欧米経済が持続的な景気回復を維持できるかが焦点に。金融政策正常化への期待と景気先行きへの不安が混在。日本は大きく出遅れ。

欧米経済が持続的な景気回復を維持できるかが焦点に。金融政策正常化への期待と景気先行きへの不安が混在。日本は大きく出遅れ。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2021年7月10日

 

6月の米雇用統計は、非農業部門就業者数が予想より上回る好数値となりましたが、失業率が5.9%に悪化し、雇用市場は期待したほどの改善に繋がらなかった印象です。FRBは経済には楽観的で足元の物価上昇についても一時的であるとの見解であり、量的緩和の縮小を急ぐ姿勢が見られません。このことは7/7に公表されたFOMC議事録でも確認されました。これを受けて米国10年債利回りは一時1.25%まで急落、為替市場ではリスクオフの動きが強まり、ドル買い、円買いが急となりました。しかし、米雇用市場については、コロナショックで失われた雇用者数の70%程度までは既に回復しており、景況感も悪化していません。雇用市場の回復には尚時間を要すると見らえますが、現在の景況感から見れば大幅な雇用市場の悪化も考え難く、足元の需給バランスの正常化が進み、経済が持続的な回復基調を示す指標が今後も続くようなら、秋口以降に向けてのテーパリング観測が再び強まる可能性も高いと見られます。現状はコロナ禍で落ち込んだ経済が元のレベルまでほぼ戻ったところで、景気拡大基調が持続するかどうかは、今後の経済指標を見ての判断となります。また、変異株の感染者数の再拡大が認められることも懸念材料です。しかし、欧米ではワクチンの接種率が既に50%近くまで到達しており、変異株の感染がさらに拡大しても、政府が大幅な行動制限に踏み切る可能性は低いと見られます。経済が動きを止めなければ、悪影響も軽微なものに留まると見られ、景気の持続的な回復が今後も継続するなら、金融政策の正常化へ向けて中央銀行が歩を進めるとの観測が強まると見られます。こうした観点からはFRBが先行する可能性が高く、その場合、ISM製造業、非製造業景況指数が60ポイント台を維持すること、雇用市場の回復が持続すること、消費者物価、卸売物価指数など、足元の物価上昇が一時的なものであることが確認されることが重要です。しかし、コロナ前の米経済はISM指数が60ポイント台を長くキープしたことはありません。また、物価上昇が一時的でない可能性にも注視する必要があり、コロナ後の「新世界」は当分先となりそうです。
バイデン政権の財政出動と金融緩和政策の両輪で景況感は改善し、FRBによる金融政策の正常化も視野に入ってきたところですが、日本についてはワクチンの完全接種率が20%台にも到達していないこと、足元でのワクチンの供給懸念や、感染拡大による行動制限など、経済の先行きに不安材料が多く、ファンダメンタルズ格差からみれば、大幅な円高にも繋がり難いと見られます。

チャートから見た注目通貨の方向性

1.ドル/円相場:ドルの下落リスクが点灯中。109.50割れで短期トレンドが変化。110.80超えで越週すれば“ドル強気”の流れを維持。

直近の週足を見ると、高値圏から陰線引けとなり、この足が年初から下値を切り上げて来たサポートライン(A)を若干下抜けた位置で終えています。この陰線の下ヒゲがやや長く、下値トライに失敗した形となったことから週初は上値トライの動きが期待できますが、この週足の上値抵抗が今週は110.60-70に、来週には110.80超えに上がることから、上値を追い切れない可能性に注意が必要です。現状は2018年10月に付けた114.54を基点として上値を切り下げて来た流れからは若干上抜けた位置をキープしており(B)、この週足の下値抵抗が109.90-00にありますが、これを割り込んで越週するか、値動きの中で109.50割れを見た場合は、短期トレンドの変化が確定的となり、108.90-00の抵抗を切り崩しつつ一段のドル下落に繋がり易くなります。今週の週足ベースで見た上値抵抗は、110.60-70,111.20-30に、下値抵抗は109.50-60,108.90-00,108.00-10にあります。31週、62週移動平均線は107.51と106.75に位置しており中期トレンドは“ドル強気”の流れを維持しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元のトレンドを確認します。直近の日足は小陽線で終え、続落を食い止めています。3/31に付けた110.97を基点とするトレンドライン(A)の上にかろうじて戻して引けており、上値トライの可能性を残していますが、7/2に付けた111.66を直近高値として上値を切り下げる流れにあることや、今年1月に付けた102.59を基点として下値を切り上げて来た流れから2手前の陰線が下抜けており(B)、短期トレンドが変化し始めています。このため、反発余地が限られ易くなっており、110.80超えで終えない限り、下値リスクがより高い状態です。また、値動きの中で109.50割れを見た場合は短期トレンドの変化が確定的となり、ドルの下落余地がさらに拡がり易くなります。この場合でも中期トレンドがまだ強いためドル急落地合いにもなり難く、107円台を割り込んで終えない限り、調整下げの範囲内となります。日足の上値抵抗は110.50-60,110.80-90,111.10-20に、下値抵抗は109.50-60,108.90-00,108.50-60,108.00-10にあります。21日移動平均線は110.54にあり、この下に入り込んで下値リスクが点灯中ですが、120日、200日線は108.47と106.80に位置しており、中期トレンドは“ドル強気”の流れを変えていません。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2.ユーロ/円相場:短期は下値リスクが点灯中。132円台回復で“ニュートラル”、133円台で終えれば“ユーロ強気”に変化。129円割れを見た場合は一段の下落リスクに注意。

直近の週足を見ると、下ヒゲが長いタクリ足の陰線引けとなり、下値トライに失敗して押し戻された形で終えています。下値トライに失敗した反動で、上値余地を探る動きが先行する可能性がありますが、この陰線が昨年5月に付けた114.43を基点として下値を切り上げて来たトレンドライン(A)を下抜けた位置で終えており、トレンドが変化し始めています。また上値を切り下げる流れからも上抜けておらず、下値リスクがより高い状態にあります。現状は130.00近辺にある中期的な下値抵抗を守っており、また129.54に位置する31週移動平均線にも跳ね返されていますが、週足の形状が悪化しており、一段の下落リスクにより警戒する必要があります。但し、132円台に戻して越週した場合は短期トレンドを“ニュートラル”な状態に戻します。この場合でも133.00-10.134.00-10に強い上値抵抗が控えており、134.10超えで越週しない限り、上値余地も拡がり難いでしょう。逆に129円割れも見た場合は一段のユーロ下落リスクに要注意。今週の週足ベースで見た上値抵抗は131.70-80,132.70-80,134.00-10に、下値抵抗は130.00-10,129.60-70,129.10-20にあります。31週、62週移動平均線は129.54と126.12に位置しており、中期トレンドは“ユーロ強気”の流れを変えていませんが、129円割れで越週した場合は125~126円方向への一段の下落リスクが点灯します。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元の動きを確認します。直近の日足は高値圏で引ける陽線引けとなり、続落を食い止めています。130.00-10の週足の横サポートを守り切って反発に転ずる可能性を残していますが、7/2に付けた134.13を基点として上値を切り下げる流れからは上抜けておらず(B)、下値リスクがより高い状態に変わりありません。また、昨年11月に付けた121.62を基点とするサポートライン(A)からも下抜けた位置で推移しており、短期トレンドは“ユーロ弱気”の流れにあります。中期トレンドが強いことや、129.60~130.00の中期的な下値抵抗を守っていますが、129円割れも見た場合は、新たな下落リスクが生じて一段のユーロ下落に繋がり易くなります。終値ベースで132円台に乗せて終えれば“ニュートラル”な状態に戻しますが、この場合でも(B)の上値抵抗が132.90-00にあり、133円台にしっかり乗せて終えるまでは日足の形状が改善せず、下値リスクを残すことになります。さらに133円台に乗せた場合でも、週足の抵抗が134.00-10にあり、これを上抜けて越週するまでは上値余地も大きく拡がり難いでしょう。日足の上値抵抗は131.00-10,131.50-60,131.80-90に、下値抵抗は130.00-10,129.60-70,129.10±10銭、128.00-10にあります。21日移動平均線は、131.80に位置しており、この下に入り込んで下値リスクが高い状態にあります。120日線は130.39に位置しており、これを若干上抜けていますが、強いサポートではありません。しかし、200日線は128.21に位置しており、中期トレンドは“ユーロ強気”の流れを維持しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。