Weekly Report 2023年6月12日(月)
2023年6月12日
週間展望(6/12~6/18)
このページで知れること(目次)
週間予定:CPI・FOMC・ECB・日銀金融政策決定会合
前週Review:解散風、急速に高まる
ドル円:140円を中心とした保合い放れ待ち
金:ロシア政府系ファンド売却は、買い場を提供
【中国CPI・PPI】
【米新規失業保険申請件数】
金ETF
週間予定:CPI・FOMC・ECB・日銀金融政策決定会合
米連邦公開市場委員会(FOMC)前に、13日に発表される5月の米消費者物価指数(CPI)が注目。米国の インフレターゲットの対象指標は、PCEデフレータだが、PCEデフレータの発表はCPIの約2週間後で、5月分のデータは今回のFOMCに間に合わず、市場の注目はCPIに集中する。
今回は、前年比+4.1%と大幅な伸び鈍化が見込まれている。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアも前年比+5.2%と4月から鈍化する見込み。4月から5月にかけてはガソリン価格が低下(米EIA調査による全米全種平均で1.3%低下)しており、全体を押し下げてくると予想されている。
また、昨年4月から5月にかけて物価の上昇が目立っており、前年比の比 較対象である2022年の水準が上昇していることで、今回分が先月からそれほど変わっていなくても、見かけ上では伸びが鈍化するように見られることも、弱い予想につながっている。
CPI後には、日米欧の金融政策決定会合が控える。FOMCでは、利上げの有無(利上げした場合はサプライズ)と共に参加者の金利予測分布をまとめた政策金利見通し(ドットチャート)も焦点だ。現在、5~5.25%の政策金利の誘導目標をどこまで引き上げる必要があると参加者がみているかが注目される。また、各国の政策の差が材料視されやすい地合いとなりそうだ。
中銀ウイークでの波乱も警戒しておきたい。
前週Review:解散風、急速に高まる
【米債務上限問題】
外国人投資家は5月4週に9週連続の買い越しとなった。今回はアベノミクス時に比べて先物の買いが多くなっている。逆に言えば、今後の外国人投資家の買い余力がまだ大きい。
外国人投資家が日本株を買っている理由は、
(1)ウォーレン・バフェットに追随して相対的な割安な日本株を購入、
(2)東証のPBR1倍割れ対策などコーポレートガバナンス改革を評価、
(3)米中対立で、アジア株ポートフォリオの中で中国株から日本株へシフト
などが挙げられる。
外国人投資家は今回4~5月(第4週まで)に現物で約4兆円の日本株を買い越したに過ぎないが、2012年12月に安倍元首相が衆院選挙に勝利し、アベノミクス期待が高まった時には、その後8ヶ月連続で日本株を買い越し、累計買越額は約11兆円に達した。
2005年8月に小泉元首相が郵政民営化を目的に衆議院を解散して勝利し、構造改革期待が高まった時に、外国人投資家は9ヶ月連続で買い越し、累計買越額は約9兆円に達した。
衆院解散の時期に注意
国会の会期末が迫り、衆議院の解散総選挙を巡る動きが急速に高まってきたが、アベノミクスや小泉改革時のように、外国人投資家の連続買い越し期間が長く大きくなるためには、コーポレートガバナンス報告書におけるPBR1倍割れ対策が実効性が高い内容になると同時に、岸田首相が衆院の解散総選挙に勝利して、構造改革策を打ち出した場合だろう。長男問題で支持率が落ちており、自公連立にもひびが入っている中、予想外の敗北となれば、外国人売りも早くなるだろう。
ドル円:140円を中心とした保合い放れ待ち
【今週見通し・戦略】
5月30日に140円台に乗せた際に、財務省・金融庁・日銀の情報交換会合後の会見で神田財務官は、為替動向を注視して必要があれば適切に対応すると表明し、ドル円が調整入りした経緯がある中、5月米ISM非製造業景況指数が50.3となり、市場予想(52.5)を下回り、ドル売りの動きが広がったものの、 7日にはカナダ中銀がインフレ警戒から政策金利を、3会合ぶりに利上げに動いた事で、米国での金融引き締めが長期化するとの思惑が広がった。
6日には5月に利上げを再開したオーストラリア準備銀行(中央銀行)が、2会合連続の利上げを決定。米国でも金融引き締めが長引くとの観測から米長期金利が上昇。その後、週間の新規失業保険申請件数は26万1000件と、市場予想(23万5000件)を上回り、2021年10月以来の高水準となった。米金融引き締めが長期化するとの懸念が後退し、米長期金利が低下。
日米欧の金融政策
スイス国立銀行(中央銀行)のジョルダン総裁発言(インフレを物価安定の水準まで引き下げることが非常に重要だ)もあり、スイス中銀の追加利上げが意識され、欧州通貨買い・ドル売りの動きもあり、 ドル円は140円を挟んだ保合いに移行している。ロシアによるウクライナ侵攻以降、活発化しているドル離れの流れの中、米国では6月は利上げを見送るとの見方が多いが、7月・9月にも利上げを再開するとの観測が強い。今週は、7月以降の当局の動きを、FOMC声明や議長会見で探ろうとする動きが予想される。先々の日欧金融政策との差も材料視されそう。 日銀は現状維持との予想だが、植田総裁がインフレ見通しの上方修正に言及した場合、7月会合での政策修正期待が高まり、円高圧力が強まる可能性も。200日移動平均線を下値支持として、2022年10月高値~2023年1月安値までの下げ幅に対する半値戻しを達成後の保合いに移行しているが、保合い期間が長ければ長い程、次に放れた際の値動きは大きくなる。
金:ロシア政府系ファンド売却は、買い場を提供
【今週見通し・戦略】
ロシアの政府系ファンド(NWF)の金売却が伝えられた。NWFは5月、財政赤字を補填するため、金3.86トンと25億9000万人民元を売却した。エネルギー収入の減少が背景。ロシアは2年前に脱ドル化を開始し、今年初めに金と人民元の保有上限をそれぞれ40%、60%と2倍に引き上げた。ただ財政赤字の補填で1月に金3.6トンと23億人民元を売却し、5月も同様の動きとなった。
中央銀行の買い継続
NY金(8月限)は、ダブルトップ完成。ネックラインが上値抵抗となっており、一目均衡表からの下値目標は、E=1920.1ドル、V=1878.6ドルなどがカウント可能だが、下値は限定的となっている。20日間安値に続き、50日間安値を更新し、トレンドフォロー型指標は陰転だが、10日間高値も切り下がっており、2000ドル水準を回復すると、トレンドフォロー型指標も売りから中立へと転じる。大きなテーマ(米覇権・基軸通貨の揺らぎ)での金買いシナリオに変化はなく、テクニカル的に売られた安値は、結局、中長期的な買い場となるだろう。地政学リスク、金利高リスク、インフレ圧力の高まりなどを背景に、中央銀行の4分の1近くが今年中に金準備高を増やすことを検討している。ロシア政府系ファンドの売却は、他国にとっては、良い買い場を提供することになるだろう。
米債務上限問題は一旦、収まりを見せたものの、根本的な解決ではなく、財政赤字補てんのために、7〜9月に米国政府は1兆ドルの短期国債を発行予定。5%近い利回りで、機関投資家は飛びつくが、長期債や民間債は売却されるため、金利上昇リスクが夏には表面化してくる。
今週の日米欧の金融政策決定会合の内容如何では、ドルの乱高下もありそうだが、円建て金は、ドル安になればNY高が、ドル高になれば円安が下値を支える構図で、史上最高値更新の流れが継続しそうだ。
【中国CPI・PPI】
【米新規失業保険申請件数】
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。