Weekly Report 2022年10月11日(火)
2022年10月11日
週間展望(10/10~10/16)
このページで知れること(目次)
週間予定:米CPIに加えて、ロシア・ウクライナ戦争激化に注意
前週Review:欧州大戦へ戦局拡大の可能性
ドル円:三角保合い上放れ、介入催促相場へ
金:金利上昇・ユーロ安での2番底は買い方針
金ETF
週間予定:米CPIに加えて、ロシア・ウクライナ戦争激化に注意
中国が国慶節明けで、市場に戻ってくる。16日から共産党大会。
ウクライナ4州の併合宣言後、クリミア大橋爆破で、戦争のステージが激変する。ロシアの報復攻撃の内容如何では、マーケットの大波乱要因に。
マクロ経済指標では、米CPIの結果如何では、円安ドル高加速も。介入を催促するような動きにも注意したい。
前週Review:欧州大戦へ戦局拡大の可能性
7月28日付「市場分析レポート」で「クリミア攻撃計画が波乱要因」と題して、『~前略。戦局打開のため、ウクライナ軍から「クリミア攻撃」という意見が出ている。ウクライナ国防軍のマルシェンコ少将は7月16日、「HIMARS」で、ロシア黒海艦隊の拠点となっているクリミア半島を攻撃する可能性を示唆した。ウクライナがクリミアを攻撃する場合、標的候補はクリミア大橋(ロシアが2014年にクリミアを併合した翌年5月に工事が始まり、2019年12月に完成)だ。
【クリミア大橋爆破】
ウクライナ軍が米国製兵器を用いてクリミア大橋を攻撃した場合、ロシアは自国への攻撃と見なし、在外米軍基地に報復攻撃を行う可能性がある。』と指摘した。
日本の休場中、このクリミア大橋が爆破された。ロシア下院のスルツキー国際問題委員長は8日、ロシアが支配するウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ「クリミア橋」の爆発について、「ウクライナの関与は間違いないようだ」とした上で、「ウクライナの痕跡が確認されれば、報復措置は激烈であるべきだ。正面攻撃の必要は無い。ロシアはテロリストとの戦いに多大な経験がある」とウクライナ側に警告した。
一方、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日、「橋は始まりだ。非合法なものは全て破壊され、盗まれたものは全てウクライナに返還されなければならない」などとクリミア大橋攻撃関与を示唆した。
この動きに対して、プーチン大統領は10日、国営テレビを通じて演説し、ウクライナ側の「テロ」に対する報復として同日、ロシア軍がウクライナの軍やエネルギー関連施設に大規模なミサイル攻撃を行ったと述べた。
一方、ゼレンスキー大統領は、10日朝のロシアによるミサイル攻撃について、エネルギーインフラ設備を標的としたものだったとの見方を示した。イラン製の無人機を用いた攻撃もあったとしている。
ベラルーシ参戦
更に、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は10日、ウクライナがベラルーシへの攻撃を準備していると主張し、ロシアと合同部隊を配備することで合意したと明らかにした。
これまでのロシア「特別軍事作戦」から、クリミア大橋攻撃を受けて、急速に戦争のステージが変化してきた。先進7カ国(G7)首脳が日本時間11日午後9時に、ロシアによるウクライナ首都キーウ(キエフ)などへの攻撃を巡り緊急会合をオンライン形式で開くと発表。
ドル円:三角保合い上放れ、介入催促相場へ
【今週見通し・戦略】
先週前半は、英国のクワーテング財務相が3日、大規模な減税策の一部として打ち出した所得税の最高税率を45%から40%に引き下げる案を撤回すると表明。英財政の悪化懸念が後退し、ポンド買い・ドル売りが優勢となる中、円買い・ドル売りとなった。オーストラリア準備銀行(中央銀行)が4日に0.25%の利上げを決め、利上げ幅が前回の0.5%から縮小し、欧米主要中銀の利上げペースを緩めるとの連想を誘った事も、ドル円の上値抑制要因となったが、下値は限定的だった。
米連邦準備制度理事会(FRB)当局者のサンフランシスコ連銀のデイリー総裁(5日)、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁(6日)、ウォラー理事(6日)、シカゴ地区連銀のエバンス総裁(6日)などから、インフレ抑制へ向けて、 利上げに前向きなタカ派発言が多く出た事が下値を支えた。
雇用統計は、利上げを正当化
注目の雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月比26万3000人増と市場予想(27万5000人)ほど増えなかった。一方、失業率は3.5%と横ばいを見込んだ市場予想に対して低下し、平均時給は前年同月5.0%上昇と高い伸びを維持した。FRBは当面は大幅利上げを続けるとの見方から、米長期金利は一時3.9%台と前日終値の3.82%から大きく上昇。ドル円も145円台を維持して終えた。
145円を固めてくると、(覆面を含む)介入を警戒しながらも、98年高値の147円台を試す流れへ。特定水準ではなく、マーケットの値動きが加速した際に、介入が入りやすい。147円台を超えて、150円を試すような局面では、より強い介入も想定される。
米CPIが注目
今週の注目は13日に発表される米消費者物価指数(CPI)。原油高が一服したことにを受けて、2ヶ月連続で伸びが鈍化している。ただし、事前予想範囲内であれば、11月のFOMCでの0.75%利上げ見通しを織り込む動きが加速しそう。G20財務相中銀総裁会議でのユーロ安牽制の有無にも注意したい。
金:金利上昇・ユーロ安での2番底は買い方針
【今週見通し・戦略】
米10年債が6月高値で支えられ反発、ユーロドルもパリティ割れで、NY金(12月限)は、2番底を試す流れへ。9月安値~10月高値までの上昇に対する38.2%押しが1694.2ドル、半値押しが1680.5ドル。61.8%押しが1666.7ドル。
1番底(9月安値)を割り込まなければ、2番底形成後、ネックライン(10月高値:1738.7ドル)の攻防戦へ移行する。
米10年債よりも、ユーロドルとの相関が短期的には強くなっている。ユーロドルはパリティを回復できずに反落となっているが、日本の連休中に、ロシアのタマン半島とクリミア半島東端をつなぐクリミア大橋で爆発が起きた。ウクライナの大統領府は、「これは始まりであり、あらゆる違法行為は破壊されなければならない」と述べ、ウクライナによる攻撃を示唆している。ユーロ売りが意識されやすい状況だ。
クリミア大橋攻撃
7月28日付市場分析レポート「クリミア攻撃計画が波乱要因」で指摘したように、シリアのクルド人地区にある米軍基地がロシア軍のターゲットになる可能性もある。この基地は、シリアの了承を得ずに設置されており、シリアでのイスラーム国に対する「テロとの戦い」も、米軍駐留も、国連安保理決議に基づいておらず、国際法違反に当たる。ロシアにとっては、正当性を主張しやすい対象だ。米国のシリアでの軍事行動が西側諸国において批判されることは、ほとんどないが、中国やロシアを中心とする新G8では、米国のダブルスタンダードと批判されている。
この米軍基地をロシアが攻撃した場合、クルド人と対立しているトルコのエルドアン政権はロシアを支持すると思われ、NATO内で深刻な亀裂が入る恐れがある。
米CNNや、米ニューヨーク・タイムズ紙の「アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘が自動車爆弾の爆発で死亡した事件について、米諜報機関はウクライナ政府の関係者が犯行を承認」報道に続き、ワシントンポストのハンター・バイデン逮捕間近の記事などバイデン降ろしの動きも感じられる中、政治的不透明感が高まれば、やはり、金の押し目は買われやすいだろう。金利上昇・ユーロ安での2番底は買い方針。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。