ファーウェイ(HUAWEI)が契約したワシントンのスーパーロビイスト

ファーウェイ(HUAWEI)が契約したワシントンのスーパーロビイスト

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年8月30日

 
バイデン政権が中国の半導体輸出に対し、トランプ政権時よりも更に厳しい規制を加えていることは、皆さんもご存知だと思う。そんな中、8月25日、こんな話が飛び込んできた。

「アメリカ政府は、ファーウェイに数億ドルの半導体部品の輸出許可を出した」

これを見た時、最初はてっきりフェイクニュースかと思った。というのもファーウェイは依然として米国政府のブラックリストにあり、バイデン政権になってからも様々な措置が行われてきたからである。

しかし、この直後、ロイターも「二人の情報筋の話」としてこれを報じた上、その数億ドルの中身はディスプレーやセンサーなどに関連する自動車関連半導体であると明らかにした。

これを受け、共和党の上院議員マルコ・ルビオは声明を発表した。「バイデン政権が人々に隠してこの批准を出すのは許せない。政府官僚は自ら進んでこの決定の理由を説明すべきだ」。
また、下院外交委員会のマイケル・マッコール筆頭委員は「商務省工業と安全局の使命は国家安全を守ることであり、放任的な許可証管理で産業を推進することではない」と、批准した商務省担当部局を名指しで糾弾した。

中国側メディアもすぐにファーウェイ側に取材した。すると同社はこう答えた。「現在、関連する業務部門と事実を確認中である」。

Source:HJBC via Getty ImagesSource:HJBC via Getty Images

だが、これほど巨額の購買契約を本社が把握していないことが果たしてあるだろうか。数億ドルといえば、同社のアメリカや日本での取引実績から見ても、決して少なくない額だ。

この原稿を書いている8月28日現在、バイデン政権側もとファーウェイ側も、正式にこの話を認めるコメントは出していない。おそらく、誰かがまだ公表できない段階でこの話をロイターにリークしたのであろう。

確かにあくまで「自動車関連」であり「5G関連」の半導体ではないが、それにしてもロイターがスクープするほどの話であることには違いない。

米国商務省のスポークスマンは、ロイター通信の事実確認の質問に対して、こうコメントしたという。「ファーウェイに対しては、今後も米国の国益と国家安全を損なう可能性がある製品、ソフト、技術を、引き続き許認可申請手続きで制限する」。

これを受けたロイターが、再びファーウェイに取材したところ、「我々はわが社の新しい位置づけを“コネクテッドカー”の新しい部品供給企業であると考えている」と答えた。コネクテッドカーというのは、外部ネットワークへの接続機能を装備した車である。しかも常時接続できるだけでなく、様々な部品に付けられたセンサーから取得したデータを、ネットワーク経由でクラウド上に蓄積することで様々な情報サービスに変わる。もちろん、話題の「自動運転」もその一つだ。

ファーウェイは本当に通信機器会社からコネクテッドカーのソフト供給会社に変身するのか、それとも米国の制裁措置を迂回するための作戦なのか。

ちなみに、今年1-6月期のHUAWEI社の財務諸表を見ると、売り上げは前年同期比29.4パーセント減。なかでも主力のスマートフォンの営業収入は40%減、基地局など通信会社向けは14.2%減った。
米国の調査会社IDCによると、ファーウェイのスマートフォンの出荷台数の世界シェアは、20年1~6月期には2割に迫り、サムスン電子に次ぐ第2位だったが、21年1~6月期は5位圏外に転落したという。これを見ると、明らかにアメリカの禁輸のパンチは効いている。引き続き、5G関連とスマートフォン関連に注力してもその突破は難しいだろう。

そこで、私は、ファーウェイと中国の自動車メーカーとのアプローチを調べてみた。すると、確かに北汽集団を含む大手3社との間に「HUAWEI inside」というスマートカー制御システムの提供契約をしていることがわかった。

今年4月17日には、中国の新しい電気自動車ブランドArcfox(極狐)が、Huawei Insideを搭載した新車を披露したが、ファーウェイの技術担当者はこう紹介したという。「人の操縦なしに中国の混雑した都市を1000km走行できる。3つのLiDAR、6つのミリ波レーダー、13の超音波レーダー、12のカメラなどのセンサー群と、ファーウェイ独自の自動運転用チップがセットになっている。」

Source:極狐Source:極狐

確かにファーウェイはスマートカーのO Sソフトサプライヤーへと変身を遂げつつあるように見える。とはいえ、なぜバイデン政権の厳しい包囲網の中でこのような許可が取れたのか?

実は、約1ヶ月前の7月23日、アメリカの国会とホワイトハウスの動向を報道する「ニューメディアポリティコ(Politico)」は、こう報じた。

「ファーウェイが元民主党のスーパーロビイスト、トニー・ポデスタを採用」。
https://www.politico.com/news/2021/07/23/huawei-hires-tony-podesta-500649

その3日後、ニューヨークタイムズにもこんな記事が掲載された。「バイデン政権との関係を改善するため、中国の通信設備大手ファーウェイは民主党のトップロビイストトニー・ポデスタ氏(Tony odesta)と契約した。ポデスタ氏はバイデン大統領と彼の顧問スティーブン・リケッティを含むホワイトハウス内部に深い人脈を持っている」。

その記事によると、トニー・ポデスタの2017年のロビイスト契約料は4200万ドルだったという。まさに「トップロピイスト」だ。

トニー・ポデスタ氏(Tony Podesta)トニー・ポデスタ氏(Tony Podesta)
Source:The New York Times

今回米国商務省の批准は、このトニー・ポデスタ氏のロビイ活動によるものとは断言できない。また認可したといっても自動車関連分野であるから制裁は相変わらず厳しいという見方もできる。だが、私は、この出来事は、バイデン政権の対中政策の多面性の現れであると思う。

これからも両国は人権問題で激しく対立し、米国はハイテク分野で中国を阻止するだろう。だが、その一方で、米国の国益・企業利益になり、かつ安全上脅威にならないものに関しては少し柔軟に判断するようになるかもしれない。

まもなくやってくるコネクテッドカーの時代に見据えて、車載OSを巡る主導権争いは更に加速されるだろう。O Sはスタンダードである。スタンダードを制するものは、世界を制するからだ。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。