Weekly Report 2022年8月29日(月)
2022年8月29日
週間展望(8/29~9/4)
このページで知れること(目次)
週間予定:マクロ経済指標を受けた米利上げ織り込み度合が注目
前週Review:地域間での商品価格差拡大
ドル円:米利上げ織り込み進む
金:ユーロの底打ち待ち
金ETF
週間予定:マクロ経済指標を受けた米利上げ織り込み度合が注目
今週は、ジャクソンホール会議でのパウエル議長講演に続き、雇用統計を始めとするマクロ経済指標を受けた米金融市場の利上げ織り込み度合が注目。
米国は24日、イラン核合意復帰協議の仲介役の欧州連合(EU)が示した妥結案に対してイラン側が提出した追加意見への回答を示した。具体的な内容は明らかではないが、交渉の行方も原油市場に影響を与えそう。
前週Review:地域間での商品価格差拡大
【中国の金買い継続】
香港政府統計局が25日発表した統計によると、7月に香港経由で中国に輸入された金の純輸入量は48.773トンと、9カ月ぶりの高水準だった。6月は40.563トン。中国政府が、新型コロナウイルスで落ち込んだ景気回復に取り組む中、銀行による購入が拡大した。総輸入量は前月比23.7%増の53.91トン。
香港経由の金輸入急増
4月末にロシアは「金資源本位制」導入を正式に表明したが、資源国が持つ 「金や原油」を核にした人民元建ての新たな国際通貨システムの模索であり、その裏付けとしての「金(GOLD)」保有を、自国産出金+海外からの輸入で積み増していく流れは、継続しそうだ。
金融市場では、インフレはピークアウトしたと言う見方もあるが、FRBが警戒するようにインフレの火種は尽きておらず、その判断は難しくなっている。
香港経由の金輸入急増
資源国である米国だけの数字を見ても、判断を見誤る。コロナショックで国境の壁が高くなっていた上に、対ロシア制裁で、地域間で商品価格に大きな価格差が生じている。冷戦以降のグローバル化時代は、地域間の価格差はあっても平準化され、極端な乖離はなかったが、新冷戦がはじまり、今後は地域格差が常態化しそうだ。インフレ鎮静か否かの判断も難しくなるだろう。これは、金融政策の舵取りの失策にも繋がりやすい。
ドル円:米利上げ織り込み進む
【今週見通し・戦略】
注目のパウエルFRB議長のジャクソンホール会議での講演で、インフレ抑制を最優先で進める姿勢を示した。米金融引き締めが長く続くとの見方が再度強まり、ドル買いが優勢。対主要通貨でドルが買われた。
ただし、事前に複数の連銀総裁から積極的な利上げが続く可能性が指摘されていた事もあり、議長講演後はドル高となったものの、米金利の上昇は限定的だった。
米金利上昇は限定的
米株式市場は大幅下落したものの、市場はタカ派発言をかなりの部分織り込んでおり、米国債の利回りは頭打ち傾向となっている。
ドル円はネックラインを下値支持として、N=136.91円、V=139.45、E=140.78円などを試す流れだが、135円水準は7月にFOMCでの1%利上げを織り込んでいた際に付けた高値水準で、米金利上昇が7月高値水準まで上昇しなければ、上値は抑えられ易いか?一方、9月以降日本が唯一のマイナス金利国になりそうで下値も限定的。26日に発表された7月の米個人消費支出(PCE)デフレーターはエネルギー・食品を除くコア指数は前年同月比4.6%上昇と伸び率は6月(4.8%)から縮小し、市場予想(4.7%)より小さかった。米雇用統計に向けて、インフレ動向・景気後退懸念を探る流れは継続しそうだ。米金利引き上げ幅よりも、徐々にFOMCでのドットチャートに注目が移行する。ユーロドルのパリティ割れが継続しているが、パリティ水準を早々に回復できるか否かにも注目。ユーロドルの動きが、ドル円にも波及する。
金:ユーロの底打ち待ち
【今週見通し・戦略】
NY金相場は、米国債の利回り上昇やドル高を受けて調整局面継続。ジャクソンホールでのパウエル発言を受けて、2番底を探る流れとなっている。7月安値~8月高値までの上昇に対する61.8%押し(1745.2ドル水準)で下げ止まるか否かが焦点。終値ベースで維持できなかった場合、7月の一番底を試す流れも要想定。
足元の金下落は、ユーロ下落が主因
ただし、FRBが注目される米PCEデフレーターはエネルギー・食品を除くコア指数が前年同月比4.6%上昇と伸び率は6月(4.8%)から縮小し、市場予想(4.7%)より小さく、米金利は反落。その後のパウエル議長講演を受けて、金利上昇で反応したものの戻りは売られた。NY金が下げたのは、米金利上昇よりも、ユーロが下落した影響の方が大きい。
足元の金下落は、ユーロ下落が主因
米金利上昇はかなりの部分、市場では織り込み済みで、米金利面からのNY金の下値は限定的だが、金と相関の高いユーロが底打ちしてこないと、金の上値は抑えられ易い。パイプライン問題だけでなく、熱波被害で独ライン川渇水が深刻な状況でドイツ経済の波乱要因。
NY金が7月安値を割り込むような局面が出れば、テクニカル面からの売り圧力が一時的に高まる可能性があるが、短期売買であれば、売り戦術は可能だが、長期的な波動を捉えるスタンスで金投資を採るなら、買い中心の戦略を軸に戦術を考えたい。金相場を大きく動かすのは、米国の覇権・ドルの基軸通貨体制の揺らぎだ。ここに本格的な揺れが起きた場合、金の上値余地は大きくなる。米国の内向き化・分断は激しさを増す中、ドルの基軸通貨体制を支えてきた「ペトロダラー体制」も、ロシア・中国を中心に人民元決済・ルーブル決済が増え、揺らぎ始めている。ユーロ売りに伴うテクニカル的な売り圧力が高まって出た安値は、中長期の買い場を提供することとなると考える。
金ETF
この記事の監修者
東証スタンダード市場上場 日産証券グループ株式会社グループ会社
取締役 菊川 弘之
帰国後、商品投資顧問会社でのディーリング部長を経て日産証券主席アナリストに。
2023年4月NSトレーディング代表取締社長に就任。日経CNBC、ストックボイスTV、ラジオ日経はじめ多数のメディアに出演の他、日経新聞にマーケットコメント、時事通信、Yahooファイナンスなどに連載、寄稿中。近年では、中国、台湾、シンガポールなど現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。また、自身のブログ『菊川弘之の月月火水木金金』でも日々のマーケット情報を配合中。