Monthly Report 2023年11月 | 【公式】日産証券の金投資コラム

Monthly Report 2023年11月

NSトレーディング 菊川弘之
2023年11月1日

~11月1日~11月30日 ~

ドル円:介入後の値動きに注意
ドル円(長期)・2022年介入実績・ドル円(日足)

11月騰落率(ドル円)

【今月見通し・戦略】

ドル円は10月末に、一時は151円74銭と2022年10月以来の高値を付けた。日銀金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を再修正したが、市場の想定に比べて慎重な変更にとどまったと受け止められ、円売り・ドル買いが加速。日本の財務省が10月31日に発表した10月の為替介入実績はゼロだった。日本政府・日銀による円買い介入への警戒感が緩んだのも円売りドル買いの一因となった。


米FRB(連邦準備制度理事会)の利上げが最終局面にあるとみられる中、10月31日-11月1日のFOMCでは、利上げが見送りが市場ンセンサス。12月FOMCでの利上げの有無に関して、何らかのヒントが出るのか否かが注目。日本の連休中(文化の日)には、米雇用統計の発表や、ブリンケン米国務長官のイスラエル訪問があり、投機的な仕掛けなどから、円安ドル高方向に振れた場合は、本邦当局による介入が実施される可能性。心理的節目155円を超えてくると、30年近いボックス相場の上放れとなり、円安ドル高が加速する可能性があり、このラインは死守する姿勢を見せると考える。


ドル売り円買い介入の場合、外貨準備のドルを取り崩して、円を購入する。財務省が発表した外貨準備を見ると、預金はそのほとんどが米ドルと想定され、約20兆円相当の規模。これを使うなら、米国が嫌がる米国債売却を行わず、介入できる。昨年度と同じ規模(3回:9兆1880億円)なら、積極的な米国債売却を行わず、3~4回の介入は可能な状況だ。介入による時間稼ぎはできる環境だ。


米連邦議会下院は10月25日、新しい議長に野党・共和党のマイク・ジョンソン氏を選出した。9月末に成立したつなぎ予算は11月中旬までしか予算執行を継続できないため、政府閉鎖の一部閉鎖や米国債の格下げ観測などがドルの上値を抑える可能性も。


過去の季節傾向では、11月はドル買い有利な時間帯(33戦20勝13敗)。



~ドル円・CFTC建玉明細~


【ドル円(長期)】

ドル円相場の推移


【2022年介入実績】

2022年介入実績


【ドル円200日移動平均線】

ドル円(日足)



金:円建て金の優位性が継続
人道的休戦決議案・11月騰落率(円建て金)・NY金・10年債

10月騰落率(NY金)

【今月見通し・戦略】

国連総会は10月27日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突をめぐる緊急特別会合で、人道回廊の設置や「人道的休戦」を求める決議案を採択した。採択に必要な投票全体(賛否のみ)の3分の2以上にあたる121ヶ国が賛成した。反対は米国やイスラエルなど14ヶ国だけ。日本、英国、カナダなど44ヶ国は棄権した。


この決議には法的拘束力はなく、パレスチナ・ガザ地区の複数地点でイスラエル軍による激しい攻撃が始まっている。イスラエルのネタニヤフ首相は10月30日、イスラム組織ハマスとの停戦はないと断言し、徹底掃討の考えを改めて強調。停戦は「ハマスやテロへの降伏だ」と主張。ハマスとの戦争が「第2段階」に入ったと宣言した。


死傷者数を比較すれば一目瞭然にパレスチナ側の被害が大きい。今回の国連緊急決特別会合を見ても分かるよう、世界の多数意見は、西側先進国ではないことが証明されてきている。これまでの英米のダブルスタンダードの弊害が噴出してきた格好だ。イスラエル並びに、これを支援している米国に対して、距離を置く国が増えているということは、米国の覇権、基軸通貨ドルの揺らぎに繋がるだろう。


地政学リスクの高まりに加えて、米議会でつなぎ予算案が可決、下院議長も決まったものの、11月17日までの暫定予算であり、年内に政府機関が一部閉鎖される可能性が高く、米債務残高急増で格下げリスクもあることが、米金利上昇が金売りに繋がっていない背景だ。


円建て金の優位性も継続している。1万円が上値抵抗から下値支持線に変わっており、上値を試す流れが継続しそうだ。


11月の月間騰落率も、ドル建て金よりも円建て金の方が、買い方優勢となっている。



~各通貨建て金価格・内外金・NY金&10年債~


【人道的休戦決議案】

人道的休戦決議案


【11月騰落率(円建て金)】

11月騰落率(円建て金)


【NY金&米10年債】

NY金(月足)と米10年債利回り



11月注目スケジュール:
FOMCC・米政府機関一部閉鎖の可能性・中東情勢

11月注目スケジュール


米国では、金融引き締めの長期化や財政悪化への懸念などから、10月に10年物国債利回りが約16年ぶりに一時5%を超えた。足元の長期金利上昇を受けて、追加利上げの必要性が低下するとの観測から、10月31日~11月1日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利が据え置かれるとの予想が優勢。


ただし、UAW(全米自動車労働組合)によるストライキの影響や賃上げ合意の行方、中東地域での地政学リスクの高まりなどから、米インフレの高止まりが意識される可能性もあり、12月の利上げの有無をFRB(連邦準備制度理事会)が、どのように判断・示唆するするのかが注目。


中国では11月1日に独身の日セールスが行われるが、アリババなどは、かつての煽るようなリアルタイムでの売り上げ公表は見送る模様。

米国では、11月24日のブラックフライデーから年末商戦が始まる。小売売上高が増加基調となっているものの、家計貯蓄の大幅減少や、学生ローンの返済再開やインフレなどの影響が懸念されている。

この記事の監修者

菊川弘之

東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社

日産証券インベストメント株式会社

取締役 菊川 弘之

NY大学留学。その間GelberGroup社、FutureTruth社などでトレーニーを経験。
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。

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