政策金利は予想通りに据え置き。2026年4月以降の国債買い入れの減額幅についても、事前予想通り、4000億円から2000億円に減額することが決定。植田日銀総裁は記者会見で、「基調的物価上昇率、上がりつつあるが加速感もって上がっている状況ではない」などと述べ、早期の利上げに慎重姿勢を示したと受け止められたことも円売りの一因となった。
米軍直接攻撃
前週末は、イスラエルとイランの軍事衝突を巡って外交的解決の余地があるとの見方が浮上し、欧州の主要株式相場が上昇し、ドルと並んで買いが入りやすかった円に売りが出た。年初高値を起点とした下降トレンドを上抜いたが、休場中に米軍はイラン核施設を直接攻撃。
140-150円レンジ放れ待ち。いずれかを明確に抜けた方向に大きく動意付きそう。
金:地政学リスク急浮上で安全資産への買い
【今週見通し・戦略
金相場は、トランプ大統領の関税発言や、予想以下のCPI・PPIなどによるドル安、中東の地政学リスクの急浮上で、押し目を買われ、JPX金先限は、上場来高値を更新後、最悪の事態は回避されるのではないかとの観測から上げ一服となった。
上場来高値更新
NY金(8月限)も、価格帯別出来高の厚い3300ドルを中心とした三角保合い上放れになったが、FOMCで、市場の予想通り政策金利の据え置きを決定し、注目された年内の利下げ想定回数も、2回との前回見通しを維持。利下げがやや遠のいたとの見方から、金の上値が抑えられた。
前週末も、外交努力によって中東情勢の緊張が緩和に向かうとの見方から金は売りが優勢だった。米国がイスラエルを支援するためにイラン攻撃を開始すると脅しをかけているが、米ホワイトハウスが最終的に攻撃開始を決定するまでに2週間の猶予を提示したため、緊迫感が後退した。イランのアラグチ外相がジュネーブで英国やドイツ、フランスの当局者と会談したことも、外交的な解決の可能性が残されていることを示唆し、安全資産としての金を圧迫した。ただ、イランはイスラエルが攻撃を停止するならば米国と対話する可能性があるが、イスラエルは攻撃を継続する構えに変化はない。
米軍攻撃
中東の大国であるイランが本当に潰れると、中東全体が不安定になる。イスラエルにとっても、当面の間は、自国への脅威が取り除かれた格好で、ガザ攻撃(ハマス壊滅)を認めさせる代わりに、イランへの矛を収める可能性が、メインシナリオと思われていたが、サブシナリオだった米軍のイランへの直接攻撃が行われたことで、今後のイランの反応が焦点。イランにとっては、イスラエルに対して折れることはできないが、米国との戦いということなら、国内的には交渉の余地は出てくる。米国もイランのレジームチェンジを第一目標としていないと思われ、交渉の行方が焦点。長期戦にもつれ込むようなら金にとっては、強い支持要因となりそう。
【雇用統計】
【CME FED WATCH】
金ETF
この記事の監修者

東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。