Weekly Report 2023年3月20日(月)
2023年3月20日
週間展望(3/20~3/26)
このページで知れること(目次)
週間予定:FOMC・中国ロシア首脳会談・トランプ前大統領逮捕?
前週Review:金融不安表面化
ドル円:欧米金融機関波及とFOMCが注目
金:米覇権・基軸通貨の揺らぎ
金ETF
週間予定:FOMC・中国ロシア首脳会談・トランプ前大統領逮捕?
21日、22日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されるが、21日が日本の休場。20日~22日の予定で習金平国家主席がロシアへ訪問し、首脳会談が開催される。その後に、ウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談のうわさも流れる中、ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が、侵攻したウクライナ東部ドネツク州の南部マリウポリに入ったと報じた一方、国際刑事裁判所(ICC)は17日、ウクライナからの子供の拉致に関与した疑いがあるとしてプーチン大統領の逮捕状を出した。
ロシア・ウクライナ戦争に関しては、和平や停戦に近づくと、英米の妨害が入るパターンが繰り返されているが、プーチン在任中に身柄拘束を経て公判に至る可能性は低い。
更に休日中に飛び込んできたのが、トランプ前米大統領による逮捕予測。トランプ前大統領は18日、自ら立ち上げたSNS「トゥルース・ソーシャル」で、自身が「21日に逮捕されるだろう」と書き込んだ。「検察からの違法な情報漏えい」で知ったとしている。支持者に「抗議し、国家を取り戻せ」と呼びかけた。逮捕されても、次期大統領選挙への出馬は可能だが、分断の激化、内政の混乱に注意したい。
FOMCでは0.25%の利上げが見込まれており、サプライズは低いものの 、今後の欧州・米国の金融機関動向や、ウクライナ情勢、米国内政状況によっては変動が高まる可能性も。
前週Review:金融不安表面化
【欧米銀行破たん】
金融不安を背景にリスク動向が高まっている。米商業銀行シリコンバレーバンク(SVB)が破綻、その後も米2銀行が破綻した。週末に は米金融当局が預金者保護をいち早く表明したが、米ファースト・リパブリック銀行株が急落したほか、欧州金融大手クレディスイスも筆頭株主が追加支援を否定、経営不安から株価が急落した。
週後半には米ファースト・リパブリック銀行には支援の動きが、クレディスイスにはスイス中銀の大規模融資策などが発表され、急速な株価下落は落ち着いたものの、債務上限の前倒しや、金融不安が飛び火するのではないかとの懸念は強いまま。
債務上限の前倒し
クレディスイスはリーマン危機前に米国で投資銀行や証券化の事業を大々的に展開して世界最大級の銀行になったが、リーマン後は不調になり、不祥事も発覚。「大きすぎて潰せない銀行」の筆頭格になっている。著名エコノミストのヌリエル・ルービニ氏は15日、「クレディ・スイスは一部の基準からすると、大き過ぎてつぶせないが、大き過ぎて救済できないかもしれないという問題もある」と発言。スイス金融大手のUBSグループがクレディ・スイスを買収することで協議している。週明けには結果が判明しそう。
ドル円:欧米金融機関波及とFOMCが注目
【今週見通し・戦略】
ドル円は、200日移動平均線に上値が抑えられて以降、下値試しが継続している。 2月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比31万1000人増と市場予想を上回った一方、失業率は3.6%に上昇。平均時給の伸びも予想を下回ったことや、シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻した事を受けて、3月FOMCで、利上げ幅が0.50%へ再拡大するとの見方が後退した。
13日にはNY州の地方銀行シグネチャーバンクの経営破綻を受けて、金融システムリスクへの警戒が広がった。15日はクレディスイスの経営不安が金融システム不安につながり、各国での株式や金融市場のリスク回避の動きにつながった。
ただ、13日に米財務省や米連邦準備制度理事会(FRB)などの米当局は、預金の全額保護を打ち出した。バイデン米大統領も預金者を保護する姿勢を強調し、16日にはクレディスイスに対して、スイス国立銀行(中央銀行)から最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)を調達する用意があると発表しており、市場はいったん落ち着きを見せている。
FOMC声明、議長会見、ターミナルレート、SEP、見通しが注目
こうした中、3月のFOMCでの0.50%の利上げ確率はゼロに低下、CMEのFedWatchでは0.25%の利上げ確率が急速に高まっている。ゴールドマンサックスなどから、一時的な利上げ停止観測も出たが、16日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会では、米銀破綻やクレディスイス経営不安などを背景に、利上げ幅を0.25%に縮小してくるとの見方に反して、従来のコミット通り0.5%の利上げが決定したこともあり、米利上げ継続見通しを支えている。
今後の欧州・米国の金融機関動向によっては、状況変化(据え置きや利下げ・QT再開など)が生じる可能性は残るが、市場予想通り0.25%利上げとなった場合、市場の注目は声明、議長会見、FOMCメンバーによる今後の見通し(SEP) 、ターミナルレート(利上げの終着点)見通しがどうなるのかが注目材料。
金:米覇権・基軸通貨の揺らぎ
【今週見通し・戦略】
NY金は大幅続伸した。米債務上限問題を控える中、米中堅金融SVBファイナンシャル・グループの傘下銀行が10日に経営破綻し、金融システムに波及するかもしれないとの懸念から、安全資産とされる金に買いが向かった。
メディアではSVB経営破綻やクレディスイス問題などが金融システム不安に繋がり、「安全資産」年の金が買われているとの論調が多いが、歴史的にみると、中国が仲介したサウジ・イランの外交復活が、米国の覇権・ドル基軸通貨の揺らぎを招き、大きなターニングポイントになることを材料視した金の高値反応だろう。
それゆえ、欧米の金融当局は、今のところ迅速に対応を行っており、一時的に金融システム懸念が後退する場面があるかもしれないが、金の調整は短期的な買われ過ぎに対するテクニカル的な調整以上の下落にはならないだろう。
JPX金は、上場来最高値を更新。円高ドル安となったものの、NY金がドル安を背景に大きく上昇した事で、円高を海外高が相殺以上している。「金投資原論」などで指摘したように、円建て金の優位性は継続しそうだ。これまでの抵抗であった8000円が支持線に変わっており、1万円を目指す流れだ。「1g1万円以下の金は安かった」と言う時代は、さほど遠くなく訪れるだろう。
西側から厳しい制裁を受けても、「有事の金」・「安全資産」として換金できることが証明されている。ドル資産が制裁で差し押さえられ、事実上使えないのと比べ、金はいざという時にも売買できる世界的な流動性が、新冷戦が始まった中、今後も評価されていきそうだ。
流動性に再評価
中国の習近平国家主席は3月20日から22日までの日程でロシアを訪問する。プーチン大統領と首脳会談をする。中国は2月24日にロシア、ウクライナの双方に停戦を促す仲裁案を公表した。習氏はこの案をもとにプーチン氏と協議するとみられる。16日には、ウクライナのクレバ外相が中国の秦剛外相と電話会談し、中国提案の「和平案」を称賛している。習氏はプーチン氏と会談後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも協議するとの観測も浮上している。
中国の思惑通り、武器を売り込み戦争を煽る米英と、和平を求め仲裁に入る中国との構図が明確になっている。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。