ふたつのFRBとアメリカの金準備
このページで知れること(目次)
一つ目のFRB:連邦準備理事会(Federal Reserve Board=FRB)
二つ目のFRB:連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)
連邦公開市場委員会(FOMC)
金準備について
今後アメリカ政府が金準備を変更したら?
「アメリカの中央銀行にあたるFRBのパウエル議長はこの日の議会証言で・・・」、ニュース番組などでこのように紹介されるアメリカの金融当局「FRB」とは?今回は、世界の基軸通貨アメリカ・ドルの国、アメリカ合衆国の中央銀行にあたるFRBを金市場との関わりを交えて紹介します。
まず、最初に、アメリカには日本の日本銀行のような国内すべてを統括する中央銀行は存在しません。ですから冒頭のニュースでも「アメリカの中央銀行の」とは言わず「アメリカの中央銀行にあたる」と表現したのです。
アメリカでは中央銀行に代わり、連邦準備制度(Federal Reserve System=FRS)という制度のもと、連邦準備理事会(Federal Reserve Board=FRB)と、全米の12地区に分かれた地区連邦準備銀行(12 Federal Reserve Banks=FRB)という二つのFRBが、連邦公開市場委員会(FOMC)という日本銀行でいうところの「金融政策決定会合」と同じ役割をする会議を開催し米国の金融政策の決定行っています。
一つ目のFRB:
連邦準備理事会(Federal Reserve Board=FRB)
連邦準備理事会は連邦準備制度(Federal Reserve System=FRS)の中枢機関です。ワシントンD.C.にあり、7名のFRB理事で構成され、理事の中からFRB議長と二人の副議長が選任されます。
連邦準備理事会は連邦議会のもとにある政府機関であり、全国の地区連邦準備銀行(Federal Reserve Banks=FRB)を統括しています。冒頭のパウエル議長はこのFRBの議長です。
二つ目のFRB:
連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)
二つ目のFRB、連邦準備銀行は連邦準備理事会と混同しないように日本では個別では「○○連銀」、総称では「地区連銀」と呼ばれたりします。
市中銀行の監督と規制など、公開市場操作以外の連邦準備制度の業務を行い、また連邦準備券(ドル紙幣)の発行を行います。
また、連邦準備理事会が政府機関であるのに対し、地区連銀は株式を発行する法人であり、合衆国政府は連邦準備銀行の株式を所有せず、各連銀によって管轄される個別金融機関が出資(=株式の所有)義務を負っています。
したがって、連銀は政府機関のFRBと違い民間組織です。FRBのホームページのドメインの最後は「.gov」で終わっていますが、各連銀のホームページのドメインの最後は「.org」で終わっていることからも連銀が政府機関ではないということがわかります。
連邦公開市場委員会(FOMC)
FRBが定期的に開催する会合で、FRB理事7人のほかにニューヨーク連銀総裁が常任メンバーに、その他の地区連銀総裁が持ち回りで4人がメンバーとなり議決権を持ちます。他の地区連銀総裁は議論に参加はしますが議決権はありません。
FOMCは年に8回開催され、現在の景況判断や政策金利(FF金利)の方針が発表されます。その結果は世界の金融マーケットに大きな影響を及ぼします。世界で最も注目される金融会議の一つです。
金準備について
さて、ここからは米国の金準備に絡めたお話をしていきます。現在、アメリカは8133.5トンの金準備を保有しています。2位のドイツ3354.9トン、3位IMFの2814トン、4位イタリア2451.8トンなどと比較して他国を圧倒しています。金準備はIMFなどの国際機関を除くとそれぞれの国の外貨準備の一部と考えられています。外貨準備とは通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産です。
少し歴史の話になりますが、現在の米国の連邦準備制度は1913年に創設されました。その際に銀行は融資残高の少なくとも40%を金で保持しなければならないという条項が盛り込まれました。12の地区連銀が設立された時期を同じくして第一次世界大戦が勃発、米国が同盟国に巨額の資金を融資し連邦支出が膨らむ一方、ヨーロッパの金が地区連銀の金庫に流れ込みました。このころからドルが英国ポンドに代わる実質的な基軸通貨となり始めたのです。
戦後米国経済は急成長しましたが、やがてバブルがはじけ、大恐慌が世界を襲い、米国ではその対応として1933年に当時のルーズベルト大統領が「大統領令6102」を発布。米国本土内での金貨、金地金および金証書の貯蔵が禁止されました。大統領令 6102 では、すべての人が 1933 年 5 月 1 日までに、所有する金貨、金地金、金証書を、一部例外を除いてすべて、20.67 ドル (2022 年の 467 ドルに相当) と引き換えに連邦準備制度に引き渡すことが義務付けられたのです。その後、 1934 年の金準備法により、米ドルの法定金か価格が 1 オンスあたり 20.67 ドルから 35 ドルに変更されたのですが、同時に金はすべて財務省が保有することとなりました。
各地区連銀も自らが金を保有することはできず、財務省に徴収されることとなりました。しかし、二つ目のFRBで説明した通り、各地区連銀は民間組織です。合衆国憲法(修正第5条)の中で、「正当な賠償なしに、私有財産を公共の用途のために徴収されることはない」との文言があり、合衆国政府はこれに抵触しないために各地区連銀に金証書を発行しました。その数量はおよそ8000トン強あります。この金証書は各地区連銀に財務省から自由に金を引き出すことは認めておらず、形式上のものに過ぎないとも言えなくもないのですが、各地区連銀が所有していた金が財務省に預けられているということには変わりなく、仮にある地区連銀が激しい財政危機に見舞われた際には、連邦政府はこの金を原資にその地区連銀を救済に動くという意味がこの金証書には含まれていると考えられます。現在でもFRBまた、各地区連銀の財務諸表にはこの数字を確認することができます。(現在の金証書の総量は8130.6トン、簿価は1973年に1トロイオンス当たり42.222ドルに見直されたきり変更はされていません)
金準備法による米ドルの金の法定価格引き上げは海外からの金流入を呼び込み、また、その後の第二次世界大戦で再びヨーロッパからの戦費捻出ための金流入で米国の金準備量は増加の一途をたどり、1944年にブレトンウッズ体制が築かれ、アメリカ・ドルが名実ともに世界の基軸通貨となりましたが、その頃にはアメリカの金準備高は2万トンを超え、世界全体の金準備高の三分の二が米国に集中していました。
その後1950年~1971年(ニクソンショック)の間に貿易相手国からの金兌換請求により、米国の金準備は1万1000トン流出しました。その後、1974年~1980年の間にインフレ抑制のためにさらに1000トン流出しましたが、アメリカ政府による金現物を使う政策はピタリと停止され、以降40年以上2023年の現在までアメリカ政府による金売却はほとんど行われていません。
地区連銀は民間銀行に所有されている(株主)法人、その地区連銀が所有する金証書の総量は8130.6トンです。現在のアメリカの金準備量は前述のとおり世界最大の8133.5トンとはいえ、アメリカ政府にはもう売却可能な金現物はないのかもしれません。そのように考えると、世界の金準備ランキングの見え方も違ったものになりそうです。
今後アメリカ政府が金準備を変更したら?
再びインフレ高進に見舞われるなどにより、財務省は金準備を売却したら
売却規模によっては一時的に金価格を下げる要因になりそうですが、地区連銀の財産が一部毀損されることによる米ドルへの信用不安や、現在金準備を増やしている中国、ロシアをはじめとした新興国との保有高接近によってドル安につながりかねず、次第にドル建て金価格の上昇要因になるのではないでしょうか。
新興国に対抗して金準備積み増しを拡大したら
アメリカ・ドル売り金買いをアメリカ自ら行うことになること、アメリカの外貨準備内の他の通貨を用いて金を買えば、外貨準備内での金の重要性を一段と高めることを示すことになること、何より先進国であるアメリカと新興国の金買い競争になることから金価格は上昇しそうです。
つまり、アメリカが現在の金準備を変更した場合、減らしても増やしても金価格にはポジティブに働きそうです。現実的には米国は金準備については、現在世界最大規模の保有国でありながら、自らの金現物を使っての政策手段は極めて限られており、売りも買いもできない資産と言えるかもしれません。