FRB他、各国中央銀行の金融政策正常化の動きを映してドル全面安の展開。世界経済の先行きはさらに不透明に。

FRB他、各国中央銀行の金融政策正常化の動きを映してドル全面安の展開。世界経済の先行きはさらに不透明に。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2022年6月11日

 

米5月の雇用統計は失業率3.6%、非農業部門就業者数+390千人と雇用市場が引き続きタイトな状態にあることが認められました。また、10日に発表された米5月の消費者物価指数(CPI)は前月比+1.0%、前年比+8.6%と40年5ヵ月振りの高水準となり、市場予想も上回りました。一時はピークアウトしたかと思われていたインフレが鎮静化していないことが認められたことから、FRBの金融引き締めがさらに強まるとの見方が台頭、米国10年債利回りは3.15%まで上昇しています。企業物価指数も上昇する中で一部には雇用調整に入る動きも見られており、景気先行きに不透明感が増しており、先週末の海外株式市場は急落、ドルは全面高の様相を呈しています。また、露・ウクライナ情勢も長期化する可能性が高いと見られ、エネルギー価格や穀物価格が一段と上昇しており、インフレ圧力がさらに強まる可能性が高くなっています。FRBは年内にも2.5~3.0%までFF金利を引き上げると見られますが、インフレ圧力が収まるのが先か、消費に陰りが見えるのが先か、判断が難しい状況となっています。世界的に物価上昇圧力が強まる中、ECBも7月には量的緩和策の終了し、利上げに踏み切ることを宣言しています。日本を除く主要各国の中央銀行は利上げによりインフレ圧力に対応する構えですが、果たして景気を冷やさずに物価の上昇を食い止めることが出来るのでしょうか。
これまで中央銀行は景気過熱に伴う物価上昇圧力を金融政策でコントロールして来ましたが、今の世界経済は景気に過熱感はなく、物価上昇圧力もCovid19の感染拡大によるサプライチェーンの目詰まりによるものでした。漸く目詰まり状態から脱却しかけたところで、露・ウクライナ情勢の急変に見舞われた世界経済は、日欧米の対露制裁経済対策と引き換えに、再び物流の目詰まりや、物価の高騰に見舞われています。『With コロナ』下での経済回復基調が定着するかに見えた世界経済の行方は、露・ウクライナ情勢の長期化で再び先行き不透明となっています。
日本VS欧米の金融政策格差、経済力格差は大きな隔たりがあり、また、急激な円安が輸入物価を押し上げ国内での物価上昇圧力を強めており、さらには対外競争力も失われつつありますが、国内での緊急事態宣言が解除された今、景況感はやや改善しており、これから悪化する可能性の高い欧米諸国との格差は縮小する可能性も高いと見られます。売られ過ぎの日本=円安が是正される日もそう遠くないとも言えそうです。

チャートから見た注目通貨の方向性

1.ドル/円相場:中・長期トレンドは“ドル強気”変わらす。短期は132.50割れで変化。

月足チャートで長期的な方向性を確認します。2015年6月に付けた125.86を基点として上値を切り下げて来た長期的なレジスタンスライン(A)を2021年3月足が上抜けて長期トレンドに変化が生じましたが、その後は2022年3月までの約1年間は急伸にも繋がらず、揉み合いの域を抜け出せない状態が続きました。今年3月に入り、FRBが0.25%の利上げを開始したことを契機に、ドル/円は急騰開始。それまで蓄積されていたエネルギーを吐き出す形となり、6月現在もドル上昇トレンドが継続しています。長期的な観点から見れば、ドル/円の一相場は5~8か月の傾向にあります。3月から開始したとすれば、早くても8月までは大幅なドル下落には繋がり難いことになります。また、トレンドが非常に強い状態を保っていることから、本格的な下げに入るとすれば11月位までは、基調ドル強気の流れが継続する可能性を見て置く必要があります。テクニカルに見ると、2021年1月に付けた102.59を基点とするサポートライン(C)の下値抵抗が117.50~118.00にあります。これを下抜けて越月しない限り、トレンドは大きく変化しません。またこれを下抜けて越月した場合でも、長期的なサポートライン(B)が106~107円台にあり強力な下値抵抗として働きます。長期トレンドは105円を割り込んで越月しない限り、“ドル弱気”に変化しません。では、続伸した場合の上値目途はどうでしょうか?月足ベースで見た上値抵抗は135.00~135.50にありますが、これを上抜けて越月した場合は137~138円台まで上値余地が拡がり易くなります。ドル/円の一相場から見ればこの辺りが上限となると見られますが、オーバーシュートした場合は142~143円まで見て置く必要があります。逆に、129.50~130.00を割り込んで越月した場合は、下値リスクが点灯して下落余地がさらに拡がり易くなりますが、この場合でも、中・長期トレンドが強い状態を維持しており、調整下げに留まるなら124~125円を大きく下抜けない可能性が高くなります。但し、120円を割り込んで越月した場合は立ち上げの原点である115~116円台まで円高が進む可能性が生じます。月足ベースで見た上値抵抗は135.00~135.50,137.50~138.00に、下値抵抗は129.50~130.00,124.50~125.00、120.00~120.50にあります。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は111.43と110.84に位置しており、長期トレンドをサポートしています。
   
(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で短期的な動きを確認します。日足は1/4に付けた116.35を基点とする短期的なレジスタンスライン(A)を3/11足が上抜けて新たな上昇トレンド入りしています。5/9に131.35を付けた後、一旦調整下げ局面入りしましたが、5/24には126.36で調整下げが終了、5/31にはトレンドライン(B)を上抜けて再び上昇トレンドに乗せています。現在は短期サポートライン(C)が下値を支えていますが、132.50を割り込んで終えた場合はこれを下抜けて、短期トレンドが変化します。この場合でも、3/4に付けた114.65を基点とするサポートライン(D)が129円台に位置しており、129円を割り込んで終えない限り、調整下げの範囲内となり、下値余地が拡がり難い状態です。日足の上値抵抗は、134.60-70,135.00-10,136.30-40,137.50-60に、下値抵抗は、133.80-90,133.30-40,132.70-80,131.00±10銭にあります。21日移動平均線は129.62に、120日、200日移動平均線は121.39と117.96に位置しており、短期トレンドは“ドル強気”の流れに変化が認められません。

2.豪ドル/円:中・長期は豪ドル強気の流れ。短期は下値リスクを残した状態。

6/7、オーストラリア準備銀行は政策金利(キャッシュレート)を0.5%引き上げ、0.85%としました。また、物価上昇圧力がさらに強まる可能性が高いことから、次回7/5の会合でも利上げを継続する可能性を示唆しています。一方国内経済については、失業率が3.9%と50年来の低水準であり、労働市場がタイトな状態にあること、家計及び企業のバランスシートが健全であること、消費に陰りが見られないこと、商品価格の上昇も国富に寄与していることなどが要因となり、足元の経済は緩やかな拡大基調を維持しています。1-3月のGDPは前期比+0.8%(前年比+3.3%)でした。先行きの経済に対する不確実要因としては、高まるインフレ圧力により、家計消費がどう変化して行くか、金利が上昇し、住宅価格もパンデミック前の水準に比べて25%以上高い水準にあること、露・ウクライナ情勢の長期化がエネルギーや農産物に与える影響、さらにはオーストラリアとの貿易関係の深い中国経済の先行きについても懸念材料としています。オーストラリアの経済は底堅く、また資源国である強みがありますが、足元ではFRBによる金融引き締め策が功を奏してインフレ圧力を抑え込めるかどうかが焦点となっており、ドル全面高の流れにある中で、豪ドル/円もこの動きに左右される展開が予想されます。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

月足で長期的なトレンドを確認します。月足は、2020年3月に付けた59.91を基点として下値を切り上げる流れを維持しており、このサポートドライン(A)の下値抵抗は84.50~85.00にあります。また、2013年4月に付けた105.44と2014年11月に付けた102.84を結ぶ長期的なレジスタンスライン(B)を今年3月の大陽線が上抜けて越月しており、長期トレンドにも変化が生じています。5月にはこのサポートラインを値動きの中で若干下抜ける場面もありましたが、6/10現在このトレンドライン(A)を上抜けた位置に戻しており、“豪ドル強気”の流れを維持しています。(A)の下値抵抗は89.00~89.50にあります。超長期的には、2007年10月に付けた107.89を基点とする超長期的なレジスタンスライン(C)の上値抵抗が101円台にあり、これを上抜けるにはまだ力不足と見られますが、102円台にしっかり乗せて越月した場合は、一段の上昇に繋がり易くなります。逆に可能性がまだ低いと見ますが、88円割れで越月した場合は下値リスクが点灯、84円を割り込んで越月した場合は中期トレンドの変化に注意が必要となります。月足の上値抵抗は98.00~98.50,101.00~101.50に、下値抵抗は89.00~89.50, 84.50~85.00にあります。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は80.16と80.57に位置しており、長期トレンドは“豪ドル強気”の流れにあります。   

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で、足元の方向性を確認します。昨年12月に付けた78.79を基点とする中期的なサポートライン(A)は84.50-60に位置しており、中期トレンドをサポート中です。また、1/28に付けた80.37を二番底として、5/12に付けた直近安値87.31を結ぶサポートライン(B)の下値抵抗が89.20-30にあり、強い下値抵抗として働く可能性があります。さらには、5/12の87.31を基点とするサポートライン(D)が92.00±10銭に位置しており、これも強い下値抵抗として働いています。短期的には4/20に付けた95.74を基点として上値を切り下げて来たトレンドライン(C)を5/30の日足が上抜けて、新たな上昇トレンド入りしましたが、この短期的なサポートライン(E)を、直近の陰線(6/10足)が下抜けて終えており、調整的な下げ局面に入った可能性が生じています。92.00±10銭には強い下値抵抗がありますが、これを下抜けて終えた場合は、90円前後までもう一段下値余地が拡がる可能性が生じます。この場合でも89円割れで終えない限り、トレンドは大きく変化しません。逆に96.50超で終えるか、97.00超えまで反発した場合は、再び強気の流れに戻して100円超えトライの動きが強まり易くなります。日足の上値抵抗は95.30-40,96.50-60,97.00-10に、下値抵抗は93.80-90,92.50-60,92.00±10銭にあります。21日、120日、200日移動平均線は92.20,87.71,85.53に位置しており、短期トレンドをサポートしています。

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。