ポーランドの金準備政策と安全保障戦略 | 【公式】日産証券の金投資コラム

ポーランドの金準備政策と安全保障戦略

2025年5月26日

1. はじめに

ポーランド共和国は、ヨーロッパの中央東部に位置する国家であり、歴史的にはナチス・ドイツ、ソ連、さらにはロシア帝国など列強のはざまで幾度も分割・支配を受けてきた。
こうした歴史的トラウマは、現代ポーランドの「主権意識」や「経済的・軍事的自立」の姿勢を形づくっている。金準備政策、防衛費の国際比較を通して、ポーランドの国家戦略について考える。

2. ポーランドの金準備政策

ポーランド国立銀行(NBP)は2018年以降、金準備の積極的な増加を進め、2025年には保有量が480トンを超えた。
2019年にはイングランド銀行に預けていた金地金100トンを本国へ移送するなど、金の「自国内保有」も進めている。
 
ポーランド中銀の金準備高

3. 米中対立・BRICSとグローバルサウスの台頭の中での立ち位置

米中対立・BRICSとグローバルサウスの台頭の中での立ち位置

近年、国際情勢は米中対立の激化、ロシア・ウクライナ戦争の長期化、そしてBRICS拡大やグローバルサウスの結束強化により、二極化・多極化の方向に進んでいる。
ポーランドは明確に「西側陣営」に属し、NATOおよびEUの一員としてロシアの脅威に正面から向き合っているが、同時に独自の「主権経済国」としての強化策も進めている。
その中核が金準備の増強であり、ドルやユーロへの過度な依存を避け、外貨準備のバランスを取りながら経済の回復力を高めようとしている。
ポーランドの外貨準備約1,700億ドル(2024年)のうち金は20%弱を占めている。これは経済規模や外貨準備総額に比して高水準であるものの、欧州先進国のドイツ、イタリア、フランスの50%を超える国にはまだまだ及ばない。
ただ、これら先進国は現時点でほとんど金準備の積み増しを行っていないのに対しポーランドは、「西側に属しながらも、中国をはじめとした新興国と同様に金を防衛的資産として極めて重視する独自路線」をとっている。
但し、対中、対露政策では、西側諸国内部でもより強硬な姿勢を取っている点も注目に値する。ポーランドは中国の「一帯一路」戦略にも慎重であり、BRICS拡大による新しい国際秩序には一定の警戒感を示している。
そうした中で、金という「普遍的かつ政治性の薄い資産」を重視するのは、通貨や国際機関に依存し過ぎないリスク管理の手段と位置付けられている。

4. 国際比較:経済規模と金準備

 
国際比較:経済規模と金準備
ポーランドの金準備は中規模経済としてはかなりの高水準であり、地政学的緊張への備え、通貨信認の確保※、そして国際政治への対抗力という点で、金を多層的に活用していることがわかる。
※ポーランドはEUに加盟しているものの統一通貨ユーロは導入していない。ポーランドの通貨は「ズウォティ」

5. ポーランドの防衛費と国際比較

金準備の積み増しと並行して、ポーランドは防衛予算の大幅な拡充を進めている。
2024年防衛費はGDP比約4.0%で、NATO加盟国中最高水準に達している。これはNATOが加盟国に要請する「2%目標」をはるかに超える数値である。
同国が直面する地政学的リスク(ロシアとの国境、ベラルーシ・カリーニングラード等)に対応する戦略的判断である。以下の図に主要国との比較を示す。
 
ポーランド中銀の金準備高

6. 結論

ポーランドは、EU・NATO加盟国でありながらも、金準備の積極的増加、防衛費の突出した増強など、明確な「国家安全保障優先政策」を進めている。
その背景には、過去の苦い歴史、地政学的脅威、そして新冷戦的な世界秩序の構造的変化がある。金は「金融的な盾」、防衛費は「軍事的な盾」であり、ポーランドはこの両輪をもって21世紀型の戦略的自立国家を目指していると言える。

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