米雇用市場の持続的な回復基調と物価上昇圧力の高まりで年内テーパリング開始の可能性高まる。但し、バイデン政権の財政政策に課題も。為替市場への影響は限定的か。

米雇用市場の持続的な回復基調と物価上昇圧力の高まりで年内テーパリング開始の可能性高まる。但し、バイデン政権の財政政策に課題も。為替市場への影響は限定的か。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2021年9月11日

 

8月の米雇用統計は、失業率が5.2%に一段と低下しましたが、非農業部門就業者数が+235千人と予想を大きく下回る低水準となり、これが嫌気されて金融市場ではリスクオフの動きが強まり、株価の下落とドル売りポジションの巻き戻しを誘いました。雇用者数の伸び悩みはデルタ株の感染拡大によるものですが、ワクチン接種率がさらに上がっている米国では感染者が増加している中でも死者数が抑えられており、主要都市のロックダウンに繋がるような経済活動の停止は考えにくいと見られます。7-8月の米経済は感染の再拡大により、緩やかなペースの回復基調に留まりましたが、雇用市場が安定的であること、物価も上昇傾向が強いことから、金融政策面ではこれ以上量的緩和を続ける理由が無くなりつつあり、年内にテーパリングを開始する可能性が高いと見られます。量的緩和の縮小規模にもよりますが、マーケットには既に織り込み済みの材料で、為替市場への影響は限定的と見られます。

むしろ、アフガン撤退戦略の失敗でバイデン政権に対する信任が急低下しており、審議中の今後10年間での育児、医療支援策などを含む3.5兆㌦規模の予算案は簡単には議会(上院)を通過しない可能性が高いと見られます。民主党単独での過半数獲得を目指す構えですが、民主党議員50+副大統領1=51のうち1票でも造反者が出れば上院を通過せず、政局混迷を招く可能性があります。コロナ前の水準にようやく戻し、景気の先行きにも明るさが見え始めた今、大統領の信任低下により政治的な混乱が起きれば経済政策の足を引っ張る可能性も高く予算案の通過を巡って紆余曲折する場面ではマーケットが「ドル売り」に反応する可能性も見て置く必要がありそうです。

一方欧州経済も緩やかな景気回復基調にあり、ECBはパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の縮小を決定しています。買い入れベースを現在の800億ユーロ/月から600~700億ユーロ/月に若干減額すると見られています。緩和的な政策には変わりないことから、積極的なユーロ買いにも繋がっていませんが、ユーロ圏の第二四半期の成長率は2.0%、物価上昇率も3%台にあり、ユーロ圏経済も底堅さが認められます。物価上昇率もターゲットを上回る水準で推移しています。この高いインフレ率が一時的なものに留まるかどうか不透明ですが、ユーロ売りに繋がる悪材料もなくなってきたと言えます。足元の注目材料としてドイツ連邦議会選挙(9月26日に実施予定)を控えており与党苦戦が伝えられていますが、これもマーケットには織り込まれつつあり、また連立政権が維持できれば大きなユーロ売り材料にも繋がらない可能性も高いと見られます。

日本については総裁選後の新政権での経済対策への期待が高まっており、期待先行で株式市場も急騰していますが、為替相場への反応は鈍く、むしろ米欧の景気動向を注視しながら日本とのファンダメンタルズ格差の縮小がみられるのかどうか、対ドル、対欧州通貨で一喜一憂する展開が継続すると見られます。

チャートから見た注目通貨の方向性

1.ドル/円相場:短期はドル安/円高の流れ。111円台を回復すれば“ドル強気”に変化。

週足は2018年10月に付けた114.54を基点として上値を切り下げる流れにあり(A)、ドルの下落リスクが高い状態にあります。(A)の上値抵抗ポイントは110.20-30にあります。また、今年1月に付けた102.59を基点とする中期的なサポートライン(B)を既に下抜けており、下値リスクがより高い状態に変わりありません。短期的には、1月の安値102.59と8/4に付けた直近安値108.72を結ぶサポートライン(C)が最後の下値抵抗としてドルの下値を支えた格好ですが、これを下抜けて越週した場合は新たな下落リスクが生じます。この週足の下値抵抗は109.80-90にあります。

一方上値は、7/2に付けた111.66を直近高値として上値を切り下げて来たレジスタンスライン(D)が上値を抑え込んでおり、この週足の上値抵抗は110.30-40にあります。値動きの収縮が認められることから、今・来週中にも新たな方向へ抜け出す可能性が高くなっています。週足ベースで見た上値抵抗は110.30-40,111.20-30にありますが、110.40越えで越週すれば下値リスクがやや後退、111.30超えで越週した場合は一段の上昇に繋がり易くなります。

週足の下値抵抗は109.80-90,109.00-10,108.10-20にあります。31週、62週移動平均線は109.24と107.10に位置しており、短・中期トレンドをサポートしていますが、109.70以下で越週した場合は下値リスクが点灯、109円割れで越週した場合はドルの下落余地がさらに拡がり易くなります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元のトレンドを確認します。直近の日足は小陽線で続落を食い止めていますが、上昇エネルギーの強いものではなく、また7/2に付けた111.66を直近高値として上値を切り下げる流れからも上抜けきれていません。このレジスタンスライン(A) の上値抵抗は110.30-40にあります。

一方下値も、1月に付けた102.59と8/4に付けた直近安値108.72を結ぶ短期的なサポートライン(B)の下値抵抗が109.70-80に位置しており、これをかろうじて守って終えています。日足の値動きが収縮していることから一両日中にも一方向へ動き出す可能性が高くなっています。日足の上値抵抗である110.30-40をしっかり上抜けて終えた場合は、一段のドル上昇へ。逆に109.70-80の抵抗を下抜けて終えた場合は一段のドル下落に繋がり易い状態です。

日足の上値抵抗は前述の110.30-40と110.80-90,111.10-20にありますが、全て上抜けて終えた場合は一段のドル上昇に繋がり易くなります。下値抵抗は109.70-80,109.10-20,108.50-60にあります。21日、120日移動平均線は109.84と109.72に位置しておりこれらを挟んで上下動を繰り返していますが、200日線は107.96に位置しており、中期トレンドが強い状態にあることを示唆していますから、下方向へ放れた場合でも108円台を大きく割り込まない可能性も高いと見られます。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2.ユーロ/円相場: 短期は“ユーロやや強気”の流れ。131.00超えで終えた場合は一段の上昇へ。128円割れで終えた場合は“弱気”に変化。

週足を見ると、昨年5月に付けた114.43を基点とする中期的なサポートライン(A)から外れた位置で推移しており、下値リスクが高い状態にあることを示唆しています。一方で、8/19に付けた127.94を直近安値として反転、上昇に転じており、この間に2手前の9月第1週の週足が、6/15に付けた133.68を戻り高値とするレジスタンスライン(C)を上抜けた位置で越週しており短期トレンドに変化が生じています。

直近の週足は小陰線に終わり続伸に繋げられずに越週しましたが、(C)の下値抵抗が128.00-10に位置していることから、これを割り込んで越週しない限り、下値余地も拡がり難い状態です。また、一段と強いレジスタンスライン(B)の上値抵抗が130.60-70にあり、先週の上値トライでもこれにぶつかりましたが、これをしっかり上抜けて越週した場合は、新たな上昇エネルギーを得て一段の上昇に繋がり易くなります。
但し、この場合でも中期的な上値抵抗が134~135円台にあり、このレベルは簡単には上抜けないでしょう。今週の週足ベースで見た上値抵抗は前述の130.60-70と132.20-30に、下値抵抗は129.20-30,128.40-50、128.00-10にあります。

全て下抜けて越週した場合は短期トレンドが変化して一段のユーロ下落に繋がり易くなります。31週移動平均線は130.49に位置しており、実体ベースで上抜けきれておらず、下値リスクを残した状態にありますが、62週線は127.62に位置しており、8月の下値トライでもこれを守り切って反発に転じています。但し、128円割れで越週した場合は短期トレンドが変化して、これを下抜ける可能性が高くなります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元の動きを確認します。日足は、昨年10月に付けた121.62を基点として下値を切り上げて来たサポートライン(A)からは外れた位置で推移しており、6月1日に付けた134.13で大きな天井を見た可能性が高い状態ですが、足元では8/19に付けた127.94を直近安値として反転、上昇の流れに入っています。また下値を切り上げる流れの中で、6/15に付けた133.68を戻り高値として上値を切り下げて来たレジスタンスライン(C)を上抜けて短期トレンドに変化が生じており、上値余地を探る動きが進行中です。

6月の高値134.13と6/15の戻り高値133.68を結ぶレジスタンスライン(B)の上値抵抗が130.70-80に位置しており、先週の値動きの中でもこれにぶつかっていますが、131.00超えで終えることが出来れば、一段の上昇に繋がり易くなります。日足の上値抵抗は130.20-30,130.70-80に、下値抵抗は129.60-70,129.10-20,128.50-60にあります。131.00超えで終えれば一段の上昇へ、逆に128.50割れで終えた場合は下値リスクが再び高くなります。128円を割り込んで終えた場合は短期トレンドが“ユーロ弱気”に変化して下落余地がさらに拡がり易くなります。21日、200日移動平均線は129.48と129.52で収束しており、強い下値抵抗として働いていますが、120日線は130.96に位置しており、短期的な上値抵抗として働いています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。