6月のFOMCで押し戻されたNY金(上)

6月のFOMCで押し戻されたNY金(上)

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2021年6月22日

 

米連邦公開市場委員会(FOMC)を挟んだ6月第3週のニューヨーク市場の金価格(以下、NY金)は週間ベースで5.9%、110.60ドルの大幅安となった。6月16日のFOMCにて2023年にゼロ金利解除が前倒しになる方針が示され、量的緩和の縮小(テーパリング)の議論も次回7月の会合から開始することが表明されたことによる。サプライズといえる内容で、ドル高の中でNY金は大きく売られることになった。3週続落で、下落率は2020年3月13日までの週以来の大幅なものになった。
昨年3月といえば、新型コロナウイルス蔓延に対する警戒感から株価が暴落状態となり、取引を清算するための資金捻出(cash-out)のために金が売られた経緯がある。売り一巡後、金は急反発し、その後8月上旬に向けて高値更新を続けた経緯がある。

欧米投資家とアジア実需が対峙した2、3月

筆者は4月第1週の当欄で、「2021年1-3月期で底打ちのNY金」と題した一文を書かせてもらった。新型コロナワクチン接種拡大による経済正常化期待から水準を切り上げた米10年債利回り(米長期金利)を売り手掛かりに、ファンドの買い建て(ロング)の整理が2月さらに3月と進み(買い越し280トン減少)、手仕舞い売りが一巡したと見られたこと。また、欧米投資家による金ETF(上場投資信託)の解約売りがこの2カ月間で約190トンもの大量売りが出たこと。

しかし、2月こそ1カ月で6.6%の下げに見舞われたものの、3月は先物市場と金ETFを含め欧米投資家の大量売りの中でNY金は1700ドル近辺の水準を維持することになった。3月上旬および下旬に1700ドル割れを見たものの、結局、2点底の形で4月以降に反転上昇。5月下旬に1900ドル突破まで水準を切り上げた。

3月、欧米投資家の大量売りにも関わらず下げ渋る相場。
筆者は当時、スイスにある精錬所がフル操業という情報を得ていたこと。さらにインドの輸入増加がデータから明らかになっていたことなどから勘案し、インド、中国のみならず地域横断的な実需の高まりがあるのではと類推し、「底打ち」と書いた。当時、金市場はバイデン政権の大型レスキュープランの実行とワクチン普及で、回復加速が現実のものとなりつつあり、必然、米長期金利の上昇とそれに伴ったドル高が予想され、弱気が大勢を占めていた。

投機マネーが介在した米実質金利の低下

しかし、NY金は4月以降水準を切り上げた。背景にあったのは先行して回復軌道に乗っていた中国経済の復活に、米国経済の離陸が加わったこと。復興需要の高まりを期待した(今でも続く)原油の上昇のみならず、銅などベースメタルから農産物などソフト・コモディティまで買い上げられたのは、実需の高まりはあるものの、それ以上に投機マネーの流入が背景とみられた。

実態はともあれ期待インフレ率は押し上げられ、米国の実質金利は4月から5月とじわじわと再びマイナス圏の深掘りをしながら進行した。3月にはマイナス0.5%程度まで“上がって”いた実質金利はマイナス8%を超える下落となった。4月初旬の先物市場での新規買いの増加と、売り建ての買戻し(ショートカバー)により、1750ドルの節目を突破したNY金は、上昇過程でトレンド系のテクニカル要因も改善し、5月には1800ドル大台乗せに至る。

バイデン大型財政と新興国中銀の買い

途中、新型コロナワクチンの接種について当初目標のメドが立ったバイデン政権は、春先の1.9兆ドルのレスキュープランに加え、ジョブズ・プラン(インフラ投資)さらにファミリー・プラン(家計支援)と次々と大型予算の計画を公表。

足元で過去最大を更新して膨らむ赤字に加え、近い将来のさらなる財政赤字拡大は、金市場にとっては側面支援ともいえるもの。年金基金など長期投資家のみならず、新興国の中央銀行による金準備の積み増しを促す材料となる。実際に金の国際的調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(本部ロンドン)によると、2021年1-3月期の中央銀行は95トンの買い越しになったほか、4月は単月で69トンの買い越しとなっている。4月はタイ中銀の43.5トンの買いが大きかった。

「質への逃避(Flight to Quality)」で1900ドル

5月の1800ドル台復帰は欧米投資マネーの再流入が見られたことが大きい。4月、5月と米消費者物価指数低迷が際立った前年対比のベース効果もあり、4月4.6%、5月5%と事前予想を大きく超える数値が並ぶことに。しかし、米長期金利は上昇してもせいぜい1.7%止まりで、おおむね1.6%前後での推移と落ち着きを見せる。

これは米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長をはじめ、執行部が声を合わせて物価の高騰は「一時的なもの」との評価を続けたことによる。10年債利回り(長期金利)という名目金利の上昇が抑えられる中で、NY金はマイナスの実質金利に下支えされ1850ドルの節目を突破。

このタイミングで起きたのが、ビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)市場の急落劇だった。 ネット空間で創り上げられた幻想的価値とでも呼べる暗号資産と、実物資産たるゴールドは、基盤が全く異なる資産と言えるものだ。暗号資産の暴落そして乱高下は、安全資産として歴史的に認識されているゴールドに市場の目を向かせることになった。 このところ見られなかった「質への逃避(Flight to Quality)」という側面の買いが、NY 金を5月末に1900ドル超に押し上げた。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。