2021年1-3月期で底打ちのNY 金

~ファンドの売り一巡にアジア実需の復活~

底打ちのNY金

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2021年4月5日

 

上振れの米雇用統計への反応は限定的

4月2日に発表された米3月の雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比91万6000人増と、市場予想の64万7000人増を大きく上回った。昨年8月以来の大幅増で失業も6.0%と、2月の6.2%から低下した。新型コロナウイルスのワクチン接種拡大やバイデン政権の1.9兆ドルの追加支援策を追い風に、雇用回復のピッチは上がり始めているようだ。
結果に対する市場の反応は、発表日がイースター(復活祭)の休日に当たったことから、週明け5日の市場に持ち越されたが、市場が開いていた債券市場では、米長期金利の指標となる10年債利回りが先週4月1 日の1.671%前後から1.714%へと上昇。ドルも若干上昇したものの、ドル指数(DXY)93ポイント前後と大きな変化はみられていない。週明けNY 時間外のニューヨーク金先物相場(以下、NY 金)も目立った動きは出ていない。
NFP(非農業部門雇用者数)が予想比で上振れたにも関わらず、市場に目立った動きが見られないのは、ワクチン普及の加速などから経済正常化見通しが相当程度織り込み済みで、実際にNFP にしても最大100万人増という予想も出ていたことがある。また、失業率3.5%を完全雇用の目安にし、雇用の最大化を政策目標に掲げる米連邦準備理事会(FRB)だが、昨年来単純な失業率低下のみを目標に掲げていないことがある。というのも労働参加率や黒人の失業率が9%台で高止まるなど、人種間の失業率の差異なども含め質的な雇用改善を目指していることがある。つまり、今回発表された雇用統計の好結果も総合的見地からは、まだまだであり、新型コロナパンデミックで失われた雇用を取り戻すには少なくとも2年はかかるとの見方を変えるものではない。

大幅に減少したファンドのNY 金買い持ち

この点では米債市場も経済正常化を3月末にかけて先食いした感は否めず、先週4月1日に発表された3月のISM(供給管理協会)製造業景況指数が64.7と2月の60.8から予想以上に上昇し、1983年来で最高を記録したにもかかわらず、10年債利回りに目立った反応はみられなかった。NY 金は3連休を前に続伸で取引を終え、通常取引は1728.40ドルで取引を終えていた(清算値)。四半期末の接近で週初3月29、30日の両日で50ドル近い下げに見舞われたが、NY 金先物市場でのファンドの買い越し残は、2月以降3月30日時点までで2カ月間で重量換算で279トン減った経緯がある(オプション取引除く)。買い越し額は521トンと2019年6月4日以来の水準まで落ちている。したがって3月末にかけての下げも、目先筋の売り持ち(ショート)の拡大によると見られ、しかも短期志向の売りとみられた。月末四半期末に向けて再び1700ドル割れを見たNY 金だが、そうした短期の売り持ちポジションが解消され1700ドル超の水準を回復となった。

アジア実需復活を示すインド輸入急増

アジア実需復活を示すインド輸入急増

一方、アジアを中心とする現物の買い引き合いの復活も伝えられ、1700ドル割れや、その近辺では買いが入っているとされていた。3月中旬にインドの2月の金輸入量が91トンと、前年同月比で103%増、つまり倍増したことが注目されたが、実需復活が数字の上で証明されたことになる。4月1日にロイターが伝えるところでは、3月の同国の輸入量は160トンと、さらに拡大したとされる。
インドは4、5月の春の婚礼期を迎えることから、2月の輸入増加はその手当とみられ、3月はさらにそのピッチが上がっていることを表している。
一方、金現物を巡る投資家動向として下げ過程で注目されたのが、金ETF(上場投資信託)の残高減少だった。世界的な金の広報・調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のデータでは、2月の85トン減少に続き、3月はさらに120トン程度減少したとみられる。ETF の売りの主体は欧米の投資家であることから、構図としてはこうした現物由来の欧米の売りをインド1国で吸収したことになる。全人口の50%超が24歳以下で締めているとされるインド。インドの金の婚礼需要は世界的に知られるが、昨年の春の婚礼期に新型コロナの感染拡大によるロックダウン(経済封鎖)で、結婚式は先送りされた経緯がある。2020年秋の婚礼期に需要の戻りが伝えられたものの、春の先送りという観点からは驚くほどの規模ではなかった。しかし、足元の輸入統計が示すのは、ペントアップ・ディマンド(先送りされた需要)の表れといえるもの。NY 金先物でのファンドの手仕舞い売りの一巡に加え、インドなどアジア需要の浮上が、NY金の底打ちを表しているといえる。この点で再びインドでも新型コロナの感染者の増加が伝えられているのが、要注意だが、インド国内では既にワクチン製造が始まっていることから、昨年のような事態は回避されると思われる。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。