Weekly Report 2022年8月22日(月)
2022年8月22日
週間展望(8/22~8/28)
このページで知れること(目次)
週間予定
前週Review:米国の覇権・ドルの基軸通貨体制の揺らぎ
ドル円:ジャクソンホールでのパウエル議長講演待ち
金:NY金は、2番底を形成中
金ETF
週間予定
今週は、カンザスシティー地区連銀がワイオミング州ジャクソンホールで25~27日に開催するジャクソンホール会議でのパウエル議長講演が最大の注目。
26日午前10時(日本時間午後11時)から経済見通しについて講演する。
前週Review:米国の覇権・ドルの基軸通貨体制の揺らぎ
【MWS構想】
6月にG7(首脳7ヶ国首脳会議)において、ウクライナ侵攻を巡る制裁強化の一環として、英米日とカナダがロシア産の金の新規輸入を禁止すると発表したが(6/30付レポート:「ロシア産金の輸入禁止、効果は限定的」参照)、ロシア側から対応策が出ている。
現物地金取引の中心・英国で金・銀地金取引を監督しているロンドン貴金属市場協会(LBMA)に代わる、モスクワ・ワールド・スタンダード(MWS)設立構想だ。
金市場においては、現物市場はロンドン、先物市場はニューヨーク(CME・COMEX)が、長い間、価格決定権を握っているが、これに対抗しようとする動きだ。
ユーラシア経済連盟(ロシアに加えて、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン)の中央銀行と、大手銀行から成る委員会で金の値決めをしようとするもの。ロシアに対し友好的な国による「新G8(中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン)」などに対して、参加を要請する見通しだ。
ニクソンショック以降、ドルの基軸通貨体制を支えてきた「ペトロダラー体制」(国際石油取引上の通貨をドルに一元化)も、ウクライナ戦争以降の原油の人民元決済・ルーブル決済の急速な広がりの中で揺らぎを見せており、ロシアと中国は一気に「脱ドル化」を進めようとしているのかもしれない。
新たな国際通貨システムの模索
4月末にロシアは「金資源本位制」導入検討を正式に表明したが、資源国が持つ 「金や原油」を核にした新たな国際通貨システムの模索であり、その裏付けとしての「金(GOLD)」保有を積み増していく流れも、今後進んで行きそうだ。
また、トランプ前大統領の別邸「マー・ア・ラーゴ」への強制捜査結果如何では、米国の分断は激しさを増し、米国の覇権・ドルの基軸通貨体制の揺らぎが大きくなるだろう。
ドル円:ジャクソンホールでのパウエル議長講演待ち
【今週見通し・戦略】
7月のFOMC議事要旨で、「どこかの時点で利上げペースを緩めることが適切になる」とみていたことがわかり、上値が抑えられたものの、欧州では天然ガス不足に伴うインフレ長期化が景気を冷やすと懸念されており、米金利上昇から欧州通貨に対しドルが大幅に上昇し、ドル円にも波及した。200日移動平均線が下値支持。
世界的にリセッション(景気後退)への警戒感が高まる中で、米国が一番傷が浅いと見られている。ドル円はネックラインを上抜き、ダブルボトム完成。一目均衡表からの上値目標は、N=136.91円、V=139.45円、E=140.78円などがカウント可能だ。
ただし135円水準は7月にFOMCでの1%利上げを織り込んでいた際に付けた高値水準で、米金利上昇が7月高値水準まで更に上昇しなければ、ジャクソンホールを見極めようとする動きもあり、上値は抑えられ易いか?
パウエル議長講演
9月FOMCでの利上げ観測は、米マクロ経済指標や米金融当局者発言を受けて、0.5%と0.75%が日替わりのように変化しており、ジャクソンホールから次回の米雇用統計まで、インフレ動向・景気後退懸念を探る流れは継続しそうだ。。米セントルイス地区連銀のブラード総裁や、米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁からは、積極的な利上げが示唆されている。
ジャクソンホールでのパウエル議長講演は、26日午前10時(日本時間午後11時)から開始予定。FRBのタカ派姿勢に大きな変化はないものと思われるが、来年の米利下げ期待に対する何らかの手掛かりが出るか否かが焦点。
金:NY金は、2番底を形成中
【今週見通し・戦略】
NY金相場は、中国の景気減速懸念に加え、米国債の利回り上昇やドル高を受けて調整入り。2番底を探る流れとなっている。7月安値~8月高値までの上昇に対する半値押し達成。61.8%押しは1745.2ドル水準。
日足ベースでは、一番底を確認した格好だが、1番底を維持できなかった場合は、月足ベースでのダブルトップが完成し、テクニカル的な売り圧力が高まる可能性には注意したい。
テクニカル的な売り圧力は、長期スタンスからは買いの好機
ただし、テクニカル面からの売り圧力が高まって出た安値は、中長期的な買い場を提供することになると考える。ブレイクしてからの下げ加速局面では慌てて買う必要はないが、チャート上の底打ち確認後は、積極的に買いを仕込んでいく戦略を考えたい。JPX金は、7,400円~200日移動平均線が下値支持帯として機能しているが、同水準割れから下げが加速した場合、同様に底打ち確認後の押し目買い戦略を考えたい。JPX金であれば7,000円代前半、地金小売価格なら8,000円代前半が出るなら、地金現物投資の買い仕込み始めの好機となろう。
ジャクソンホール経済シンポジウムのパウエルFRB議長の講演に金融市場の注目が集まっているが、金相場を大きく動かすのは、米国の覇権・ドルの基軸通貨体制の揺らぎだ。ここに本格的な揺れが起きた場合、金の上値余地は大きくなる。マクロ経済・金利動向で見せる押し目の下げ幅など、そうなった場合の上値余地と比べれば小さなものと考える。金と相関の高いユーロ底割れ局面などでのデイトレードを含む短期売買であれば、売り戦術は可能だが、長期的な波動を捉えるスタンスで金投資を採るなら、買い中心の戦略を軸に戦術を考えたい。
共和党候補予備選ではトランプ前大統領支持候補が圧倒的な強さを見せている中、FBI捜査・中間選挙の結果如何では米国の内向き化・分断は激しさを増し、ドルの基軸通貨体制に揺らぎが出てくるだろう。ドルの基軸通貨体制を支えてきた「ペトロダラー体制」も、ロシア・中国を中心に人民元決済・ルーブル決済が増え、揺らぎ始めている。ウクライナ情勢も、原発・クリミア半島攻撃など、綱渡り状況が続いており、金の押し目を買い拾う動きは継続するだろう。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。