ロシアのウクライナ侵攻で世界経済の先行きに不透明感強まる。FRBの利上げ、バランスシートの縮小開始も波乱含みか。

ロシアのウクライナ侵攻で世界経済の先行きに不透明感強まる。

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2022年3月12日

 
米3月の雇用統計は失業率が3.8%、非農業部門就業者数は+678千人と雇用市場が引き続き好調であることを印象付けました。一方ロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧米を中心に相次いで対露制裁措置を発表、資産凍結や金融取引の制限、禁輸などにより対露制裁を強めていますが、欧州諸国は制裁措置の影響が直接自国経済へ跳ね返ってくることが予想されることから、対露制裁には慎重で、先進国の足並みは必ずしも揃っていません。ロシアは目的達成のためには一歩も譲歩しない姿勢を示しており、この戦争がさらに長引く可能性があることから、エネルギー価格や穀物相場の急騰、株式相場の急落、為替市場でもユーロが急落地合いとなるなど金融市場は混乱が続いています。人道回廊の設置によるウクライナからの市民救出開始や、停戦協議への期待から、金融市場はやや落ち着きを取り戻し始めているように見えますが、コロナ禍で漸く立ち上がった世界経済が、戦争をきっかけにした資源・穀物価格の上昇により、インフレ高進がさらに進み、消費者心理が冷える可能性も出てきています。また、欧州はウクライナからの難民救済への対応も迫られており、スタグフレーションへの懸念は増しています。こうした中ECBはインフレ高進を受けて量的緩和政策の前倒しを発表、年内の利上げも視野に入れていますが、今後のウクライナ情勢如何では今後のECBの金融政策にも影響を与えることが予想され、その一挙一動が注目されます。
一方アメリカは3月のFOMCで利上げに踏み切ることが確定的です。サプライチェーンの目詰まりによる物価上昇圧力が収まらない中、対露制裁措置により、ロシアからの原油の供給が断たれることで、物価上昇圧力がさらに強まる可能性が生じていますから、景気が冷える前に早急にインフレを抑え込む必要があります。FRBは利上げ開始後にバランスシート縮小にも着手する構えですが、「戦争」という想定外の地政学的リスクが起こった今、FRBの責務とする「物価の安定と雇用の最大化」を景気の減速なしに達成できるのか、FRBは極めて難しい局面の中で、マネーコントロールの手腕を問われる時期に入っています。
日本についても2月の企業物価指数が前年同月比+9.3%と1980年代のオイルショック以来の上昇となっています。企業の価格転嫁への我慢も限界に来ていると見られ、円安と輸入価格の上昇は今後の消費や経済にも悪影響を及ぼす可能性が一段と強まっています。景況感、金融政策格差を材料とする円安の流れが継続すると見られますが、円の実効為替相場が50年来の安値水準にあることからこの歪みの調整の可能性も頭の隅に入れておく必要がありそうです。

チャートから見た注目通貨の方向性

1. ドル/円相場:短・中期トレンドは“ドル強気”を維持。115円割れで短期トレンドが変化。113円割れの越週で中期トレンドも変化。

週足チャートで中期的な方向性を確認します。ドル/円は昨年1月に付けた102.59を基点として下値を切り上げる流れを維持しており、ドル高/円安の流れを変えていません。この中期的なサポートライン(A)の下値抵抗は113.30-40に位置しており、113円割れで越週しない限り、中期トレンドは大きく変化しません。また、短期的に見ても、昨年9月に付けた109.12を基点とする短期的なサポートライン(B)が下値を支えています。この下値抵抗は115.00-10にあり、115円を割り込んで越週しない限り、短期トレンドも“ドル強気”の流れにあります。一方上値は117.30-40に週足の抵抗がありますが、これを上抜けて越週した場合は、長期的な上値抵抗ポイントである118円台が視野に入って来ます。但し、118円は非常に強い長期的な上値抵抗であることからこのレベルは簡単には上抜けないでしょう。週足ベースで見た上値抵抗は前述の117.30-40,118.10-20,118.50-60に、下値抵抗は115.50-60,115.00-10,113.30-40にあります。113円台を割り込んで越週した場合は中期トレンドが変化します。31週、62週移動平均線は113.24と110.80に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元のトレンドを見ると、昨年9/22に付けた109.12と、今年1/24に付けた113.47を結ぶサポートライン(A)が短期トレンドをサポートしており、ドル高/円安の流れにあります。この日足の下値抵抗は115.00-10に位置しており、これを割り込んで終えない限り、短期トレンドは“ドル強気”の流れを維持します。また、2/10に付けた116.34の直近高値を基点として上値を切り下げて来た短期的なレジスタンスライン(B)からも上抜けており、新たな上昇トレンドに入った形となっています。さらに、3/4に付けた114.65を直近安値とする短期的なサポートライン(C)が短期トレンドをサポートしています。この日足の下値抵抗は116.20-30にありますが、これを割り込んで終えた場合は、下値リスクがやや高くなり、再度115円台半ばから後半にある下値抵抗の強さを確認する動きが強まり易くなります。短時間での値動きの中では3/4の114.65から押し目のないまま117円台まで続伸しており、ドル/円の短時間での一相場である180~220銭を既に超えていることから、一両日中にも一旦押しが入る可能性が高いと見られます。また続伸した場合でも118円台には長期的な上値抵抗が控えており、このレベルは簡単には上抜けないでしょう。日足の上値抵抗は、117.30-40,118.10-20,118.50-60に、下値抵抗は116.20-30,115.70-80,115.50-60にあります。21日、120日、200日線は115.42,114.24,112.56に位置しており、短期トレンドは“ドル強気”の流れを維持しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2. 豪ドル/円相場:短期は“強気”中期も“やや強気”。86円台で越週すれば一段の上昇へ。83.50以下で終えた場合は短期トレンドの変化に注意。

ロシアのウクライナ侵攻で欧州通貨が下落基調にある中でも、地政学的リスクを受けにくい豪ドルは対ドル、対円で堅調に推移しています。国内経済が消費、雇用市場ともに良好であり、景気の緩やかな拡大基調が持続していることや、近々の利上げ観測も浮上しているためですが、同国との貿易関係の深い中国経済の先行きが不動産バブルでやや不透明な状態にあることから、中国経済の動向や金融政策にも注意する必要がありそうです。
週足チャートで中期的なトレンドを確認します。週足を見ると、豪ドル/円は2020年3月に付けた59.91と昨年8月に付けた77.90を結ぶサポートラインからは一旦下抜けましたが、3月第2週の陽線が再び抜き返しており、中期トレンドは強い状態を保っています。現状は2020年3月の59.91と昨年12月に付けた78.79を結ぶサポートライン(A)が中期トレンドをサポートしており、この下値抵抗は82.00-10にあります。また、昨年10月に付けた86.25を直近高値として上値を切り下げて来た流れ(C)からも2手前の陽線がしっかり上抜けており、短・中期トレンドは“豪ドル強気”の流れを維持しています。短期的には今年1月に付けた80.37を直近安値とするサポートライン(B)が短期的な下値抵抗として働いています。この週足の下値抵抗ポイントは83.60-70にあります。トレンドは強い状態ですが、85.90~86.10ゾーンに週足の横レジスタンスがあり、86.20超えで越週するまでは反落の可能性にも注意が必要です。週足の上値抵抗は85.90~86.10,87.50-60,88.00-10に、下値抵抗は84.50-60,94.00-10,83.60-70にあります。31週、62週移動平均線は82.14と82.51にあり中期トレンドをサポート中ですが、82円割れで越週した場合は中期トレンドが“弱気”に変化します。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元の動きを確認します。日足は、昨年10月に付けた86.25を基点として上値を切り下げて来た流れ(A)から2/25の陽線が上抜けて短期トレンドに変化が生じています。また、昨年12月に付けた78.79と今年1月に付けた80.37の二番底を結ぶサポートライン(C)が81円台半ばに位置しており中期トレンドをサポート中です。短期的には1月の80.37の二番底を基点として下値を切り上げて来たサポートライン(B)が短期トレンドをサポートしており、この日足の下値抵抗が83.60-70に位置していることから、これを割り込んで終えない限り、“豪ドル強気”の流れは変化しません。また、これを下抜けた場合も、(A)が82.50-60に、(C)が81.50-60に位置しており、全て下抜けて終えるか、週足が82円台を割り込んで越週しない限り、下値余地も大きく拡がり難い状態です。日足の上値抵抗は85.90~86.10,87.50-60,87.90-00に、下値抵抗は84.60-70,84.00-10,83.60-70にあります。21日、120日、200日線は83.59,82.80,82.31にあり、短期トレンドをサポートしていますが、83.50以下で終えた場合は短期トレンドが変化、81.50割れで終えた場合は中期トレンドも変化して一段の下落リスクが生じます。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。