FOMC後のゴールド、史上7番目の急落に

FOMC後のゴールド、史上7番目の急落に

(貴金属スペシャリスト) 池水 雄一
2021年6月19日

 

「FRBの姿勢の変化」

6月のFOMCに市場は大きく動くことになりました。政策金利は市場予想通りの据え置き、しかし利上げの見通しが大きく変わりました。全理事18人中2023年の利上げを見込む理事は、3月の7人から13人にほぼ倍増。23年中の利上げは2回との見方、そして22年中の利上げも4人から7人に増えて一挙に「タカ派」が増えたことが、マーケットにサプライズを与え、長期金利は1.49%から一時1.59%に急騰、ゴールドは1860ドルから1830ドルへ下落、その後も失望売りが続き、翌日はほぼパニック売りの状況が続き、一時1768ドルとFOMC後の政策金利発表直前からほぼ100ドル近く下げたことになり、これは一日ゴールドの下げ幅としては、史上7番目のものとなります。FRBのこれまでの徹底した「ハト派」的な金融政策姿勢が、明らかに「タカ派」的トーンに変わったことが、この大きな金融市場の動きの最大の原因です。

(ゴールドと米長期金利の動き)(ゴールドと米長期金利の動き)(出所:Refinitiv)

「インフレの見方」

インフレは一時的(transitory)との見方は変えず。パウエル議長は、会見で木材や中古車市場を引き合いに出し、コロナによる需要の急増と人々の収入が大きいこと、供給の減少、そしてロジスティックスのボトルネックの問題が重なったことによるあくまで一時的な価格の上昇であり、その分野は、パンデミックからの経済の回復に直接関連する商品であり、そのうちに下がる一時的な上昇、との見方であり、まさに「木材」の極端な上昇と直近の下落がそれを象徴していると語りました。2021年のインフレ率予想は3.4%とし、今年初旬の予想である2.4%よりも1%高いがそれほど「問題」ではない、としました。

(CME木材先物の動き)(CME木材先物の動き)(出所:Refinitiv)

「雇用について」

パウエル議長は現在の雇用マーケットが大きく改善しない状況の背景にあるのは、大量の定年離職数、新たな仕事を探すために必要な時間、Covid19感染に対する恐れ、児童預かり施設がまだ十分に再開されていないこと、そして現在まだ続けられている失業支援策にあるとし、1500万人に対する失業保険はもうすぐ終了もしくは縮小されることとなり、それにより、人々は再び働くようになるだろうとしています。FRBは夏そして秋に向かって、雇用状況は大きく改善するという見方をしています。

「ここからどうなるのか?」

もちろん今後の動きは神のみぞ知るの世界なのですが、ゴールドは売られすぎではないかと思います。長期金利の動きを見ると、最初に書いた通り、FOMC直後1.49%から1.59%まで急騰しました。それに呼応してゴールドは1860ドルから1830ドルまで一瞬にして下落したわけなのですが、その後長期金利は、1.50%とほぼFOMC前まで戻しており、本来であればゴールドも戻してしかるべし、なのですが、全くそうはならず、さらに下げ足を強めました。まさに普段ならゴールドの動きに最も影響を与える金利やドルの動きを無視、まさに「パニック売り」が続いたということです。このパニック売りは、とにかく売りたいという投資家が売ってしまうまで終わりません。逆にいうと、その売りが終わるとそれ以上の売りはありません。そしてするすると価格が戻るというのがこういったときの定石のパターンです。記憶に近いところでは今年3月の1680ドルへの下げがまさにそんな感じでした。今回もこの下げは明らかにパニックの売り。売られすぎです。マーケットはインフレ率の上昇と金利の上昇を意識していますが、FRBが利上げをするという見通しは2023年、これはまだ2年も先の話です。そして彼らはまだインフレは「過渡的transitory」だとしているのです。雇用状況がいまだ好転しない今、FRBが焦って金利を上げる必要性はまだまだ感じられません。また、注目すべきは「実質金利」です。今回の一連の動きの後も、10年の米国実質金利はマイナス0.75%です。つまりドルを持っていてもその価値は減少していくということです。パニック売りが収束すれば、やはりゴールドがそれ以上に下げる理由はないでしょう。

(米国10年実質金利の動き)(米国10年実質金利の動き)(出所:セントルイス連邦準備銀行)

実需の代表としての中国のゴールド市場状況は、6月初旬から、世界の標準であるLoco London Gold(ロンドン渡し条件のドル建てゴールド価格)に対してディスカウントになっていました。通常であれば買いが強い中国は常にロンドンに対してプレミアムですが、中央銀行である人民銀行がより厳しいAML(アンチマネーローンダリング)法を発表、それにゴールドの取引所(上海黄金交易所SGEと上海期貨取引所SHFEも含まれていたためですが、それが今回のゴールドの下げにより再び中国SGEのゴールドがプレミアムになりました。中国でもこの下げをチャンスと見て買いが入ってきています。また欧州でも、多くの個人投資家を顧客に持つBullionVault社によると、この下落で個人投資家は圧倒的に売却よりも購入の方が多いということです。損切り売りを余儀なくされるファンドと、安値を待ってましたとばかりに買う個人投資家、その立場により行動はまったく正反対になります。長い目、つまり時間を味方にできる個人投資家にとっては、ファンドがポジション整理に走るこのような状況こそまさに千載一遇の買いのチャンスでしょう。

(Loco London gold(紫色)とSGEゴールド(オレンジ))(Loco London gold(紫色)とSGEゴールド(オレンジ))(出所:Refinitiv)

以上

日本貴金属マーケット協会 代表理事
貴金属スペシャリスト池水 雄一(いけみず ゆういち)氏
池水 雄一(いけみず ゆういち)氏

1962年生まれ兵庫県出身。
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。
2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーで池水氏の名を知らない人はいない。