コモディティー価格上昇に悩む中国が放つ「組合拳」とは

コモディティー価格上昇に悩む中国が放つ「組合拳」とは

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年6月28日

 
原油や穀物、銅、鉄などのコモディティー価格が上昇している。2000年代のように価格が上がり続ける「コモディティー・スーパーサイクル」に突入したという声も聞く。

そんな中、注目されているのが、中国政府がこの価格高騰に対し、どこまで強権的措置を取るかという点だ。

中国では原材料、とりわけ主要金属の価格上昇が年初来3割を超え、各産業を圧迫している。まずは、5月から6月にかけて中国政府が取った行動を時系列で見てみよう。

5月12日
国務院常務会議が招集され「コモディティー価格の急速な上昇がもたらす影響に至急対応すべき」との結論に達した。

5月19日
再度、国務院常務会議が招集され、「コモディティー価格に関する虚偽的情報の流布や、買い占めによる価格吊り上げなどの行為を法に基づき厳しく罰するように、市場監督を強化すると」発表。

この「国務院常務会議」は、中国のマクロ経済政策を決める最高会議で、略して”国常会”と呼ばれる。会社に例えれば取締役会議である”国常会”が2週間連続でコモディティーの問題取り上げるのはきわめて異例のことである。続いて、李克強首相もコモディティー価格について言及した。

5月24日
李克強首相は「コモディティー価格の上昇分が消費者に転嫁されないよう政府として努力する」と述べた。

5月26日
”国常会”が再度、コモディティーの価格上昇の問題を取り上げた上、こう布告した。「上流から下流までの原材料を安定供給させるため、価格つり上げや買い占めを厳しく取り締まる」

これを裏付けるように、同日、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は、全国の銀行に対して、「個人投資家向けの商品先物に連動する投資商品の販売を中止するように」と要請した。

5月28日
中国証券監督管理委員会は、「コモディティー価格の変動を注視しており、先物市場の不正行為を取り締まっている」と表明した。

これらの発表によって、それまで高騰していた鉄鉱石、石炭などの価格は急落。だが、数日後、ほぼ軒並み再上昇に転じた。

一連の動きを中国の市場関係者はこう見る。「国常会がいくら厳しく言っても効果は限定的だろう。というのは、今回のコモディティー価格の上昇は、アメリカの景気刺激策のためのインフラ投資など、国際的な要素が大きいからだ。中国は世界屈指の原材料輸入国ではあるが、国際市場のコモディティー価格の上昇に関する決定的な影響力はまだ持っていない。つまり、政府の発言も単に姿勢を示すだけだ。」

私もこの見方は一理あると思い、中国政府もこれ以上のアクションは取りにくいだろうと思っていた。ところが、6月18日”国常会”は再度、この問題に言及した。「コモディティー価格上昇が企業にもたらす圧力を軽減するため、金融機関が役割を果たすべきだ」。

“国常会”が1か月のうち4回もコモディティー価格に触れた年はない。これをうけて政府がさらに動いた。

6月21日
国家発展改革委員会価格局、市場監視管理総局、価格競争監視局が合同チームを結成。北京鉄鉱石交易センターで年初来の鉄鉱石の取引と価格変動を詳しく調査。鉄鉱石をはじめとするコモディティー価格を安定させるために業界関係者を交えて緊急ミーティングを行った。

6月22日
国家糧食および物資備蓄局が、国家物資備蓄調整センターが持つアルミ、亜鉛、銅の国家備蓄を放出することを発表。

これは今年第1回目の放出だ。内訳は、銅2万トン、アルミは5万トン、亜鉛3万トン。7月5日、6日に各企業を集めてオークション形式で販売することも発表された。これまでも、インフレ懸念の際、国家備蓄を放出することはあったが、ほとんどは中間商社への放出だった。だが今回は末端企業に直接渡すことに決めたのだ。

これを受け、中国国内のコモディティー価格は一斉に下がった。しかし、放出項目に入っていなかった鉄鉱石、コークス、アスファルト、パルプの価格は翌日には4%上昇した。

6月23日
国家発展改革委員会価格局、市場監視管理総局、価格競争監視局は、各省と直轄市に合同調査チームを派遣、石炭・鉄鉱石、アルミ、銅などの価格問題を調査した。

このように、コモディティーを巡る攻防は目が離せない状況だ。今後、中国政府はどの時点でどのくらいの備蓄を再度放出するのだろうか?市場関係者は「1回目の銅2万トン放出というボリュームからみれば、第1四半期あたりせいぜい6万トン、出すタイミングも見計らって行うだろう」とみているようだ。

だが、私は、中国政府は、下半期は姿勢を示すだけでなく、より本格的なパワープレイに転じ、大きなアクションをとると思う。というのは、今年後半の世界経済とコモディティー価格の動向によってはそうせざるを得ないからだ。

それは中国の今年5月の貿易統計の数字を見れば明らかだ。中国税関当局が6月7日に公表した5月の貿易統計(ドル建て)は、輸入は前年同月比なんと51.1%増。これは2011年1月以来の高水準、10年ぶりの激増だ。背景はもちろん、石炭や鉄鉱石などのコモディティー価格の上昇だ。

中国税関総書

一方、この1か月、人民元はドルに対して3年ぶりの高水準となっている。これまで常に輸出拡大のために人民元高を警戒していた中国政府だが、今回は珍しく黙認している。これは明らかにコモディティー価格上昇によるインフレを抑制するためだろう。

中国人民元

というのも、物価問題は中国にとっては社会の安定を左右する政治問題であるからだ。そのためには政府はあらゆる手を尽くすだろう。それに関する6月25日付「証券日報」の見出しが面白かったので紹介しよう。

出典:新浪財経出典:新浪財経

「年内四次国常会“点名”大宗商品 多部門政策組合拳促価格“降温”」

「大宗商品」は、中国語でコモディティーのことだ。つまり、日本語に直訳すると、「国常会が年内に4回もコモディティーを名指しした。各政府部門の“政策組合拳”で価格の熱を冷ます」となる。

そして「組合拳」とは、酔拳、蛇拳、虎拳などをハイブリッドに組み合わせるカンフーマスターの戦術のことだ。つまり、コモディティー価格の熱を冷ますため、政府は国家備蓄放出、価格監視強化、人民元の為替調整など、様々な政策カードを組み合わせた「拳法」を繰り出すことも惜しまないという意味になる。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。