Weekly Report 2023年1月23日(月)
2023年1月23日
週間展望(1/23~1/29)
このページで知れること(目次)
週間予定:米GDP
前週Review:消費者物価、41年ぶり上げ幅
ドル円:日銀大規模緩和策の追加修正に動かず
金:米金利低下・NY金上昇が強化される流れ
金ETF
週間予定:米GDP
今週の注目は、米第4四半期GDP速報値。これまでの大幅利上げから、2023年はリセッション(景気後退)に陥る可能性が警戒されている中、市場予想は前期比年率+2.6%と、3四半期GDP確報値の+3.2%よりは伸びが鈍化もプラス成長見通し。
2022年は第1四半期が-1.6% 、第2四半期が-0.6%と2四半期連続でのマイナス成長となり、テクニカルリセッションとなっている。回復が見られた第3四半期は速報時点で+2.6%と今回の第4四半期の市場予想値と同じ。
個人消費動向を示す小売売上高は11月、12月と前月比マイナスとなっており、売り上げ減が示されており、個人消費の数字には要注意。
バイデン副大統領時代に続き、上院議員時代の機密文書隠匿が発覚。CNN番組(1/22)で、民主党序列2位の上院議員ディック・ダービンは「バイデン の機密文書管理の杜撰さは”受け入れ難く”有利な立場を喪失」と非難。
民主党幹部のバイデン 降しが始まった可能性もあり、債務上限問題と合わせて米議会の動きにも注意したい。
前週Review:消費者物価、41年ぶり上げ幅
【消費者物価指数】
2022年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.1となり、前年同月比で4.0%上昇。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年12月(4.0%)以来、41年ぶりの上昇率となった。
22年通年は生鮮食品を除く総合で102.1となり、前年比2.3%上がった。上昇は22年12月まで16ヶ月連続。4.0%という伸び率は消費税の導入時や税率引き上げ時を上回り、日銀の物価上昇目標2%の2倍に達した。
エネルギーや食料など生活に欠かせない品目で値上がりが続いている。品目別に上昇率を見ると、エネルギー関連が15.2%で全体を押し上げた。15ヶ月連続で2桁の伸び。都市ガス代は33.3%、電気代は21.3%上がった。
生鮮を除く食料の上昇率は7.4%で、76年8月(7.6%)以来46年4ヶ月ぶりの水準に達した。食料全体は7.0%。
今回のCPIを財とサービスに分けると、輸入物価の影響を受けやすい財が+7.1%に対して、サービス業の人件費と関係が深いサービスが+0.8%。対して41年前の1981年12月では、財+4.3%に対してサービスが+4.7%上昇しており、ディマンドプルの要素も混じったバランスの取れたインフレであった。
コストプッシュ型
今回のインフレが41年前に比べて、コストプッシュの要因が大きいことが分かる。
過去最大の貿易赤字
財務省が19日発表した2022年の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字。赤字幅は14年の12兆8161億円を上回り、比較可能な1979年以降、年間で過去最大。赤字は2年連続となった。
ドル円:日銀大規模緩和策の追加修正に動かず
【今週見通し・戦略】
市場の一部には、日銀金融政策決定会合で、変動幅を再拡大するのではないかとの思惑が高まったが、大規模緩和政策の変更はなく127円台から131円台まで急伸。2022年1月安値~2022年10月高値までの上昇に対する61.8%押しで下支えられた格好となった。ただ、2022年10月高値を起点とした下降チャネル上限に上値を反落。
前週末には黒田日銀総裁が、ダボス会議で「現在の極めて緩和的な金融政策を継続する」との考えを示したと伝わった。日本のインフレが加速する中でも「当面は政策修正に動かない可能性」が意識され、円売り・ドル買いが優勢になった。
ドル円は、1998年8月高値と2022年10月高値を重ね合わせると、自己相似(フラクタル)の強い値動きを取っている。98年の際は、天井を付けた後、95年安値~98年高値までの上昇に対する半値押しで支えられ自律反発、その後、保合いを経て戻りを売られて61.8%押しまで続落した。今回も2021年1月安値~2021年10月高値までの上昇に対する半値押し(127.25円)を達成。125円水準は、「黒田シーリング(2015年にかけての円安局面において牽制した)」でもあり、一旦は、売り方の買戻しとしては意識されやすい水準だ。
日柄経過と共に売り方優勢に
一目均衡表では、2021年1月安値~2021年10月高値までの上昇に対する半値押し(127.25円)~雲の下限で下支えられているものの、現在の値位置で日柄が経過すると、雲の中から雲の下(弱気の時代)へ落ち込むことになる。(1/19付:「日銀金融政策決定会合を受けたドル円」参照)
米連邦債務が19日、31兆4000億ドルの上限に到達した。6月5日までの「債務発行停止期間」を設け、一部の公的年金基金への投資を停止するが、議会で債務上限引き上げ合意がなければ、数カ月以内に財政危機を招く恐れがあることは、ドルの売り要因。
金:米金利低下・NY金上昇が強化される流れ
【今週見通し・戦略】
「利上げ停止時期」の見方は分かれているものの、過去の例では利上げ終了前に先行して「米金利は頭打ち・NY金は底打ち」となっている。
CME FEDウォッチでは、次回1月31~2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%の利上げ確率は97%前後となっている。
景気後退となっても、インフレ鎮静化でソフト・ランディングになるとの期待(シナリオ)がマーケットでは高まっているが、金が買われているのは、ソフト・ランディングシナリオではなく、ハード・ランディングシナリオに備えてかもしれない。
欧州でのエネルギー在庫積み増しに加え、欧州暖冬傾向で、ロシアのウクライナ侵攻で懸念された石油・穀物供給ショックは、現実のものとならず、原油も小麦相場も、ロシアによるウクライナ侵攻前の水準にまで、2022年高値から反落している。ただし、ウクライナ戦争の山場は、今年2回想定される。一度目は、4~5月。冬に備えていたウクライナの食糧備蓄が今春には尽きる。西側連合が食糧支援を行うものの、西側の穀物在庫も適正水準を下回る状況だ。2度目は11~12月。今冬、ドイツは十分に天然ガスを備蓄することができたが、ロシアからの天然ガス供給が途絶えた状況から来冬の備蓄には不安がある。
季節変動とウクライナ戦争の山場が重なる
原油市場と穀物市場は、値動きの季節傾向がはっきりとしている銘柄だ。2023年は、季節的な値動きパターンとウクライナ戦争の山場が重なりやすくなっており、足元で落ち着きを見せているインフレ動向が一変するリスク、すなわちインフレ再燃と景気後退が同時に起こるスタグフレーション(ハードランディング・シナリオ)を見据えた金買いが起きている可能性も。また、債務上限問題を含め、ねじれ議会でバイデン政権運営が困難になることや、ハンター・バイデン問題やメキシコ国境問題を含めた追及が高まり、米国の悪い側面(ドル売り)が焦点となったり、内向き姿勢が高まる、もしくは、内政問題を地政学リスクに転化させるような展開も懸念されていることが、金買いに繋がっている感触だ。短期的な買われ過ぎ感に対する調整があっても、押し目買い基調に変化は出ないだろう。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。