Weekly Report 2023年7月10日(月)
2023年7月10日
週間展望(7/10~7/16)
このページで知れること(目次)
週間予定:CPIとNATO首脳会議、FOMC関連発言
前週Review:イランが上海協力機構に正式加盟国に
ドル円:米当局者発言に注意
金:悪い金利上昇へ
【ADP雇用報告&米雇用統計】
【非農業部門雇用者数】
金ETF
週間予定:CPIとNATO首脳会議、FOMC関連発言
12日に発表される6月のCPIは、前年比+3.1%と0.9%ポイントの大きな鈍化が予想されている。5月のCPIを押し下げたガソリン価格が今回も大きなマイナスになりそうだ。ガソリンの小売価格は前月比で5.6%の低下となった4月から5月とは違い、5月から6月にかけては小幅上昇見込み。ただし、比較対象元である2022年6月のガソリン価格は、前年比+59.9%と伸びのピークとなっており、結果的に前年比では大きなマイナスとなる。
食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比+5.0%と前回から0.3%ポイントの低下見込み。コアがそれほど落ちてこない状況から、7月の利上げ期待は継続見通し。
なお、今週はFOMC関係者発言が月曜日から金曜日まで多数予定されており、今後の利上げ継続に前向きな発言が出てくる可能性。
11日から始まる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議だが、東京事務所の開設について、マクロン大統領が反対の意向を伝えており、スナク英首相は8日、米政府がウクライナにクラスター弾を供与する方針を決めたことについて「英国はクラスター弾の生産や使用を禁じる条約の締結国だ」と述べ、反対する姿勢を示している。クラスター爆弾は、ウクライナが供与を求めていること以上に、米国の通常の弾薬在庫が底をつき、その生産が間に合わないことに加え、これまで提供してきた旧式武器在庫と同様、冷戦時代から備えていた大量のクラスター爆弾在庫の処分をしたい意向。停戦を進める中国と武器供与を続ける米国の、どちらに正義があるか、客観的に見る国も増えている。
前週Review:イランが上海協力機構に正式加盟国に
【米覇権の揺らぎ】
米国の同盟国である日本での報道は小さかったが、7月4日、上海協力機構はインドを議長国として首脳会談を開催し、イランの正式加盟が決議された。
米国の覇権、ドル基軸通貨体制を揺るがす流れが、一段と強まっている。
2001年に、「中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン」の6ヵ国により設立された上海協力機構は、2017年にインドとパキスタンが正式に加盟し、今般のイラン正式加盟により、正式加盟国は9ヵ国になった。ベラルーシが正式加盟手続き中で、そのほか多くのオブザーバー国や対話パートナー国、あるいは客員参加国・組織などが控え、世界の全人口の約半分を占めるに至っている。
サウジやアラブ首長国連邦などが上海協力機構の「対話パートナー」となっている点も重要だ。ニクソンショック以降、金本位制を放棄した米ドルが基軸通貨の地位を維持したのは、1974年にアメリカがサウジの安全保障と引き換えに石油を米ドルで購入させるという「ペテロダラー」体制を創ったからだ。
しかし、サウジは「自国の利益を犠牲にしてアメリカに奉仕する気はない」として、人民元や、BRICS通貨などでの決済に移行しようとしている。
中国・ロシアが 「OPECプラス」を味方に付けたというのは、「脱米ドル」を加速させる意味合いがある。
今や中国は南米における経済交易を大幅に拡大し、アメリカを抜いて南米大陸最大の貿易相手国となっている。ウクライナ戦争による対露制裁に加わっていない国は全人類の85%にのぼる。
ドルの動きを、金利差や金融の側面だけで分析しては見間違う。国際秩序に大きな地殻変動が起きている事を忘れてはいけない。米金利上昇に対して金が耐性を強めているのも、国際秩序の大再編が一因だ。
ドル円:米当局者発言に注意
【今週見通し・戦略】
FRBだけでなく、ECB、BOEも高いインフレ率の影響で利上げが継続されることが見込まれているのに対して、緩和政策を維持する日銀との金融政策に関するスタンスの差が材料視され、ドル円はザラバで145円台乗せたものの、先週レポートで指摘したようにCFTC建玉明細では、大口投機玉のドル買い円売りポジションが、ここ数年の最高水準にまで大きく膨れ上がっており、調整安となった。
本邦当局の口先牽制が相次ぐ中、イエレン米財務長官は6月30日、円安対応の為替介入の是非について、日本政府と調整に入っていることを明らかにした事で、介入警戒感も強かった事も調整安の一因。CME FEDウォッチでは、7月のFOMCでの政策金利の据え置き確率が8%前後、0.25%の利上げ確率は92%前後。
前週末の6月雇用統計で非農業部門雇用者数が市場予想や、ADP全米雇用リポートほど伸びず、4月と5月の増加幅も下方修正された。労働需給の逼迫を背景とした米金融引き締めの長期化観測がやや和らぎ、米長期金利も一時4.09%と3月上旬以来の高水準を付けた後に上げ幅を縮めた。日本の5月の毎月勤労統計で、名目賃金にあたる1人あたりの現金給与総額の前年同月比の伸びが4月から拡大した。日銀が金融緩和政策の修正に動く可能性が意識されたことも円高ドル安の一因となった。
強弱分岐点
米マクロ経済指標は、強弱マチマチであるものの、6月までの米景気後退はあっても限定的、株高と共に金利が上昇する良い金利上昇的な値動きであったが、7月入りと共に、米中対立や、インフレ懸念の再燃など、金利上昇に対する経済への悪影響が意識されている感触。3月安値~6月高値までの上昇に対する38.2%押しは139.12円。21日移動平均線を回復できればグランビルの法則での買いパターン。一方、抵抗線に変わるようなら戻り売り基調に転じる。今週は、米当局者発言機会が多く、発言ヘッドラインにも左右されそう。
金:悪い金利上昇へ
【今週見通し・戦略】
6月までのNY金相場は、景気後退につながる悪い金利上昇ではなく、株価上昇・景気拡大に伴う良い金利上昇に対する反応となっていたが、パンデミック時の超過貯蓄は23年末頃には枯渇する見通しの中、逆イールド現象が数十年来の大きな幅に迫る中、7月に入り、景気後退観測が意識される悪い金利上昇に対する反応となってきた。
米長期金利が4%を超えるのは、3月以来。その前に4%台だったのは2022年11月。過去、4%台を超えてくると、金への売り圧力は高まるが、結果として買い場を提供することになっている。更に、4%越えの金利に対する売り圧力あるものの、着実に金利上昇に対する耐久力は上がっており、値位置も2022年と比較すると、1900ドルを維持するなど、NY金の強さが表れている。1900ドル以下を買い拾おうとする実需・中央銀行も多い。
今後、インフレ再燃と共に、悪い金利上昇がより強く意識されてくると金利上昇と共にNY金の上昇も並行して起きてくるだろう。
BRICS通貨誕生へ
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が8月に開く年次定例サミットで、米ドルに替わる非米側の基軸通貨としてBRICS共通通貨の創設を決めそうだ。これは、世界的な決済におけるドルの役割を弱め、最終的には米ドルから基軸通貨の地位にとって代わる可能性のある金の裏付けを持った新通貨登場だ。
BRICSによる基軸通貨の地位獲得劇は、世界貿易、海外直接投資、投資家のポートフォリオに劇的かつ予期せぬ影響を与えるだろう。参加予定は、「BRICS」に加え、数十ヶ国が参加の意思を示している。
仏歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏曰く、「世界が不安定化していく中心はアメリカだ。世界がこれから先に向き合うのは、アングロサクソン圏、とくにアメリカの「後退のスパイラル」だ。問題は、ロシアでも中国でもなく、アメリカだ。」
基軸通貨ドル・米覇権体制が確実に揺らぎを見せている中、金への資金回帰は継続していく。円建て金の優位性も継続で、1グラム=1万円時代も目の前だ。円高になっても、海外金高が相殺して、円建て金の上昇トレンドは継続するだろう。
【ADP雇用報告&米雇用統計】
【非農業部門雇用者数】
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。