米欧経済の行方を睨み一喜一憂。テーパリング観測がくすぶる中、FRB が目指す「物価の安定と用の最大化」の達成に向けて足踏み状態続く。

米欧経済の行方を睨み一喜一憂。テーパリング観測がくすぶる中、FRB が目指す「物価の安定と用の最大化」の達成に向けて足踏み状態続く。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2021年6月12日

 

5月の米雇用統計では、失業率が5.8%と改善傾向が続いていますが、非農業部門就業者数は2ヵ月連続で市場予想を下回る伸びとなりました。一方で、新規失業保険申請件数は減少傾向にあり、労働市場が着実に改善を続けていることを窺わせます。また、ISM製造業、非製造業景況指数も60ポイント台乗せを維持、消費者物価指数も高水準にあり、足元の景況感は良好な状態を保っています。新型コロナウィルスワクチンの接種の進展、行動制限の解除が一段と進んでいることから、経済活性化への期待が膨らむ中で、日米欧の景況感格差は依然として隔たりがあり、円の独歩安の流れが今しばらく続く可能性が高いと見られます。一方で、日本のワクチン接種にもスピード感が増しており、早ければ7~8月には秋口以降の50%達成への見通しも確認できると見られ、それにより景況感の改善に繋がる可能性は大いにあると見られます。しかし、金融政策面ではECBと同様に日本も長期的な金融緩和政策を維持する構えを変えておらず、景況感が改善しても、円の全面高への転換にも繋がり難いと見られます。

政治面ではバイデン政権による約2兆㌦規模のインフラ投資計画に対して、超党派の上院議員団と調整中ですが、審議が難航しており決着は夏場まで掛かる可能性があります。また、重要法案は上院の2/3(60票)の賛成が必要であることから、インフラ投資計画が議会を通過し、さらに企業増税に手を付けるとなると、かなりの時間を要すると見られます。バイデン政権が政局で足踏み状態に追い込まれた時、コロナ禍での財政拡大政策による財政悪化懸念や、これを嫌気した金利の上昇、或いは継続的な物価上昇圧力によるインフレ懸念の再燃、テーパリングへの思惑などが再び市場をかく乱させる可能性も高く、また、民主党議員の造反などによる政治的な混乱がリスク要因として働く可能性にも注意が必要です。さらには米中関係の悪化による地政学的リスクにも引き続き注意する必要がありそうです。

チャートから見た年後半の注目通貨の方向性
今月は2021年も半ばとなりましたので、年後半へ向けての中・長期的な方向性について、ドル/円、ユーロ/円、金相場についてレポートしたいと思います。

1.ドル/円相場:月足(長期トレンド)は“ドル高/円安”の可能性を示唆。107.50割れの越月でトレンドに変化。

5月足は値幅の小さい陽線で越月しました。単体では上昇エネルギーの強いものではありませんが2015年6月に付けた125.86を基点として上値を切り下げて来たトレンドライン(A)及び(B)を上抜けた位置で越月しており、長期トレンドが変化した可能性が点灯中です。5月足が上昇エネルギーの強いものではないことから、上値トライに失敗してこれらのサポートラインを下抜ける可能性がありますが、3月足が2つのトレンドラインを上抜けてから3ヵ月が経過しており、6月も下値抵抗を守って上値トライの流れが継続する可能性が高い状態です。このサポートライン(A)は107.50~108.00に、(B)は106.00~106.50にあります。6月足の上値抵抗は110.50~111.00,112.50~113.00,114.00~114.50にあります。107.50以下で越月した場合は、下値リスクが点灯しますが、106円割れで越月しない限り、大幅続落にも繋がり難い状態です。可能性が低いと見ますが106円割れで越月した場合は、長期的なサポートライン(C)の102.50~103.00をトライする動きが強まり易くなります。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は107.88と109.01に位置しており、長期トレンドをサポートする可能性を示唆しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

週足でもう少し中期的な方向性を分析します。直近の週足は、実体も値幅も小さく、十文字の寄せ線に近い形の足で終えています。方向性を示せずに週初の寄り付き水準に戻した格好となりましたが、現状は1月に付けた102.59を基点として、下値を切り上げて来たサポートライン(A)を守っており、ドルの上値余地を探る動きに繋げています。この週足サポートは、今週109.20-30に位置しています。但し、109円割れで越週した場合は下値リスクが点灯して、108.50-60にある週足の横サポートをトライする動きへ。さらに108.00割れを見た場合は短期トレンドが変化して107.50-60以下にある下値抵抗を切り崩す動きが強まり易くなります。この場合でも106.00~106.50ゾーンには長期的な下値抵抗が控えており、簡単には下抜けないでしょう。一方上値は、2018年10月に付けた114.54を基点として上値を切り下げて来た流れから上抜けきれていません。この週足のレジスタンスライン(C)は109.80-90に位置しており、直近の3週間の上値トライでもこれを実体ベースで上抜けきれていませんが、110.00超えで越週した場合は、もう一段上のレジスタンスライン(B)をトライする動きが強まり易くなります。この週足の上値抵抗は110.80-90にあります。全て上抜けて越週した場合は一段のドル上昇に繋がり易くなります。週足の上値抵抗は109.80-90,110.80-90,111.60-70に、下値抵抗は109.20-30,108.50-60,108.00-10にあります。31週、62週移動平均線は106.69と106.59に位置しており、中期トレンドは“ドル強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2.ユーロ/円相場:中・長期トレンドは“ユーロ強気”を維持。131円割れの越週で短期トレンドが変化。130円割れの越週で中期トレンドが変化。

月足を見ると、5月足は高値圏で引ける陽線引けとなり、7手連続の陽線引けとなりました。個々の足が強いものではないので、急伸にも繋がっていませんが、2手前の4月足が2008年7月に付けた169.97を基点とする長期的なレジスタンスラインを上抜けて越月しており、長期トレンドが“ユーロ強気”に変化した可能性が生じています。この反動で5月も陽線引けとなっています。この月足のサポートライン(A)は130.00~130.50に位置しています。また、2014年12月に付けた149.55を基点とする中期的なレジスタンスラインからも2月足が既に上抜けており、中期トレンドも強い状態にあります。このサポートライン(B)は125.00~125.50に位置しています。また、昨年5月に付けた114.43を基点として下値を切り上げて来たサポートライン(C)も130.00近辺に位置しており、中期的なトレンドをサポートしています。一方で、135~137円ゾーンは長期的な上値抵抗として働くポイントであることや、日柄的には8~9手で一旦天井を見る傾向にあることから、今、来月中にも目先天井を確認して、調整下げ局面に入る可能性も高く、続伸に繋げた場合でも上記のレベルは簡単には上抜けないでしょう。今月は小反落に転じていますが、今のところ下値を切り上げる流れには変化が認められず、調整的な押しの範囲内となっています。また、月足ベースでは(A)及び(C)のサポートラインが130.00~130.50にあり、強力な月足サポートとして働いた状態です。下落に転じた場合でも、これを割り込むほどの下げには繋がり難く、調整的な下げに留まるなら130円を割り込まない可能性が高いと見られます。可能性が低いと見ますが、130円割れで越月した場合は、強いサポートポイントを下抜けたことにより、中期トレンドが変化して一段の下落に繋がり易くなります。この場合はサポートライン(B)の125.00~125.50をトライする可能性が生じます。6月足の上値抵抗は135.50~136.00,137.00~137.50に、下値抵抗は130.00~130.50,125.00~125.50にあります。可能性が低いと見ますが、125円割れで越月した場合は120円方向への一段のユーロ下落に繋がり易くなります。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は123.72と124.82に位置しており、長期トレンドは“ユーロ強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

一方、週足でもう少し近場のトレンドを確認します。週足は、2週連続陰線引けとなり、上値を切り下げています。上値の重い感がありますが、個々の陰線が下げエネルギーの強いものではないことや、下値を切り上げる流れに変化が認められず、現状は調整下げの範囲内に留まっています。但し、132円割れで越週した場合は、今年1月に付けた125.09を基点として下値を切り上げて来たサポートライン(A)を下抜けて、短期トレンドが変化して下値リスクがやや高くなります。さらに、131円を割り込んで越週した場合は、昨年5月に付けた114.43を基点とする中期的なサポートラインを下抜けて、一段の下落リスクが点灯します。この場合でも月足ベースで見た強い下値抵抗が130.00~130.50ゾーンに控えており、これを割り込んで終えるまでは“ダマシ”となる可能性があります。逆に、今週の下値トライでも132.00-10の抵抗を守
り切って反転、さらに134.00-10の抵抗を週足の終値ベースで上抜けて越週した場合は、浅い調整下げに留まった可能性が高くなり、再び上値追いの流れに戻します。この場合でも135円超えには中・長期的な上値抵抗が散在しており、ユーロ急伸にも繋がり難いと見られます。今週の週足ベースで見た上値抵抗は133.40-50,134.00-10,134.70-80に、下値抵抗は132.60-70,132.00-10,131.10-20にあります。31週、62週移動平均線は128.65と125.21に位置しており、中期トレンドは“ユーロ強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

3.金/円相場:中・長期トレンドは強気の流れ。

世界的に流動性資金が余剰傾向にあることや、低金利時代の中で金相場は“デフレの金”としても妙味があり、相場も上昇傾向が続いています。今月は、金先物相場のチャートで、中・長期的なトレンドを分析します。

(出所:Bloomberg)

月足を見ると、5月足が大陽線で終えており、トレンドが強い状態にあることを示しています。6月は小反落の推移となっていますが、トレンドは再び上昇トレンドに入った可能性が高いことを示しており、6月の下げも深い押しには繋がらず、調整的な下げに留まる可能性が高いと見られ、調整一巡後は、7月以降の7000円方向へ向けての一段の上昇に繋がる展開が期待できます。月足チャートは2013年以降続いてきた、4000~4500円を中心とする長期間のもみ合いから2019年6月足が上抜けており(ラインA)、強い上昇トレンド入りした形となっています。また、昨年8月に付けた7032円を基点として上値を切り下げて来た流れから5月足がしっかり上抜けて越月しており(B)、新たな上昇トレンドに入った可能性が生じています。この月足サポートは6000円近辺に位置しており、中・長期的な下値抵抗として働く可能性を示唆しています。また、2019年6月に付けた4520円を基点とするサポートラインの下値抵抗も6000円近辺に位置しており、下値を支えています(C)。月足の上値抵抗は6730~6780円、6950~7000円に、下値抵抗は、6480~6530円、6230~6280円にあります。長期トレンドは6000円割れで越月しない限り、変化しません。31ヵ月移動平均線は5615円に位置しており、長期トレンドは金強気の流れあります。

金円相場は、ドル金の相場に大きく左右されます。短期的には1905~1910ドルにやや強い上値抵抗が出来ており、これを上抜けて来ないと上値余地も拡がり難い状態ですが、下値も1960~1965ドルに強い下値抵抗が出来ており、週足ベースで1960ドルを割り込んで越週しない限り、下値余地も拡がり難い状態です。また、日足が1915ドル以上で終えれば次のターゲットは1940~1945ドルに上がってきます。さらにこれを週足ベースで上抜けた場合は1960~1965ドルが視野に入ってきます。但し、このレベルは中・長期的に見ても強い上値抵抗として働くポイントであり、一旦上抜けても押し戻される可能性も高いことから、金円相場もドル金相場がこのレベルに到達した場合は反落に転ずる可能性にも注意する必要がありそうです。ドル金相場の月足ベースで見た強い上値抵抗は2035~2040ドルにあります。

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。