Weekly Report 2023年5月8日(月)
2023年5月8日
週間展望(5/8~5/14)
このページで知れること(目次)
週間予定:米債務上限問題に関する会合、ワグナル撤退、G7財務省会合
前週Review:GW中の値動き・イベント
ドル円:200日移動平均線が上値抵抗
金:主要中央銀行、第一四半期に過去最大の金購入
【米雇用統計】
【ADP&米雇用統計(非農業者雇用者数)】
金ETF
週間予定:米債務上限問題に関する会合、ワグナル撤退、G7財務省会合
GW中の米連邦公開市場委員会(FOMC)、欧州中央銀行(ECB)、米雇用統計などを大きな波乱なく無難に通過し、今週は、バイデン大統領が要請した共和党のマッカーシー下院議長ら議会指導部との9日に予定されている会談が注目。
米財務省は1日、連邦債務上限が引き上げられなければ、早ければ6月1日にも政府の債務支払いを履行できなくなる恐れがあるとの見通しを示した。
パウエル議長もFOMC後の会見で、米債務上限問題について、引き上げに失敗した場合にはFRBがその影響から米経済を守れる可能性は低く、米政府は全ての支払いができない状態になるべきではないと強調。債務上限問題の解決は議会およびバイデン政権の問題だとし、米債務不履行(デフォルト)は前例がなく、米経済に極めて大きな不確実性と多様な結果をもたらすと警告した。
欧州の主要格付け会社スコープ・レーティングスは5日、「AA」としている米国の現地通貨・外貨建て長期発行体および無担保優先債務格付けを格下げ方向で見直すと発表。債務上限制度の乱用に関連する長期的なリスクが理由とした。政治的分断の深まりや昨年11月の中間選挙以降のねじれ議会、今後数年の財政赤字拡大見通しなども格付け見直しの理由に挙げた。
前週Review:GW中の値動き・イベント
【FOMC・ECB理事会】
米連邦準備理事会(FRB)は5月2─3日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%とした。決定は全会一致。また、利上げ停止の可能性を示唆した。
利上げは2022年3月以降で10回連続。ただ、声明からは「徐々にインフレ率を2%に戻すのに十分な制限的な金融政策姿勢を達成するために、幾分の追加的な金融政策引き締めが適切になるかもしれないと予想する」との文言が削除された。 代わりに2006年の利上げ停止時に使われた文言を彷彿させる表現を使用。「追加の金融引き締めがどの程度適切かを判断する上で」当局は今後数週間から数カ月間の経済、インフレ、金融市場の動向を注視するとした。もっとも新たな文言は6月の次回FOMCでの金利据え置きを保証するものではなく、声明では「インフレ率は引き続き高止まりしている」や、雇用の伸びは依然として「堅調なペースで進んでいる」と指摘。パウエルFRB議長の記者会見でも、「金融引き締めが正当化される場合には、その用意がある」などと述べ、6月以降の利上げ動向は不透明。
欧米で今後の利上げに温度差も
欧州中央銀行(ECB)理事会で、0.25%ポイントの利上げを決定した。利上げ幅はこれまでの0.5%ポイントから縮小したものの、ラガルド総裁は理事会後の会見で、インフレ抑制に向け利上げを「停止しない」と強調した。 さらに、インフレ率をECBの目標である2%まで低下させるために金利はまだ「十分に制約的」でないとし、今後2回以上の追加利上げが実施される可能性を示唆した。また、3兆2000億ユーロ規模の資産購入プログラムに関し、満期償還資金の再投資を7月から停止すると発表。ラガルド総裁は、米連邦準備理事会(FRB)が利上げ停止に動けば、ECBもそれに追随するという見方を否定し、ECBは「FRBに左右されない」と言明した。
4月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は25万3000人増加で、事前予想(18万人増)を大幅に上回った。失業率は3.5%から3.4%に低下。
ドル円:200日移動平均線が上値抵抗
【今週見通し・戦略】
GW前の植田新体制初の日銀金融政策決定会合の発表が、やや遅れた事もあり、何らかの出口戦略に向けた動きが示されることを予想する向きもあり、様子見ムードで狭いレンジ相場が続いていたが、大規模な金融緩和策の維持決定。イールドカーブコントロール(YCC)の修正は見送った事で、円安ドル高が進行した。
1990年代後半以降の金融緩和策について、1年から1年半をかけて検証を行うと新たに発表され、緩和継続が長期化するとの思惑が強まった。
パターン分析では、ダブルボトムのネックラインを再度、上抜き、リターンムーブからの反発パターン。三角保合い上放れでもあり、200日移動平均線を上抜き、一目均衡表からの上値目標値である、V=137.3円、N=137.48円などを達成した。4月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況指数が市場予想を上回り、米長期金利が上昇。日米金利差が拡大したことも一因。
米連邦公開市場委員会(FOMC)では市場の想定通り0.25%の利上げが決まったが、パウエルFRB議長は記者会見で根強いインフレに警戒感を示した。米中堅銀行の経営破綻が広がるとの懸念や、銀行が流動性確保のために貸し出しを渋り、米景気の冷え込みにつながるとの見方や、米債務上限問題が円買い・ドル売りを促した。欧州中央銀行(ECB)の利上げ継続観測を背景にユーロ買い・ドル売りが優勢だった事も、ドル円の上値を抑え、200日移動平均線が上値抵抗として機能した。ただ、ECBは0.50%から0.25%へ利上げペースを減速させた。ラガルドECB総裁は今回の決定で、政策金利を十分に制限的な水準に引き上げたとの認識を示した。
債務上限問題が今後の波乱要因
前週末に発表された米雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比25万3000人増と市場予想(18万人増)を上回った。平均時給の伸びも市場予想以上で、米景気の過度な先行き不安が後退した。米長期金利が上昇し、日米金利差が拡大した。3月安値を起点とした上昇トレンドに支えられた。三角保合い放れ待ちとなっており、いずれの方向に放れるのかかが焦点。米財務省は5月1日、連邦債務上限が引き上げられなければ、早ければ6月1日にも政府の債務支払いを履行できなくなる恐れがあるとの見通しを示している。
金:主要中央銀行、第一四半期に過去最大の金購入
【今週見通し・戦略】
米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文で「追加の引き締めが適切」とした前回の表現を修正した上で、「(FRBの)政策目標の達成に妨げとなるようなリスクが顕在化すれば、金融政策運営のスタンスを適切に調整する用意がある」と記した。6月以降の利上げ停止の可能性が示唆されると、一時、2085.4ドルまで上昇し、20年8月に付けた中心限月としての過去最高値(2089ドル)に迫った。
その後、パウエルFRB議長の記者会見で、「金融引き締めが正当化される場合にはその用意がある」などと述べた事で、タカ派的と受け止められ、ドル安が一服。利益確定売りも出やすかった中、4月の米雇用統計が強気の数字となり、早期の米利下げ期待が後退し、米10年債利回りが上昇、ドルが買い戻されたことで下げ幅を拡大した。ただし、前半で売りが一巡となり、中盤から後半はドルが反落となり、下値を切り上げた。 2000ドルが支持線となり、テクニカルからも底堅さを示した。三尊天井の可能性は後退、ダブルトップ完成には、1980ドル水準(チャート・緑線)を明確に割り込む必要がある。JPX金は三角保合いを上放れ、調整を入れながら上昇トレンドは継続している。8500円水準が新たな下値線に変化中。
バイデン大統領は共和党のマッカーシー下院議長ら議会指導部と、米債務上限問題について9日の会談を要請した。「下院議員1人のみで議長の不信任決議の手続きを開始できる」ことを受け入れたマッカーシー下院議長に妥協の余地はない。チキンレースにより、2011年8月のような米債格下げショックが訪れるリスクは残ったままだ。金の押し目買い基調に何ら変化はない。値頃感無用で。
中銀購入続く
WGCによると、2023年1-3月に、主要中央銀行は計228トンの金を購入した。これは、第1四半期としては、比較可能な統計がある2000年以降では過去最大。これまでの最多記録だった2013年よりも34%多い。最も多くの金を購入したのは、シンガポール金融管理局(MAS)。69トンを購入し、保有する金の量を昨年6月の約1.5倍に増加させた。2位には58トンを購入した中国人民銀行、3位には30トンのトルコが続いた。
米雇用統計
ADP&米雇用統計(非農業者雇用者数)
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。