「三金」から「五金」、「九金」へ エスカレートする中国の金ブーム

エスカレートする中国の金ブーム

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年3月29日

 
この原稿を書いている3月下旬、金の取引価格は昨年の史上最高値から約2割下落している。そんな中、中国では過熱ともいえる大変な金ブームが訪れているのをご存知だろうか。とくに3月に入ってからは、北のハルピンから南のアモイまで、全国各都市の金装飾店に客が殺到している。

そもそも中国人の金装飾品に対する愛情は、昔から有名だ。世界で一番金を愛する国民と言っても過言ではない。中国や香港に行かれたことのある方なら、「周大福」や「周生生」、「老鳳祥」などの中国ジュエリーブランド店をご覧になったことがあるだろう。ショーウインドーに飾られている商品はもちろん、店の中まで金でピカピカだ。

結婚やお祝い事にも金の装飾品は欠かせない。中国では結婚に際して「三金」という伝統的風習がある。これは婚約の際、男性から女性へ結納品として送るもので「金のネックレス」「金のイヤリング」「金の指輪」の3点セットを指す。結婚式の日は、それらで身を飾った新婦が新郎の家へと向かうのだ。

最近では、もっと豪華な「五金」も注目を集めている。「三金」に金のブレスレットと金のアンクレットを加えた5点セットだ。といってもブレスレットは両腕にするので結果、6点となる。この流行に合わせ、周大福などでは古典的なブレスレットも人気となっている。特に「龍」や「鳳」など結婚式に着る漢服に合わせたデザインが人気だという。

「三金」出典:周大福 HP「三金」出典:周大福 HP
「五金」出典:婚博会資訊網「五金」出典:婚博会資訊網

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さらに、花嫁の母親が持たせる嫁入り道具として「九金」セットも人気だという。どれも金でできたミニチュアサイズで、鏡、櫛、刺繍の靴、物差し、アイロン、はさみ、そろばん、貯金箱、米の秤などが美しいボックスにおさめられている。これには娘の結婚生活が豊かに幸せに続くようにという願いと生活の保障という意味合いがあるそうだ。

「龍」と「鳳」のブレスレット 出典:周大福「龍」と「鳳」のブレスレット 出典:周大福
「九金」出典:婚博会資訊網「九金」出典:婚博会資訊網

ここ数十年の経済成長と所得の増加で、一人っ子世代の結婚式は豪華になる一方だ。その中で、両家の親たちが特注の金の宝飾品セットを準備する伝統も復活しているのだ。

しかも、中国人には、親の50才、60才、70才、80才など節目の誕生日に、子供や親族がお祝いに金の装飾品を特注して贈る習慣もある。
そんな“金フリーク”の中国人にとって、金価格の下落は大チャンスである。昨年はコロナの影響で、結婚式や親の誕生日会も延期されたが、ワクチン接種が順調に進み、街の様子もコロナ以前に戻りつつある今、2月の旧正月には慎重に家にこもっていた人々も5月の連休に向けて様々なイベントの計画を練っている。特に目立つのが結婚式の多さだ。

福建省泉州のショッピングモール内の周大福の3月の売り上げは前年比+100%、2倍にもなったというが、そのほとんどが、5月・6月に結婚式を控えたカップルの注文だ。

10月1日の建国記念日の7連休には、さらに多くのカップルが結婚を予定している。このチャンスをものにしようと、店側も大々的なキャンペーンを打ち出している。金の指輪やネックレスを注文すると当日の金価格から1gにつき30元値引きなど、日本ではあまりお目にかからない類のキャンペーンだ。

ハルビン新聞網には、ハルピンの大型ショッピングモールの金装飾店で買い物していた女性のこんなインタビューも載っていた。「去年、この店で50g金のブレスレットを見て気に入りましたが、3万元もしていて買えなかった。それが今は2万元とちょっと。これなら買えます。」

出典:網易新聞

中央電視台経済チャンネルの報道によれば、この金ブームで、中国では金装飾品の加工会社が大変な忙しさになっている。深圳市の「意大隆珠宝」では2月の旧正月から、毎日、普段の3倍の加工量をこなしているが、注文リストは5月下旬までいっぱいだという。経営者は「毎日、2千万元分の金の原材料を買って加工し、毎日少なくとも2回出荷する。以前は40人体制でやっていたが、残業続きで従業員が悲鳴を上げ、最近新たに20人の職人を雇ったが、それでも足りない。今、新たに20人を募集しているが、熟練工はなかなか見つからない」という。
その結果、この業界の給与は昨年比3割もアップしているという。

だが、いくら中国人が昔から金好きといっても、私は今時の若者たちは、金の装飾品は古くさくてダサいと敬遠するのではないかと思っていた。でも実はそうではないという。網易新聞の記事では、今、上の写真のようなデザイン性の高い金のジュエリーが大人気なのだそうだ。確かにこれならスタイリッシュである。

こういった中国の金装飾品の流行現象は、一見、ダウ平均やアメリカの経済指数ほど世界の金相場に影響を与えないと思われるかもしれない。だが、中国は、金消費量、生産量とも世界一という点から見れば、やはり参考になる。

昨年、中国の金の総消費量はコロナの影響で前年比18.13%減の820.98トンとなったが、依然として14年連続世界一、2位のインドの約2倍である。
金装飾品の消費量は前年比
27.45%減少したが、それでも490.58トンで世界一。金装飾品の消費量だけで、インドの金総消費量446.4トンを超えている。更に昨年は経済の先行きへの不安で、

金の延べ棒、金貨などの消費量は逆に9.21%増となった。一方、ここ数年の中国の金産出量の推移は、下図のように2016年をピークにした後、減少傾向が続いている。昨年は380トンで前年比横ばいだが、今年の産出量もそれほど伸びないだろう。

出典:U.S.Geological Survey Mineral Commod ity Summaries 単位:トン出典:U.S.Geological Survey Mineral Commod ity Summaries 単位:トン

金価格の下落と、いち早くコロナを脱出したことで起きた「報復的消費」で、今年、中国の金装飾品消費は大幅増となるだろう。一方、3月の米中対立の激化で中国の株式市場は大幅下落している。これらの要素と、金の実需、国内産出量を合わせてみると、やはり中国からは目が離せないと感じる。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。