FRBによる金融引き締め加速への警戒感とスタグフレーションの可能性が浮上。世界経済の先行きに不透明感拡がる。

FRBによる金融引き締め加速への警戒感とスタグフレーションの可能性が浮上。世界経済の先行きに不透明感拡がる。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2022年5月14日

 
米4月の雇用統計は失業率3.6%、非農業部門就業者数+428千人と雇用市場が引き続き堅調であることを印象づけました。しかし、翌週発表された米CPIや卸売物価指数は依然として高い水準にあり、インフレがピークアウトしかたどうかを確認出来ない状態です。年初のアメリカ経済はコロナ禍でも、財政支援策と金融緩和政策の両面で経済を支えられる体制にあり、旺盛な消費と雇用市場がけん引して緩やかな拡大基調を維持できるとの見方が大勢でしたが、2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻や、中国国内でのコロナウィルス感染拡大による都市のロックダウンなど、サプライチェーンの目詰まりが解消しないうちに、予期せぬ非常事態が勃発、世界経済の回復シナリオが崩れ始めており、世界経済の先行きは年初に比べて不透明さが増して楽観視出来ない状況に変わっています。まずはインフレ抑制を最優先とするFRBが3月から利上げを開始、以降も0.5%程度の複数回の利上げと、バランスシートの縮小(QT)に踏み切ることを決定しています。マネー収縮と金利先高観は株式市場を直撃し、株価は不安定な動きが続いています。バイデン政権にとってインフレ抑制が最優先課題となっていますから、FRBも株式市場の下落を犠牲にしても、インフレ抑制姿勢を崩さないとみられます。足元では消費に陰りが見られず、雇用市場も安定していますが、年初のコロナ禍と異なり、財政支援が期待できない状況の中で、景気を冷やすことなくインフレ退治ができるかどうか、FRBの金融政策の手腕が問われるところです。
一方欧州ではサプライチェーンの目詰まりの解消を見る前に、ロシアによるウクライナ侵攻が開始され、これによりインフレ圧力が一段と強まる可能性が生じています。また、長期化の様相を呈する露・ウクライナ情勢に、EUは対露追加経済制裁措置を発動する構えです。この中にはロシアからの石油禁輸も検討課題となっており、経済制裁措置と引き換えに返り血を浴びる欧州経済の先行きに暗い影を落としています。加えて、足元では中国のゼロコロナ政策による大都市のロックダウンで、中国の景気減速懸念や新たなサプライチェーンの問題も浮上しており、日米欧の経済にも影響を及ぼす懸念が浮上しています。
日本については欧米諸国との金融政策の違いやファンダメンタルズ格差から基調『円安』の流れは変わらないと見られますが、米欧経済の足元も揺らぎ始めており、3月、4月と続いた円の急落地合いは一服する可能性が生じています。

チャートから見た注目通貨の方向性

1. ドル/円相場:中・長期トレンドは“ドル強気”。短期は調整局面入り。

週足チャートで中期的な方向性を確認します。ドル/円は昨年1月に付けた102.59を基点として下値を切り上げる流れ(A)を維持しており、基調はドル高/円安の流れを変えていません。この中期的なサポートライン(A)の下値抵抗は115.00-10に位置しています。しかし、短期的に見ると、今年3月に付けた114.65を基点として急角度で下値を切り上げて来た、短期的なサポートライン(B)から直近の陰線が下抜けて越週しており、短期トレンドに変化が生じています。9週間連続の陽線で下値を急角度で切り上げて来た流れが10週目の先週で一旦終了、調整的なドルの下押し局面に入った可能性が高くなっています。但し、中・長期トレンドが強い状態を保っていることから、ドルの下落余地が限られる可能性も高く、また、調整的な押しに留まるなら124~125円ゾーンにある下値抵抗を攻めきれない可能性も高いと見られます。また、調整期間は通常は2~3週間程度に留まる傾向も多いことから、この動きは5月中で終了してもおかしくありません。週足ベースで見た上値抵抗は129.90-00,130.80-90,131.50-60,132.50-60に、下値抵抗は128.50-60,127.00-10,126.20-30,124.60~125.00にあります。31週、62週移動平均線は117.74と113.80に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で短期的な動きを確認します。日足は昨年9月に付けた109.12と今年1月の安値113.47を結ぶサポートライン(A)が短・中期トレンドを支えており、この日足の下値抵抗は117.00-10にあります。しかし、今年3月に付けた114.65を直近安値として下値を急角度で切り上げて来た短期的なサポートライン(B)を下抜けて下値リスクが点灯、さらには114.65と短期トレンドの立ち上げを確認した3/11の陽線を結ぶサポートライン(C)も下抜けた位置で推移ており、短期トレンドに変化が生じています。この日足の上値抵抗は130.00-10にあります。130円台を回復して引けた場合は“ニュートラル”な状態に戻して、下値リスクがやや後退、131.00超えに実体を乗せて終えるか、131.50-60の抵抗をクリアした場合は、調整下げが終了して、再び“ドル強気”の流れに戻し、132.50~133.50方向への一段のドル上昇に繋がり易くなります。但し、前述の通り、週足の形状が悪化していることから、短期的には131円台を回復して終えるのは難しいと見られます。日足の上値抵抗は130.00-10,130.80-90,131.50-60,132.50-60に、下値抵抗は128.50-60,127.00-10,126.00-10,125.00-10にあります。調整的な押しに留まるなら、押しは深い場合でも、124.50~125.00ゾーンを大きく下抜けない可能性が高いと見られます。21日移動平均線は129.04にあり若干上抜けて終えていますが、“ダマシ”となる可能性があります。また、120日、200日移動平均線は118.72と115.09に位置しており、中期トレンドは“ドル強気”の流れに変化が認められません。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2. 豪ドル/円:短期は下値リスクを残した状態。中・長期は豪ドル強気の流れ。

オーストラリア準備銀行は5月3日、インフレ懸念の高まりを受けて政策金利(キャッシュレート)を0.35%に引き上げました。世界的にインフレ圧力が強まる状況下、中銀は利上げを継続する可能性を示唆していますが、国内経済は消費と堅調な雇用市場に支えられて、緩やかな拡大基調を維持しています。不安材料は、中国のゼロコロナ政策による大都市のロックダウンの解除が遅れること、これにより中国経済が大きく減速することですが、欧米ではすでにオミクロン株の感染拡大と共存する形で経済再開を果たしており、中国も早晩ロックダウン解除に動くと見られ、中国発による豪経済への影響は軽微なものに留まると見られます。一方で、世界経済全体では、インフレ圧力が終息するかどうか不透明な状況にあり、米欧経済がスタグフレーションに陥った場合は、オーストラリアも大きな影響を受ける可能性があります。豪ドルは対米ドルでは“弱気”の流れが継続中ですが、対円では底堅く推移しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

月足で長期的なトレンドを確認します。月足は、2013年4月に付けた105.44と2014年11月に付けた102.84を結ぶ長期的なレジスタンスライン(A)を今年3月の大陽線が上抜けて越月しており、長期トレンドに変化が生じています。今月に入って87.31までの急落時に下ヒゲ部分が若干下抜ける場面もありましたが、5/13現在このトレンドライン(A)を守った状態です。このサポートラインの下値抵抗は87.50-60にあります。また、中期トレンドを見ても、2014年の戻り高値102.84を基点とする中期的なレジスタンスライン(B)を上抜けた位置を保っており、この中期トレンドは2020年12月に“強気”に変化しています。一方下値も、2020年3月に付けた59.91を基点とする中期的なサポートライン(C)が下値を支えており、中期トレンドは強い状態を保っています。このサポートライン(C)は84.50~85.00に位置しており、(A)を下抜けて越週した場合でも強力な下値抵抗として働くと見られます。月足の上値抵抗は95.50~96.00,98.00~98.50に、下値抵抗は前述の87.50-60と84.50~85.00にあります。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は79.40と80.35に位置しており、長期トレンドは“豪ドル強気”の流れにあります。   

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

週足で、中期的な方向性を確認します。2020年3月に付けた59.91を基点とするサポートライン(A)は84.50-60にあり、中期トレンドをサポート中ですが、短期的には、4月に付けた95.74を直近高値として上値を切り下げていることや、今年1月に付けた80.37を基点とする短期的なサポートライン(B)を、値動きの中では一旦下抜けており、下値リスクにも注意する必要があります。今のところ、実体ベースでは(B)を守っていますが、87.50以下で越週した場合は、短期トレンドが変化して下落余地がさらに拡がり易くなります。この場合でもサポートライン(A)が強い下値抵抗として働く可能性が高く、84円を割り込んで越週しない限り、中期トレンドは“豪ドル強気”の流れを維持します。週足の上値抵抗は91.70-80,92.40-50に、下値抵抗は88.00-10,87.50-60にあります。31週、62週移動平均線は85.36と84.02に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元の動きを確認します。日足は昨年12/3に付けた78.79と今年1/28に付けた80.37を結ぶサポートライン(A)が83.60-70にあり短・中期トレンドをサポート中です。また、短期的に見ても、1/28の80.37と2/24に付けた82.01を直近安値とするサポートライン(B)が短期トレンドをサポートしており、2手前の大陰線がこのサポートラインに跳ね返された形となっています。このサポートラインの下値抵抗は87.40-50にあり、これを下抜けて終えない限り、下値余地も拡がり難い状態です。一方で、上値も4/20に付けた95.74を直近高値として上値を切り下げており(C)、この日足の上値抵抗が92.80-90に位置していることから、これを上抜けて終えるまでは下値リスクを残した状態です。日足の上値抵抗は90.20-30,91.80-90,92.80-90に、下値抵抗は88.10-20,87.40-50にあります。全て下抜けて終えた場合は、85円方向への一段の下落リスクが点灯します。逆に93円台で終えれば下値リスクが後退、94円超えで終えた場合は、上値余地がさらに拡がり易くなります。21日移動平均線は92.15に位置しており、短期トレンドは下値リスクを内包中ですが、120日、200日線は85.84と84.93に位置しており、強い下値抵抗として働く可能性が高いと見られます。

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。