中国経済を減速させる主因は恒大集団ではない

中国経済を減速させる主因は恒大集団ではない

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年9月28日

 
「世界を震撼させる“中国版リーマンショック”」と報じられた恒大集団の話は株の暴落と反騰とともにメディアからも観衆からも興味が失われつつある。

だからといって中国経済が健全かというと、そうでもない。一部の方が常に言う「中国経済まもなく崩壊論」からは程遠いが、成長の減速は必至である。最大の元凶は深圳の不動産会社(恒大)ではなく、現在、中国に広がりつつある「深刻な電気供給不足」である。

まさに世間が「恒大が社債の利払いができなくなり第二のリーマンになる」と大騒ぎしていた9月23日、中国東北部の多くの都市は大規模な停電に見舞われた。瀋陽市内の多くの交差点では信号さえも消えた。道路の両側の工業地帯も住宅地も真っ暗になった。

26日夜停電になった瀋陽市    ソース:「新京報」26日夜停電になった瀋陽市 ソース:「新京報」

これに対して国家電網の遼寧と吉林公司の説明は、「発電用石炭価格の高騰と供給不足により東北電網の持続的供給が困難になっている」であった。

中国では電力供給がひっ迫すると警報が出るが、この警報には4つの等級がある。1級は「赤色警報」で「非常に深刻、20%以上不足」。2級は「橙色警報」で「10~20%不足」。3級は「黄色」で5%不足、4級は「青色」で5%以下の不足。今回、遼寧省、吉林省で出されたのは2級である。

吉林省が発した「橙色警報通知」。ソース:国家電網吉林公司吉林省が発した「橙色警報通知」。ソース:国家電網吉林公司

中国の中でも寒い地域にある遼寧省、吉林省の気温はすでに10度前後まで下がっている。そんな中、電気湯沸かし器や室内空調などが停電で止まってしまったため、市民は一斉にSNSに動画や画像をアップし、不満を訴えている。

9月25日夜、HUAWEIの副総裁孟晩舟女史がチャーター便で中国に帰国した際、中国中央テレビ局は生中継を行ったが、同じ時間、中国版Twitter「微博(weibo)」のトレンド第1位は「#東北限電」。このタグには2.2億のアクセスと15万6000件のコメントが寄せられ、孟氏の話題をはるかに超えた。

現在、この「限電」は東北地方だけでなく、中国の経済成長をけん引する江蘇省、浙江省、山東省、広東省、広西省、雲南省に広がり、日経新聞も「全国の約3分の2の地域で電力供給が制限された」と報じた。
世界最大級のiPhone下請け企業、「富士康」の子会社「乙盛精密公司」は9月26日、市政府の工業用電気供給停止の決定に従い、江蘇省昆山市にある工場の作業をストップした。この会社はiPhoneだけでなく、テスラの部品も供給している。

中国「観察者網」の報道では各省で「停電限産」の通知を受けた業種は、化学繊維、セメント、紡績、印刷、鉄鋼、石油化学、メッキなど電気消費量の多いセクターに集中しているという。

ソース:日本経済新聞ソース:日本経済新聞

これと並行して、ここ1週間中国ではディーゼル発電機が大変な勢いで売れている。山東省にある中国最大のディーゼル発電機メーカー「山東濰坊」の営業担当者はメディアの取材に対し、こう語った。「この数日間、限電された企業から大量の注文が殺到している。ほとんどの企業が24時間連続運転できる大型ディーゼル発電機を発注している。」

それにしても、この「限電」はなぜ起きたのだろうか?
9月28日の日本経済新聞はこう分析している。「中国で電力不足が起きたのは、習近平(シー・ジンピン)国家主席が掲げた『2030年までに二酸化炭素の排出量をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにする』との目標実現に向けて、地方政府が達成に向けて懸命になったためだ。」
この見方は政府メディアの説明をやや鵜呑みにした感がある。一方、中国の経済メディア「第一財経」では、東北のある発電会社幹部のこんなコメントも報じている。「まもなく冬期に入る。我々は都市部の集中暖房供給に備えて石炭を備蓄しなければならない。それと同時に国のCO2削減目標も満たさなければならない。」

このコメントの前半分こそが本音だろう。今回の「限電」の最大の理由は発電用石炭価格の高騰だ。中国電力企業連合会が発表した発電用石炭の購買価格指数をみると、9月16日~23日期の価格は1トン当たり1086人民元。日本円で18,000円。今年に入って56%増、前年同期比はなんと2倍もの高騰だ。

そこで多くの発電所が講じた対策が、石炭の在庫を減らさないための発電抑制なのである。というのも、中国では電力料金は自由価格ではなく、政府が決定する。石炭価格がここまで上がっているのに電力料金値上げが許されないなら、発電会社は発電すればするほど経営が圧迫されることになるのだ。

この状況を打開するため、中国政府はこれまで制裁のために購入量を減らしていたオーストラリア産石炭の大量購入を近々再開するだろう。更に国内電気料金の値上げも批准する。これによってインフレ傾向は更に強まっていくだろう。

モルガン・スタンレー社は9月27日のレポートでこう指摘している。「中国で限電措置に最も打撃を受けたのは、鉄鋼、アルミ、セメントセクターだ。アルミの精製量は7%減、セメントは30%減となるとみられる」。

だが、「限電」の影響はこれらのセクターに限らない。石炭、天然ガス価格、自動車生産、半導体生産にも大きな影響を与え、世界の株式市場にも影響を与えることは間違いない。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。