アメリカの量的緩和縮小は年内実施へ向けて準備段階へ。変異型ウィルスの感染拡大がテーパリング開始を阻害する可能性も。

アメリカの量的緩和縮小は年内実施へ向けて準備段階へ。変異型ウィルスの感染拡大がテーパリング開始を阻害する可能性も。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2021年8月14日

 

7月の米雇用統計は、失業率5.4%、非農業部門就業者数+94万人と予想を大きく上回る改善を示しました。また、連邦議会上院がインフラ投資法案(1兆ドル規模)を可決したことも経済対策をより強固にするものとして好感され、ドル買いの支援材料となっています。一方、金融政策についてはFRB内でもタカ派が増えつつあり、金融市場でも早期量的緩和縮小観測が再び強まりつつあります。パウエルFRB議長はこれまで一貫して現在の経済の状況が目標には程遠いと指摘して来ましたが、「雇用の最大化と物価の安定」の観点から見れば、量的緩和縮小への環境は整いつつあるように見えます。一方で、好調が続いたISM製造業景況指数が7月は60ポイントを割り込んだこと、先週末に発表されたミシガン大消費者信頼感指数も予想外の大幅な悪化を示しており、新型コロナウィルス感染の再拡大が景気の持続的回復を妨げる可能性も無視できず、景況感の悪化が一時的なものに留まるかどうか、これを判断するうえでも今後1~2ヵ月の経済指標は特に注目され、為替相場もこれに反応する展開が予想されます。

欧州経済については緩やかな回復基調を維持していますが、自然災害の急増(熱波や洪水、森林火災)による被害の規模が大きいだけに今後の経済への悪影響が懸念されます。また米欧の景況感格差や金融政策の違いなどから見てもドルの独歩高の流れは大きく変わらないと見られます。
足元ではアメリカの金融緩和政策の行方が注目材料となり、8/26~28日にジャクソンホールで開催される年次経済シンポジウムで、パウエルFRB議長が経済、金融政策について何を語るかに注目が集まっています。

チャートから見た注目通貨の方向性

1.ドル/円相場:短期は円高リスクがより高い状態。111.20超えで終えれば短期トレンドに変化。

直近の週足を見ると、上ヒゲのやや長い陰線引けとなり、前週とは逆に上値トライに失敗して押し戻された形で越週しています。上値を切り下げる流れにも変化が認められないことや、2018年10月に付けた114.54を基点とする中期的なレジスタンスライン(B)の下に再び入り込んでおり、下値リスクが点灯中です。また、今年1月に付けた102.59を基点として下値を切り上げて来たサポートライン(A)からも外れた位置で推移しており、ドルの下落リスクがより高い状態にあります。また、8月の月足の上値抵抗が110.50~111.00にあり、8/11に付けた110.80がこれにぶつかった可能性が生じています。一方で、中期トレンドがまだ強い状態を保っていることや、今週の週足ベースで見た下値抵抗が109.30-40,109.00-10にあることから、下値を攻めきれずに再びドルの上値余地を探る動きに転ずる可能性を残しています。短期トレンドは111.20超えで越週すれば、“ニュートラル”な状態に戻して上値余地が若干拡がり易くなりますが、この場合でも111.90-00に一段と強い抵抗が控えており、ドル急伸にも繋がり難いでしょう。逆に、109円割れで終えた場合は、中期的な下値抵抗ポイントである、108.50-60,108.00±10銭をどこまで切り崩せるかトライする動きが強まり易くなります。中期トレンドがまだ強く、調整的な押しに留まるなら続落した場合でも108円台を大きく割り込まない可能性も高いと見られます。週足ベースで見た上値抵抗は110.20-30,110.60-70,111.10-20に、下値抵抗は109.30-40,109.00-10,108.50-60にあります。31週。62週移動平均線は108.55と106.93に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元のトレンドを確認します。直近の日足は安値圏で引ける陰線引けとなり、下値リスクのやや高いものですが、109.50-60の日足の下値抵抗をかろうじて守って終えていることや(B)、109.00-10に日足の横サポートがあり、週初の下値トライでもこれらを下抜け切れない可能性も高い状態です。一方で、短期トレンドの変化が認められないことや110.50~110.70ゾーンに強い上値抵抗が控えており(A)、短期トレンドは111.20超えで終えない限り変化しません。日足の上値抵抗は110.10-20,110.60-70,111.10-20に、下値抵抗は109.50-60,109.00-10,108.50-60にあります。21日移動平均線は109.94にあり、この下に入り込んで下値リスクがやや高い状態ですが、120日線は109.49にあり、短期的な下値抵抗として働いています。また、200日線は107.41にあり、中期トレンドは“ドル強気”の流れを変えていません。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2.ユーロ/円相場: “ユーロ弱気”の流れ。129円割れで終えた場合は一段の下落へ。131円台回復で短期トレンドに変化。

直近の週足は、値幅の小さい陰線引けとなりました。単体では下げエネルギーの強いものではなく、129.00-10の横サポートも守って終えていますが、昨年5月に付けた114.43を基点とするサポートラインから外れた位置で推移していること(A)、上値を切り下げる流れからも上抜けておらず(B)、下値リスクがより高い状態に変わりありません。但し、日足が130.30超えで終えた場合は下値リスクが若干後退して上値余地を探る動きが強まり易くなります。さらに131.00超えを見た場合は短期トレンドが変化して上値余地を探る動きが強まり易くなります。この場合でも週足ベースで見た強い上値抵抗が131.80-90にあり(B)、132円台を回復して越週しない限り、上値余地も拡がり難いでしょう。今週の週足ベースでみた上値抵抗は、130.00-10,131.80-90に、下値抵抗は129.00-10,128.00-10,127.00-10にあります。31週移動平均線は130.10に位置しており上値を抑え込んだ状態にありますが、62週線は127.03に位置しており、続落した場合でも強い下値抵抗として働く可能性が高いと見られます。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元の動きを確認します。直近の日足は小陰線で終え、上値を切り下げる流れに変化が認められないものの、個々の足が下げエネルギーの強いものではないことや129円台の下値抵抗をかろうじて守っており、急落地合いにも繋がっていません。但し、129円割れで終えるか128.50割れを見た場合は新たな下げトレンド入りの可能性が高くなり、ユーロの下落余地が一段と拡がり易くなります。逆に、日足の上値抵抗が129.60-70,130.20-30にありますが、130.30超えで終えた場合は、日足の形状が改善して下値リスクがやや後退(C)、131.00-10の抵抗をクリアした場合は短期トレンドを“ニュートラル”な状態に戻して上値余地がもう一段拡がり易くなります。この場合でも131.70-80に強い上値抵抗が控えていることや(B)、昨年10月に付けた121.62を基点として下値を切り上げて来たサポートライン(A)からは下抜けた位置で推移しており、ユーロ急伸にも繋がり難いと見られます。日足の上値抵抗は129.60-70,130.20-30,131.00-10に、下値抵抗は129.00-10,128.60-70,128.00±10銭にあります。21日、120日移動平均線は129.74と130.94にあり、上値を抑え込んだ状態ですが、200日線は128.99に位置しており、短期的な下値抵抗として働く可能性があります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

3.金/円相場(臨時レポート)

6,400円台で底堅い動きを見せていた金相場が急落しています。今月はチャートから見た金相場についてもレポートします。

金/円相場:一段の下落リスクに注意。長期トレンドは強気を維持。

金/円の月足を見ると、今年5月に付けた6742円を直近高値として6月には大陰線で終えており5月の大陽線の上昇幅を打ち消しています。7月は陽線で切り返しましたが、6月の下落幅を取り戻せずに越月、8月は7月の上昇分を打ち消す動きとなっています。月足は昨年8月に付けた7032円と今年5月に付けた6742円で二番天井を確認した形となっており、下値リスクがより高い状態にあります。一方で、2018年8月に付けた4,112円で大底を確認しており、下値を切り上げる流れには変化が認められず、長期トレンドは強気の流れを変えていません。しかし、この月足サポートは5,500円台にあり、現在のレベルからはかけ離れた位置にあることから、足元ではまだまだ下落リスクが高い状態です。しかし、月足の横サポートが、5950~6000円に位置しており、過去1年間の下落時でも実体ベースではこれを下抜けていません。調整的な下げに留まるなら、これを守り切って反発に転ずる可能性も高いと見られます。但し、5900円割れで越月した場合は、新たな下げトレンドに入り、長期的な下値抵抗ポイントである5500円前後まで下値余地が拡がる可能性が生じます。月足の上値抵抗は6400円~6450円、6650~6700円に、下値抵抗は5950~6000円、5500~5550円にあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

一方週足で足元のトレンドを確認すると形状がまだ弱く、一段の下落リスクに注意が必要です。直近の週足が小陽線で続落を食い止めていますが、上昇エネルギーの強いものではなく、また昨年3月に付けた4876円を基点とするサポートライン(A)からも下抜けた位置で推移しており、下値リスクがより高い状態です。この週足の上値抵抗が6250~6300円にあり、これを上抜けられずに再び反落する可能性も高いと見られます。一方で、前述の月足の抵抗が5950~6000円に控えており、このレベルは短期的に見ても買い場となる可能性も高いと見られます。但し、5900円割れで越週した場合は5700~5800円台の下値抵抗を切り崩しつつ5,500円前後まで下落余地が拡がる可能性が生じます。このレベルは中・長期的な下値抵抗ポイントであり、簡単には下抜けないでしょう。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

(ドル/金相場について)

金/円相場はドル/金相場に影響を受けます。ドル/金相場の直近の週足は実体が小さく下ヒゲの非常に長い陽線引けとなりました。タクリ足の陽線と言われており、下値トライに大きく失敗して引けたことから、先週付けたザラ場安値1,690ドルで底打ちした可能性が生じています。但し、ここまでの戻しの過程で大きな上昇エネルギーを吐き出していることや、月足の形状がまだ弱いこと、1800~1820ドルに強い上値抵抗が控えていることから下値リスクがより高い状態に変わりなく、1835ドル超えで越週するまでは下値リスクが軽減されません。反発余地を試した後の反落にも警戒が必要な状態です。月足の下値抵抗は1660~1700ドル、1570~1600ドルにあります。

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。