「インフレは一時的なのか?」

「インフレは一時的なのか?」

(貴金属スペシャリスト) 池水 雄一
2021年7月14日

 
6月のFOMCが終わり、FRBの理事たちが口をそろえて「インフレは一時的、過渡的(transitory)」と言い続けています。しかし、現実はそんなに単純ではありません。FRBが重要視しているPCE (個人消費支出)デフレーターは大きく上昇を続けています。2月は1.6%、3月は2.4%、4月は3.6%、そして5月は3.9%とFRBがターゲットとする2%のインフレ率を大きく上回っています。そしてCPIは10年ぶりの5%という非常に高いレベルとなりました。もちろん、これは昨年の新型コロナウイルスによる消費の落ち込みが激しかった2020年と比べているためという特殊要因は当然あるものの、それは数ヶ月の話であり、本来であればもはやその影響はなくなっていてもおかしく無いはずですが、未だにインフレを示すこれらの数字は高いままです。エネルギーと食料の価格を除いたコアPCEデフレーターは3.8%に達し、なんと30年ぶりの数字になっているのです。これらの数字を見る限りFRBの「過渡的、一時的」という見方はあまりに楽観的で誤った見方ではないかという思いが強くなります。

(米CPIの動き)(米CPIの動き)(出所:Refinitiv)

インフレへの恐れをより強くさせるのが上げ止まらない原油価格です。現在のデマンドプル型のコモディティの価格上昇の典型が原油市場です。経済活動の活発化の結果、原油の需要は強くなる一方です。それに対して供給は、非OPEC国の供給が細まる中、オペックの供給割合の増大とともに価格決定権もOPECがより強く握ることになりつつあります。専門家の中には原油の需要は2022年第四四半期には100万バレル /dayまで戻り、過去のピークにまで到達すると予想している向きもあります。そうなると総原油需要はOPEC各国がその限界まで生産しても間に合わないということになります。そうなるとOPECの価格決定権と相まって、原油価格はふたたび1バレル100ドルを超えるということになるでしょう。今後の原油価格の動きは注意してみておく必要があります。

(WTI原油の動き)(WTI原油の動き)(出所:Refinitiv)

1970年代のインフレは、実際の価格の上昇(インフレ)にプラスして、人々の「インフレ心理」が大きな作用を果たしました。今現在、我々は5%の「インフレ」にすでに突入していますが、「インフレ心理」はFRBが「一時的である」という言葉を繰り返すことにより極力抑えている状況です。この「口先介入」はこれまでのところうまくいっていると言えるでしょう。しかし、今後もそれがうまくいくかどうかはまだまだわかりません。パンデミック以来に世界の金融当局や政府が行っている金融緩和と財政出動により市場に注ぎ込まれたマネーの総量は史上かってなかったレベルになっています。原油価格が100ドルを超える状況になれば、これがまさにブラックスワンとなり、人々の「インフレ心理」を呼び起こすことになりえるでしょう。

この「インフレ」のリスクを真剣に考える投資家は、インフレヘッジとなる資産への投資を進めています。それはやはりゴールドであり、シルバーであるのです。個人的にはヘッジとして考えるならば、より安価なシルバーが妥当だと考えます。S&P500とシルバーの比価をみてみると、10年前は0.04だったのものが現在は0.006と上がり続けた株価に対して、シルバーは非常に割安に放置されています。インフレ懸念が本格化したとき、世界中の人々が安全を求めて入ってくるのが、シルバー、そしてゴールドとなり、上昇率を考えるとおそらくシルバーの動きが最も大きくなる可能性が高いでしょう。

(シルバーとS&P500の動きとその比価)(シルバーとS&P500の動きとその比価)(出所:Refinitiv)

世界にとってはそうならないのがベストシナリオですが、それに対する備えはしておいて損はありません。現在のように相場が少し抑えられている状況、シルバーの26ドル、ゴールドの1800ドルは将来的(2-3年後?)なインフレの可能性のための保険としての保有を始めるには最適なレベルではないでしょうか。

日本貴金属マーケット協会 代表理事
貴金属スペシャリスト池水 雄一(いけみず ゆういち)氏
池水 雄一(いけみず ゆういち)氏

1962年生まれ兵庫県出身。
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。
2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーで池水氏の名を知らない人はいない。