Weekly Report 2023年8月28日(月)
2023年8月28日
週間展望(8/28~9/3)
このページで知れること(目次)
週間予定:米雇用統計
前週Review:非米陣営における地殻変動
ドル円:雇用統計や本邦当局の介入姿勢に注目
金:米金利上昇(弱材料)VSドル離れ(強材料)
【米新規失業申請保険件数】
【米製造業・サービス業PMI】
金ETF
週間予定:米雇用統計
8月の米雇用統計が注目。前回7月の米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+18.7万人と市場予想の+20.0万人を下回る伸びに留まった。6月のNFPが速報時の+20.9万人から+18.5万人に下方修正された。一方、失業率は3.5%と6月の3.6%から改善。
今回は1日の発表ということで、関連指標として発表前に参考にされるISMM製造業及び非製造業は米雇用統計後の発表となる。市場予想は製造業が47.0と7月の46.4から小幅な改善見込み、非製造業が52.7と7月と同水準予想。
ここ最近、雇用統計と乖離が大きくなっているADP雇用レポートは、30日に発表。事前予想は+19.8万人と前回からは伸びが鈍化見込み。
今回の雇用統計の事前予想は、NFPは前月比+16.8万人。
中国のマクロ経済指標や、本邦当局の介入姿勢にも注意したい。
前週Review:非米陣営における地殻変動
【6ヶ国が新加盟】
BRICS(中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカ)首脳会議で24日、来年1月から新加盟国としてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6ヶ国を受け入れると発表した。
今回のBRICS首脳会議主催国の南アフリカ代表が、「共通通貨は今回のサミットの議題になっていない、非ドル化でなく各国が自国通貨で貿易できるようにしたいだけだ」、「SWIFT(国際銀行間通信協会)など国際送金・決済システムに代わる仕組みを模索するのではなく、現地通貨の利用拡大を促進する決済システム構築を検討するものだ」と、外交上で角が立たないよう米国向けに表明したが、BRICSに公式、非公式に参加意欲を示している40ヶ国は、グローバルサウス(新興・途上国)主要国すべてが含まれており、これらの国が自国通貨で貿易決済すると、結果的に脱ドル化が進むことになる。
現在のBRICSは、かつてのイメージの新興国・発展途上国ではない。このBRICS首脳会議に合わせて、インドは米国・ソ連・中国に続いて、月に探査調査気を着陸させた。ロケット発射さえ失敗が相次ぐ日本とは雲泥の差だ。悲しいものの、客観的な現状認識から将来を分析するためには、現実から目を背けてはいけない。インドは、10年前の宇宙に関するハリウッド映画「ゼログラビティ」の製作費を下回る予算の約100億円で人類史上最高難度の月面着陸を成功させたのである。
産油国には豊富な資金力があり、BRICSが独自に進める途上国向けの開発融資を強化できる。エジプトとエチオピアは人口が1億人を超える地域大国であり、米国のお膝元である南米のアルゼンチンは、今年4月に「なぜ全ての国は、米ドルで決済しないといけないのか」と発言したブラジルのルラ大統領が加盟を強く後押した。核開発を巡り欧米と対立が続くイランの加盟も認めるなど、「グローバルサウス」が結集し、欧米主導の国際秩序に挑もうとしている流れだ。
一昔前では考えられなかった動きだが、それだけ米国の力が落ちている証拠だ。購買力平価で見ると、既にG7より、ロシアが唱える新G8の方が経済規模は大きい。会議後の記者会見で、中国の習近平国家主席は「加盟国拡大は歴史的だ。BRICSの協力のメカニズムに新たな活力をもたらす」と強調。閣僚に代読させた演説の中で「中国は、歴史の正しい側にしっかりと立っている」と米国(が主張する正義)への挑戦を示唆した。
ドル円:雇用統計や本邦当局の介入姿勢に注目
【今週見通し・戦略】
BRICS首脳会議や、ジャクソンホール会議を前に様子見ムードが強い中、先週のドル円は、21日に米10年債利回りは一時4.35%台に乗せたこともあり、146.40近辺まで上昇した。23日には8月の米製造業PMI速報値、米サービス業PMI速報値が、いずれも予想から下振れしたことで、米長期金利が低下するとともにドル売りの動きとなり、144円台半ばまで下落した。
心理的節目145円を挟んで、改めて三角保合いを形成の流れとなった。
注目のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演は、「必要ならば、追加利上げの用意がある」と述べた。米長期金利が上昇した場面で円売り・ドル買いで反応したが、ジャクソンホール会議で講演したラガルドECB総裁が構造的に高インフレが長期化する可能性に言及するなど、パウエル議長以上にタカ派よりだったと受け止められたことからユーロは下げ渋り、ドルの上値が抑えられた。
米債券需給悪化
波乱になるような大きなサプライズはなく、FRB議長は実際の利上げについて、経済指標などのデータを踏まえて慎重に進むと発言しており、週末に発表される米雇用統計を始め、重要マクロ経済指標に注目度が高まる流れとなりそうだ。
雇用統計の市場予想は、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比+16.8万人。弱めに出た6月、7月を下回る伸び予想。アフターコロナでの雇用者増の押し上げが収まった可能性。前回、強めに出た失業率は、今回横ばい予想。
予想前後もしくは予想を下回る弱さを見せるようだと、追加利上げ期待が後退し、ドル円の上値は抑えられ易い。
また、予想比強気の数字が出た場合、ドル買いが強まるものの、本邦当局の介入警戒感が高まり、ドル円の上値を抑えるだろう。金利差があるため、下値も限定的か?
金:米金利上昇(弱材料)VSドル離れ(強材料)
【今週見通し・戦略】
米国債の格下げや、国債発行増による需給悪化を嫌気した債券売り(金利上昇)の流れから、米10年債は、2007年以来の水準まで上昇している。
当時の金価格は800ドル台、現在が1900ドル水準と大きな違いがあるのは、基軸通貨ドルの揺らぎという大きなテーマでの強気要因があるからだ。
前週末のNY金は、パウエルFRB議長がジャクソンホール会議での講演で、「インフレは依然として高すぎる」、「次の動きはデータに基づいて決める」と述べ、追加利上げを選択肢として残したことがドル買いを誘い、金を一時圧迫した。
一方、パウエル議長は「さらに引き締めるか、政策金利を一定に保ち、さらなるデータを待つかは慎重に決めたい」とも指摘。経済データ次第で追加利上げと停止双方の可能性に言及した。「追加利上げか据え置きかを決定する際、慎重に進める」とも述べ、積極的に金融引き締めを継続する印象が乏しかったことからドル買いは失速し、売り一巡後の金相場は安値から切り返した。
200日移動平均線の攻防
ジャクソンホール会合でのパウルFRB議長講演を受けて、米金利が再上昇したものの、NY金のチャート形状が一気に崩れるような展開にはならず、今週の米雇用統計などが、予想前後もしくは予想を下回る弱さを見せるようだと、追加利上げ期待が後退し、NY金は日柄経過と共に200日移動平均線を回復する流れへ。200日移動平均線を回復してくれば、グランビルの買い法則②となり、8月安値が一番底候補となり、押し目買い意欲が高まるだろう。
一方、予想比強気の数字が出た場合、ドル買いが強まるものの、本邦当局の介入警戒感が高まることや、悪い金利上昇が意識され、「米覇権・基軸通貨体制の揺らぎ」と言う大きなテーマが長期上昇トレンドを形成する中、短期的に米金利上昇でNY金が下げる場面があれば、結果として中長期の買い場を提供することになるだろう。
【米新規失業申請保険件数】
【米製造業・サービス業PMI】
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。