Weekly Report 2023年4月10日(月) | 【公式】日産証券の金投資コラム

Weekly Report 2023年4月10日(月)

調査課 菊川弘之
2023年4月10日

週間展望(4/10~4/16)

週間予定:米CPI。FOMC議事録。米小売売上高。IMF経済見通し

【週間スケジュール(4月9日~4月15日)】

12日に米消費者物価指数(3月)。前回2月は、前年比+6.0%,食品とエネルギーを除くコア前年比+5.5%。ともに1月から若干鈍化。市場予想と一致。項目別にみると、サプライチェーン問題一服による自動車生産の回復を受けて中古車価格の下落が目立ち、前年比-13.6%となった。前年比マイナスは4ヶ月連続、マイナス幅は2月が最も大きくなった。1月から2月にかけてはガソリン小売価格(全米全種平均)が上昇しているが、2022年の同時期、ガソリン価格の上昇がより大きくなっていたため前年比の伸びはマイナス。

一方、昨年後半非常に高い伸びが続いた航空運賃が前年比+26.5%と大幅な伸びを維持。自動車保険も+14.5%とかなりの高水準が続いている。家賃の更新時期などの関係で、他の項目に比べて変化が遅れがちな住居費も+8.1%と上昇傾向を維持。


今回の市場予想は、全体では前年比+5.2%と伸びが一段と鈍化。食品とエネルギーを除くコアでは5.6%と伸びが強まる見込み。全体とコアの水準も逆転する見込み。

2月から3月にかけてガソリン価格(全米全種平均、米エネルギー情報局調査による価格)は0.98%の上昇となっているが、2022年の2月から3月は20%を超える上昇を見せていたので、ベースメント効果が強く出て大きくマイナスになるという見方が強い。


鈍化傾向があるとはいえ、水準的には依然としてかなり高い米物価状況の中、予想通りコアの伸びが強まるという結果を見せた場合、市場の早期利下げ期待が後退する可能性。クリーブランド連銀のメスタ-総裁は先週何回か、インフレ率を目標に戻すには、政策金利は「もう少し」引き上げられ、その後しばらくその水準で維持されなくてはならないと述べている。



前週Review:「OPECプラス」追加減産

【サプライズ減産】

需給バランス

国際通貨基金(IMF)推計によると、2023年の財政収支が均衡する原油価格はサウジアラビアが1バレル66.8ドル、UAEは65.8ドル。今回、追加減産を表明した8ヶ国のうち、主な7ヶ国平均で84.8ドルとなる。これを大きく割り込む事は、歳入の大半を原油に頼る産油国には望ましくない事態だ。これを回避するため、 「OPECプラス」の一部が5月から年末まで自主的に減産を発表した。年末まで現行方針を据え置く(日量200万バレルを減産)と予想されていたこともあり、先週の原油相場は急伸した。

国際エネルギー機関(IEA)は3日、「OPECプラス」による減産に対して、声明で「世界の石油市場はすでに2023年後半に引き締まると予想されており、大幅な供給不足が生じる可能性がある」と指摘した。

OPECの歴史は、「減産破りの歴史」と言われた時代もあったが、ここ数年は、生産目標に対して生産実績が下回る状態が続いている。世界的な脱炭素の動きが高まるにつれて、原油に対する新規開発・設備投資が落ち込んでおり、価格が上昇しても生産が増えにくい地合いとなっている。

米国離れ

バイデン政権は2日、「このタイミングでの減産は賢明ではない」と批判したが、サウジなど米国離れを一層鮮明にした格好だ。中東だけでなく、フランスのマクロン大統領は国賓として訪中(4/5-7)した。元々フランスはNATOからやや距離を取っており、1966年にNATOを脱退、2009年NATOに復帰した経緯がある。今回、マクロン大統領はウクライナ戦争「和平案」に賛同。共同声明には中仏軍事協力も盛り込まれた。日本では、ほとんど報じられなかったが、ドイツと日本以外の国々に対する米国の影響力は明確に落ちている。


米国は景気対策のための利下げどころか、利上げをやめられず、金融危機からドルや米覇権の揺らぎが大きくなる可能性も。夏にかけて、原油や穀物市場は上昇傾向が高まる時期で、米債務上限問題も絡み、「インフレ」+「景気後退」=米国売りの構図となりやすい。金買いの流れ変わらずである。



ドル円:雇用統計で自律反発も上値は重い

【今週見通し・戦略】

ドル円(日足)

米国雇用統計

先週はOPECプラスの予想外の自主減産を受けて原油が急騰。インフレ懸念から米利上げ観測が強まった。5月FOMC観測は25bp利上げが優勢となり、米債利回り上昇とともにドル買いが入った。しかし、その後の一連の米経済統計が弱かったため、米景気鈍化観測から米債利回り低下 、5月FOMC観測は据え置きが有力となり、ドルの戻りは売られる展開となった。


ユーロ圏では根強いコアインフレ上昇が意識され、英国では予想よりも経済状況が回復しているとの見方が広がり、両通貨には買い圧力が高まった事も、ドル売り要因に。NZドルは中銀が予想外の50bpの大幅利上げを発表し買われた。一方で、豪中銀は政策金利を据え置き、市場に利上げ休止観測が広がった。既存レポートで指摘したように、各国中銀で、利上げに対する温度差が出始めている。

米労働省が7日発表した3月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は23万6000人増と市場予想を下回ったものの、堅調なペースを維持。失業率は2月の3.6%から3.5%に低下し、労働市場の逼迫を示し、米追加利上げ観測が再度高まった。雇用者の市場予想は23万9000人増加。ただし、市場予想は15万人増から34万2000人増まで幅があった。2月分は31万1000人増から32万6000人増に上方改定された。ただ、イースターで薄商いであり、雇用統計も大きなサプライズという事でもなく、ドル円の戻りは限定的。

インフレ・小売指標が注目

FRBは5月のFOMCに向け、金利がより長期にわたり高水準にとどまるとのメッセージを発信し続けるだろうが、最近のマクロ経済指標は弱気が増えつつあり、今後発表されるインフレ率と小売売上高が弱気な結果となれば、利上げ観測は後退する。一方、原油価格が底打ち反騰しており、インフレ指標が強気、小売売上等が弱気となると、「スタグフレーション」シナリオも徐々に意識される。


米当局の困難な舵取りは続く。



金:NY金は、上値抵抗の2000ドル突破

【今週見通し・戦略】

JPX金(週足)とNY金(週足)

「OPECプラス」の減産発表による原油急伸を受けて利上げ長期化の見方が高まり、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ長期化の見方を受けてドル高に振れたことから売り優勢となって先週は始まったが、米ISM製造業総合指数が予想以上に低下したことを受けて、早々に2000ドルを回復した。



FOMC(23/5/3)での金利決定予想



2月の米雇用動態調査(JOLTS)は、求人件数が63万2000件減の990万件と、2021年5月以来の低水準となった。1000万件を下回るのは2021年5月以来となり、市場予想にも届かず。米長期金利が急低下し、金買い・ドル売りが強まった。3月のADP雇用報告は民間部門雇用者数が14万5000人増加し、市場予想の20万人増を大きく下回った。労働市場の冷え込みの見方が強まり、米長期金利が低下。昨年3月以来の高値2049.2ドルを付けた。相次いだ弱い米マクロ経済指標を受けて、CMEのフェドウォッチでは、5月3日のFOMで金利据え置きの確率が上昇。

週末の雇用統計は、やや強気の内容であったものの、大きなサプライズという事でもなく、ドル買いは限定的。イースター休場で、織り込みは週が明けた東京市場でのNY金の夜間取引と、JPX金の日中立ち合いから、本格的に始まる。10日取引日付の夜間立会いでは、小動き。

長期強気見通しに変化なし

FRBは5月のFOMCに向け、金利がより長期にわたり高水準にとどまるとのメッセージを発信し続けるだろうが、インフレ指標や米小売売上高が弱気な結果となれば、利上げ観測は後退する。一方、原油価格が底打ち反騰しており、インフレ指標が強気、小売売上等が弱気となると、「スタグフレーション」シナリオも徐々に意識される。いずれのシナリオにしろ、金は強気だ。ゆっくり上げるか、急速に大きく上げるかの違いだろう。 

JPX金は、8000円が下値支持に1万円を目指す流れ。NY金は抵抗となっている2000ドルを固めてくると、史上最高値更新まで早い。2000ドルの攻防が焦点。



金ETF

金ETF買い残高(SPDR GOLD SHARES)

この記事の監修者

菊川弘之

東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社

日産証券インベストメント株式会社

取締役 菊川 弘之

NY大学留学。その間GelberGroup社、FutureTruth社などでトレーニーを経験。
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。

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