日本の値段は、もう日本人だけでは決められない

2026年版のビッグマック指数を見ると、日本のビッグマック価格は主要先進国の中でも依然として安い水準にある。



しかし同じ給与をスイスの物価に当てはめると317個しか購入できない。
日本人の生活水準が直ちに低いという意味ではない。
日本人の「国際購買力」が大きく低下していることを示している。
かつて「世界一物価の高い国」と言われた日本は、今では海外旅行者から「品質は高いのに驚くほど安い国」と評価されるようになった。
しかし、この変化は単なる円安だけでは説明できない。
私たちが本当に注目すべきなのは、日本の価格決定権が少しずつ国内から世界へ移り始めていることではないだろうか。
かつて日本の価格は、日本人の所得、日本人の需要、日本企業同士の競争によって決まっていた。しかし現在では、その構図が変わりつつある。
京都のホテルや高級旅館、ニセコのリゾート、人気寿司店や高級和食店では、日本人だけではなく海外からの旅行者が価格形成に大きな影響を与えている。日本人にとっては高く感じる価格でも、海外の所得水準から見れば依然として「安い日本」なのである。
この現象は飲食や宿泊業だけにとどまらない。
エネルギーや食料、ブランド品、電子機器など、多くの商品はすでに世界価格で取引されている。価格決定権の変化は、人材市場にも及ぶ。高級飲食店、ホテル、富裕層向けベビーシッター、国際教育など、高単価のサービスを提供できる分野では、より高い賃金を提示しやすい。その結果、低価格を前提とする既存のサービス業は、人材流出や賃上げ圧力に直面する。国際価格に近い市場が、国内価格で運営されてきた市場にも影響を及ぼし始めているのである。
もちろん、すべての商品やサービスが国際価格になるわけではない。公共料金や地域密着型サービスなど、日本人の所得や制度によって決まる価格も数多く残る。
それでも、日本人が生活の中で接する価格のうち、世界市場の影響を受けるものは着実に増えている。
つまり、日本では「価格決定権が世界へ移る時代」が静かに始まっているのである。
そう考えると、資産の持ち方も見直す必要がある。
多くの人は円預金を「安全で、何も投資していない状態」と考えている。しかし、円だけを保有することも、日本円という一つの通貨に資産を集中させるという投資判断である。
これから重要になるのは、円高になるか円安になるかを予想することではない。
日本国内だけで価値が決まる資産と、世界市場で価値が決まる資産をどう組み合わせるかという視点である。

その代表的な資産が金だ。
金はロンドン、ニューヨーク、上海など世界市場で価格が形成される。価格は変動するものの、特定の国や通貨だけに依存しない数少ない資産である。
だからこそ、金を保有する意味は「価格が上がることを期待する」だけではない。
世界の購買力を、自らの資産の一部として保有することにある。
円安は、単なる為替の問題ではない。
それは、日本の価格決定権が国内から世界へ移る時代の始まりなのかもしれない。
その変化を理解することが、これからの資産形成を考える第一歩になるだろう。

