6月のFOMCで押し戻されたNY金(下)

6月のFOMCで押し戻されたNY金(下)

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2021年7月6日

 

6月16日に結果が公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)。テーパリング(資産買入の段階的縮小)の時期に関心を寄せていた市場に対し、2024年から23年に利上げ時期の前倒しがメンバー(FOMC参加者)予想で示唆され、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派への傾斜と解釈されニューヨーク市場の金価格(以下、NY金)は大きく売られることになった。結局、FOMCの6月第3週の週間ベースで5.9%、110.60ドルの大幅安が効いて6月は7.0%と2月の6.6%を上回り2016年11月以来の下落率となった。5月末の時点で1900ドル台に乗せ、年初来でプラス圏に戻していたが、2月の下げに対する回復分をすべて失うことになった。

NY金の売り崩しを狙った短期筋

あれから2週間余り経過した7月2日週末の終値は1783.30ドルとなった。この間の安値は終値(清算値)ベースで6月29日の1763.60ドル、同じ日のザラ場(取引時間中)の1750.10ドルとなった。週末に発表される米商品先物取引員会(CFTC)のデータからは、1800ドルに至る過程での売りの主体は、ファンドの買い建て(ロング)の整理売り(手じまい)であること。1800ドル割れ以降の下げ相場は、ファンドの新規の売り建て(ショート)によりもたらされたことを読み取ることができる。
特に、直近の安値を付けた6月29日はNY時間午前の早い時点でややまとまった売りが出たが、月末四半期末接近のタイミングで心理的節目1750ドル割れを狙った売り仕掛けがあったものと見られる。短期筋(CTA)による(流れに乗じてひと稼ぎという)モメンタム・トレードとみられる。翌30日もそうした試みがあったが、結局1750ドルは維持され、それ以降は反転上昇となった。ここにきて新興国中銀が米国財政の拡大に懸念を示すように金準備を積み増す傾向を強めており、1700ドル台中盤ではそうした買いが入った可能背もありそうだ。ただしNY金は反転はしたものの、FOMC後に形成された1770~1790ドルの狭いレンジ内に戻り、次の方向感を探る展開に入っている。当面の上昇はあっても売り建て(ショート)の買戻し(ショートカバー)と見られるが、フレッシュ・ロングと呼ばれる新規買いの復活が待たれる。

6月の米雇用統計は無風で通過

注目の6月の米雇用統計は主要な内容は堅調だったものの、細部で改善に遅れがみられるものとなった。非農業部門雇用者数(NFP)が前月比85万人増と、前月の58万3000人増から伸びが加速する一方、失業率は5.8%から5.9%に悪化した。市場予想はそれぞれ、NFPは70万人増、失業率は5.6%に改善というものだった。FRBが、金融緩和策の解除に向け労働市場の「包摂的な」改善を条件にしており、望ましい雇用の伸びが見られてはいるものの、FRBに早めの対応を迫るほどではないものと解釈されることになった。ただし、米株式市場はこれを好感。主要株式指数は軒並み過去最高値を更新となったのは、ゴルディロックス、熱くも冷たくもない適温の経済環境(適温経済)を好感したものといえ、金市場にとってはペンディング(様子見)を意味する環境と言える。

FRBの基準には遠い内容

労働市場の「包摂的な」改善を見込むFRBだが、今回のNFPの増加を受けてなお昨年2月比で約680万人が職を失った状態にあることが課題となる。また、女性やマイノリティーにも回復の恩恵が行き届くよう目配りをしている。人口に占める雇用者数の割合(就業者比率)も注目事項となっており、FRBが注目する(いわゆる)ダッシュボードの計器類は多い。就業者比率など現状でも58%と横ばいで、61%台だったコロナ前と比較すると、3ポイント超も低下している。わずか3%とかと思われるだろうが、人口が3億人を超える大国ゆえに大幅な落ち込みということになる。現状以上の緩和策修正の前倒しは考えにくい。

7月FOMCと与野党財政協議

足元のNY金は、FRBのタカ派への傾斜を織り込んだ形になっており、当面、好調な米国指標の発表が続いても、売り圧力は高まることはないと思われる。一方、急落した際に金ETF(上場投信)への資金流入が見られたが、力強さは出ていない。株価が最高値を更新する中で、中長期の機関投資家による資産の組入れ比率の見直し(リバランスシング)が考えられる。しかし、下半期をにらんで金ETFの買い増しに動くか否かは、3週間後のFOMC後の状況を見てのことだろう。
米国の年度末は9月だが、新年度が近づく中で米国議会では財政協議がヒートアップする時間帯に入る。とくに今年は7月末にトランプ前政権が先送りした連邦債務上限法の効力停止期限が7月末に切られている事情もある。すでにイエレン財務長官は停止期限の延長あるいは上限の引き上げに言及しているが、どのように処理されるか。下院を民主党が押さえていることから、2011年のような紛糾はないと思われるが、注意が必要だろう。テーパリング協議で注目される8月のジャクソンホール(ワイオミング)での金融シンポジウムだが、その会合を前に金市場を見る上での注目点は多い。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。