Weekly Report 2022年12月12日(月)
2022年12月12日
週間展望(12/12~12/18)
このページで知れること(目次)
週間予定:米CPI・FOMC、停戦協議の行方に注目
前週Review:国際秩序の再編
ドル円:ターミナルレートを探る展開
金:200日移動平均線を上抜くと強気感増す
金ETF
週間予定:米CPI・FOMC、停戦協議の行方に注目
米連邦公 開市場委員会(FOMC)直前の13日(日本時間13日22時半)に、11月の米消費者物価指数(CPI)が発表される。
事前予想は前年比7.3%、食品とエネルギーを除いたコアの前年比6.1%と10月の7.7% 、6.3%から鈍化見込み。10月から11月にかけて米ガソリン小売価格が 3.5%低下しており、インフレ伸び 鈍化が期待されている。エネルギー価格の落ち着きは輸送コストなどを通じ、広い範囲での物価を抑える。
事前予想を上回るインフレ鈍化なら、FOMC前に0.5%利上げを織り込む動きも想定される。既に、原油も小麦もロシアがウクライナに侵攻した前の水準にまで値を下げている。
11月15日の北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドへの着弾事件によって、「ゼレンスキー大統領自身が、ウクラウイナ戦争を第三次世界大戦に拡大するリスクである」との認識が西側の政治エリートの間で広がり、ゼレンスキー大統領抜きで、停戦協議の開始を探る動きが見られ始めている事も原油市場の下落の一因だ。
一方、停戦を拒む勢力もあり、偶発的な事故が起きる可能性にも注意したい。一時期、直接交渉が皆無となった米ロだが、足元は担当者間の直接交渉は密に行われ、不測の事態の回避に努めている模様。
前週Review:国際秩序の再編
【停戦を探る動き】
11月15日の北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドへの着弾事件によって、「ゼレンスキー大統領自身が、ウクラウイナ戦争を第三次世界大戦に拡大するリスクである」との認識が西側の政治エリートの間で広がる中、欧州大戦・世界大戦にはさせないと言う各国の強い意志が示され、停戦協議の開始を探る動きが見られ始めている。
ロシアのペスコフ大統領報道官は12月2日、停戦に向けた米国との交渉の可能性について「国益を確保するためならプーチン大統領はこれまでも、そして今も交渉に応じられる」と述べた。バイデン米大統領が12月1日、マクロン仏大統領との会談後の共同記者会見で、プーチン氏が戦争終結に関心を示せば「北大西洋条約機構(NATO)と相談し、プーチン氏と話をする用意がある」と述べたのに反応した格好だ。
そのマクロン大統領は12月4日、ロシアがウクライナ戦争終結に向けた協議に合意した場合、西側諸国はロシアの安全保障の必要性を考慮すべきとコメントしている。このマクロン大統領発言に対して、ウクライナや、ロシアと国境を接する一部のバルト諸国は強く反発。12月5日には、モスクワ近郊のリャザン州と西部サラトフ州にある計2ヶ所の空軍基地がウクライナと見られるドローン(無人機)による攻撃を受けた。2014年から続く東部紛争の停戦と和平への道筋を示した「ミンスク合意」が破られたのがウクライナ東部へのドローン攻撃だったこともあり、緊張感が高まった。
米国務省のプライス報道官は6日、米国はウクライナに対し国境を越えた攻撃を可能にしておらず、奨励もしていないと述べ、不測の事態を回避し停戦協議を進めようとする動きを示した。8日にはロシアで麻薬密輸などの罪で実刑判決を受け、収監されていた米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グライナー選手が釈放されるなど、米国とロシア間のホットラインは機能していることを示す一方、ゼレンスキー大統領は、徹底抗戦の構えを崩しておらず、米国がコントロールできない偶発的な衝突が起きるリスクは残ったままだ。プーチン大統領も9日、敵の武装解除を目的とした先制核攻撃ができるよう軍事ドクトリンを変更する可能性を示唆した。
新冷戦
また、習近平国家主席が12月8日にサウジアラビアを国賓として訪問。中国とアラブ諸国の首脳会議、中国と湾岸協力会議(GCC)との会合が開かれ、産油国と中国の関係が強化される流れとなっている。新たな国際秩序を形成する動きが急速に進んでいる。
ドル円:ターミナルレートを探る展開
【今週見通し・戦略】
ドル円は、雇用統計やISM非製造業景況指数が予想外に強含んだことに加えて、中国がゼロコロナ政策の緩和措置を発表したことで、ドル買いにつながったものの、ドルの戻りは限定的。次週に米FOMCと米消費者物価指数、ECB理事会と英金融政策委員会(MPC)などを控え、様子見ムードが強い。
12月FOMCでは4会合連続での0.75%から0.50%に鈍化させる可能性が高い。CME FedWatchでは、0.5%の利上げがコンセンサスとなっている状況に大きな変化はなく、98年高値と22年高値を重ね合わせた自己相似(フラクタル)も継続している。
ターミナルレート水準が焦点
今回のFOMCでは、5%前後と想定されるターミナルレート(利上げの最終到達点)が、どの程度になるかが焦点。
米金利引き上げは、年明け以降も継続すると思われるが、過去の利上げ局面の前後一年間を振り返ってみると、利上げ終了前に金利のピークは打っている傾向があり、ここからインフレが改めて高まらないと、金利差拡大によるドル円の上値は限定的だろう。来年は、新G8を中心とするドル離れも意識されてくる。
ドル円の下値目標は、週足で見ると、2021年安値~2022年高値までの上昇に対する38.2%押しが1333.0円。半値押しは127.25円。一目均衡表(日足)からは、V=133.05円、N=127.96円がカウント可能。200日移動平均線は、先週末段階で135円水準に位置する。200日移動平均線を維持できなかった場合は、心理的節目130円が意識される流れへ。
金:200日移動平均線を上抜くと強気感増す
【今週見通し・戦略】
過去の利上げ局面の前後一年間を振り返ってみると、利上げ終了前に米金利はピークは打ち、NY金は利上げ最終局面での利上げには反応薄となっている傾向があり、米金利上昇に伴うNY金の安値は、1600ドル台前半の安値で大底を確認した格好で、金利引き上げ終了後は押し目買い基調に転じている。相場格言にある「底を付けた相場は、天井を打つまで高い」流れだ。
米利上げは織り込み済み
20年と22年の高値を重ね合わせたチャートでは、自己相似(フラクタル)の流れも継続。
NY金は200日移動平均線が上値抵抗、ドル円は200日移動平均線が下値支持として、それぞれ機能しているが、ユーロドルに続いて、NY金が200日移動平均線を上抜き、ドル円が200日移動平均線を明確に割り込んでくると、金相場の下降トレンド終了から上昇トレンド入りへ転換した確認度合いは増すことになる。利上げが終盤に接近中との思惑が高まれば、来年にかけて、NY金はゆっくりと2000ドルを試す流れへ。金利引き下げ局面となる景気後退(リセッション)局面では上げ足を強めよう。リセッションが、ハードランディングとなるかソフトランディングとなるかは、足元落ち着きを見せているインフレ動向次第。
ハードランディングシナリオになった場合は、金の上値余地は最も大きくなるだろう。円建て金も足元で抵抗と認識されている8000円水準が、来年には下値支持線となるだろう。内外共に押し目買い戦略は維持したい。
新冷戦下で、ドル離れも表面化してくる。習近平国家主席のサウジ訪問は、ドル基軸通貨体制を支えてきた「ペトロダラー体制」に、中国・サウジが「ペトロ人民元体制」で風穴を開ける流れ。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。