世界のATM日本が終わる日 | 【公式】日産証券の金投資コラム

世界のATM日本が終わる日

2026年7月21日

 

― 日本の金利正常化が世界の資本循環を変え、その結果として金の役割も変わる ―

日本では、長く続いた超低金利の時代が終わりを迎えつつあります。政策金利は1%まで引き上げられ、日本にも「金利のある世界」が戻ってきました。これに伴い、日米10年国債利回り差も急速に縮小しています。
 
日米10年金利差とドル円

かつて日米10年債利回り差が現在に近い水準だった時期、ドル円相場は100~120円台で推移していました。もちろん、当時と現在では経済環境は異なります。現在の日本には、デジタル赤字、エネルギー輸入、NISAを通じた海外株投資など、円高になりにくい構造的な円売り要因も存在します。
 
それでも、日本の金利正常化は、世界の資金の流れを変える可能性があります。
 
これまで日本は「世界のATM」とも呼ばれてきました。国内では低金利で資金を調達し、その資金を米国債、海外株式、海外企業への融資などに振り向けてきたからです。日本は世界最大級の対外純資産国であり、日本から海外へ流れる資金は、米国債市場や世界の金融市場を支える重要な存在でした。
 
しかし、日本国内でも一定の利回りが得られるようになれば、海外へ向かっていた資金の一部は日本国内へ戻る可能性があります。これが「対外資産の本国回帰」です。
 
この動きが進めば、米国はこれまでのように世界から低いコストで資金を集めにくくなります。これはドル基軸通貨の崩壊を意味するものではありません。むしろ、米国が覇権を維持するためのコストが上昇する、という見方が現実的です。
 
本邦対外資産負債残高の推移

円高は自動的には起きない

ただし、「日本の金利正常化=円高」と単純に考えるのは危険です。
 
現在の日本には、円安要因も多くあります。クラウド、AI、ソフトウェア利用料などによるデジタル赤字は拡大しています。エネルギー輸入も円売り要因です。さらに、NISAを通じた海外株投資の拡大も、継続的な外貨買い・円売りにつながります。
 
一方で、将来的に円高に振れやすくなる要因もあります。日本の金利正常化、円キャリー取引の縮小、海外投資資金の本国回帰、海外投資家による日本株買い、国内設備投資の増加などです。
 
つまり、今後の為替相場は、構造的な円安要因と、新たに生まれる円高要因の綱引きになります。
 
特に注目すべきは、世界の投資家が日本を見る目が変わるかどうかです。日本が「金利のない国」ではなく、「投資対象として再評価される国」になれば、日本株買いと円買いが同時に起きる可能性があります。

 
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金にとって初期段階は必ずしも追い風ではない

日本の金利正常化が始まった初期段階、つまり現在の局面では、金にとって必ずしもプラスに働くとは限りません。
 
金は利息を生まない資産です。そのため、日本や米国の金利が上昇し、預金や債券で一定の利回りが得られるようになると、短期的には金の相対的な魅力が低下しやすくなります。
 
また、対外資産の本国回帰が進む過程では、円高圧力が強まる可能性があります。ドル建て金価格が横ばいでも、円高になれば円建て金価格は下がりやすくなります。したがって、金利正常化の初期段階では、金価格には一時的な調整圧力がかかる可能性があります。
 
しかし重要なのは、その先です。日本の資金が海外へ出にくくなり、世界の資金循環に変化が生じると、金には次の二段階の追い風が生まれる可能性があります。
 
 
金は再び守りの資産
 

第1段階:市場の不安定化による安全資産需要

日本から海外への資金供給が減少すれば、米国債市場や世界の金融市場では金利上昇や資産価格の調整圧力が強まる可能性があります。
 
米国の財政不安、米国債利回りの上昇、株式市場の調整、地政学リスクなどが意識される局面では、金は安全資産として買われやすくなります。
 
つまり、初期段階では金利上昇が金の重しになっても、その後に金融市場の不安定化が進めば、金は再び「守りの資産」として評価される可能性があります。

第2段階:準備資産の多極化

さらに長期的には、世界の資産配分そのものが変化する可能性があります。
 
これまで世界の資金は、ドルと米国債へ大きく集中してきました。しかし、日本の資本輸出縮小、中国や中東によるドル資産の見直し、各国中央銀行による外貨準備の多様化が進めば、資金はドルだけではなく、円、ユーロ、そして金へも分散していくことが考えられます。
 
金の大きな特徴は、どの国にも属さないことです。ドルは米国の通貨、円は日本の通貨、ユーロは欧州の通貨ですが、金には発行体がありません。どこかの政府の債務でもありません。
 
そのため、金は単なるインフレヘッジではなく、世界の資金循環が変わる中で、中立的な準備資産としての役割を高める可能性があります。
 
世界の中銀金準備と公的機関(米国除く)が保有する米国債額
米国以外の中央銀行の準備資産に占める金準備と米国債の割合

日本の個人投資家にとっての金

将来、円高局面が訪れれば、日本人にとっては円の購買力が高まり、金を比較的買いやすくなる可能性があります。ドル建て金価格が高止まりしていても、円高になれば円建て金価格は調整しやすくなります。
 
ただし、日本では金現物の購入には消費税がかかります。また、売却益も課税対象となるため、特に富裕層にとっては税負担が大きくなる場合があります。さらに、現物金は保管、相続、売却時の手続きなども考える必要があります。
 
そのため、多くの個人投資家にとっては、金ETF、金価格に連動する投資信託、証券口座内で売買できる金関連商品が現実的な選択肢になりやすいでしょう。
 
現物金は「最終的な安心資産」としての魅力がありますが、税制や管理の面では、ETFや証券口座内の商品を活用する方が使いやすい場合があります。

おわりに

約30年続いた「金利のない日本」は、世界の資金循環を支える重要な存在でした。日本は低コストで調達した資金を海外へ供給し続け、世界の金融市場を支える役割を担ってきたからです。
 
しかし、日本に再び金利が戻り、その資金が国内へ向かい始めるなら、世界の資本の流れは少しずつ変わっていく可能性があります。それはドル基軸体制が突然終わることを意味するのではなく、世界がこれまで当然と考えてきた資金循環が見直される転換点になるかもしれません。
 
こうした変化の中で、金は単なるインフレ対策や有事の資産ではなく、世界の金融システムが変化する過程で価値を持つ「中立資産」として、その存在感を高める可能性があります。
 
次の金相場を動かすのは、インフレ率でも地政学リスクでもない。世界最大級の資本供給国・日本が、その資金の向かう先を変え始めることなのかもしれません。

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