「ラニーニャ」と「米中貿易交渉」が動かす「トウモロコシ先物」

「ラニーニャ」と「米中貿易交渉」が動かす「トウモロコシ先物」

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年10月28日

 
原油も国内ガソリン価格も7年ぶり高値更新と多くのメディアが報じる中、あるものの市場価格がそれを上回る13年ぶりの高値となっている。
それは、トウモロコシだ。

10月25日の日経新聞はこう報じた。
「25日午前の国内商品先物市場で、トウモロコシは7営業日続伸した。11時30分時点で中心限月の22年11月物は前週末の清算値に比べ1150円高い1トン4万1180円だった。9時半頃には4万1700円と2008年7月末以来の高値を付けた。」

下の図は、10月27日までの米国シカゴコーン先物の週間チャートだ。

出所:lnvesting出所:lnvesting

なぜトウモロコシがこれほど急騰しているのか?世間で言われる背景の一つは、ガソリン価格の急騰によってエタノールの需要が急増するだろうという見通しだ。しかし、米再生可能燃料協会(RFA)が発表した週間のエタノール生産量を見ると、増えてはいるものの、それほど大幅増ではない。

そこで私は中国の動向を調べた。というのも、中国は世界最大のトウモロコシ輸入大国だからだ。10月13日、中国税関が発表した今年1月―9月までのトウモロコシ輸入量を見て驚いた。

出所:中国税関「トウモロコシ輸入状況」(単位:万トン)出所:中国税関「トウモロコシ輸入状況」(単位:万トン)

なんと前年同期比、274.5%増である。

ちなみに、昨年は豚肉価格の上昇と飼養頭数の急増で飼料であるトウモロコシの輸入量も増え、通年1130万トンとなったが、今年は、9月までの9ヶ月ですでに前年2倍以上の2493万トンとなっている。

このような輸入の増加は、毎年の現象なのだろうか。いやそうではない。上のグラフで1992年から19年間の輸入量統計を見ればわかるように、2017年から少しずつ伸びてはいるが、今年の増加ペースは、あまりにも急激だ。

なぜそうなったのか?国内が食糧生産不足になり、国際市場から爆買いしたのか?だが、同じ中国税関の統計を見ると、今年9月、小麦の輸入量は前年比40.4%減。大豆は29.8%減。トウモロコシだけが突出した増加となっていることは明らかだ。

そもそも、中国は世界一のトウモロコシ輸入大国であると同時に、生産量もアメリカに次ぐ世界第二位である。しかも政府発表によれば、今年の生産量は2億7千3百万トンに達し、史上最高記録を更新する見通し。それなのになぜ輸入量を急激に、しかも大幅に増やさなければならないのか?

調べていく中、二つの大きな要因が明らかになった。

まずは「ラニーニャ」である。中国国家気象センターは、今年の冬もまたラニーニャが中国各地で猛威を振るうと予測している。

昨年、ラニーニャの影響で世界各国が天候不順となり、穀物価格が急騰したことは皆さんもご存知だろう。この時、中国のトウモロコシ価格も急騰した。

しかも、今年は9月から10月にかけて、豚出荷頭数もトウモロコシ農家も多い河南省が連日暴雨に見舞われ。多くのトウモロコシ畑は10月中旬までまだ浸水したまま。収穫後、実を干しているところを雨にやられてカビができてしまったものも多い。その結果、トウモロコシの収穫、出荷、売買が大幅に遅れ、10月12日には中国農業省が今年のトウモロコシ総生産量見込みを下方修正している。

それに加えて、黒竜江省など国内最大級のトウモロコシ生産地は10月中旬から相次いで「一夜入冬」、昨年より更に厳冬になるとみられている。

2年連続の「ダブルラニーニャ」がこれまで同様、国内外のトウモロコシ相場に大きな影響を与えるとの予測が広がる中、中国のコーン先物の主要指標『大連コーン先物指数』は10月26日から急速に上昇。それに伴い、毎年10月の国慶節の連休明け、本来なら値を下げる豚肉価格も飼料の値上げで上昇に転じた。

そして、もう一つの背景は米中貿易交渉の再開だ。10月26日、イエレン米財務長官と中国の劉鶴副首相が電話会談を行った。9日に行われたタイ米通商代表との会談と同様、アメリカ側は、トランプ政権が結んだ第一段階の貿易協定に明記された「2020年1月1日から2021年12月31日までに中国は2000億ドルの米国農産物、工業製品、エネルギー製品を購入する」との約束を56%しか果たしていないと突きつけた。

これに対し、中国は表向き反論しているものの、本音はそれで米中関係が緩和できるなら残りを買ってもいいと考えているはずだ。ちなみに、8月末にこの連載で書いた「Huawei向け米国製半導体製品の輸出」も、最近になって明らかになった。約束の12月末まで残り2ヶ月。中国はこの間に、米国の農産物、特にトウモロコシを大量に買うだろう。

今後のトウモロコシ相場は、冬のラニーニャと、コロナ禍で急騰した海運コストの影響に加え、米中貿易交渉の駆け引きからも大きな影響を受けるだろう。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。