米引き締め強化観測でも強含みに推移する金

米引き締め強化観測でも強含みに推移する金

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2022年2月6日

 

引き締まりを感じさせる金需給

前回、1月19日の当欄では「米3月利上げ確定見通しと1800ドル台維持の金」と題して書かせてもらった。本来であれば米金融政策の引き締め観測は金価格には天敵といえるもの。1月26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でのパウエルFRB議長の発言をさらなるタカ派化と受け止めた市場では、ファンドの売り(投げ)が活発化し金価格は1800ドル割れを見ることになった。それでも下値は1780ドル程度と限定的なものとなった。1月19日の更新原稿は以下のように締めくくった。

「米金融当局の政策は確かに金価格の方向性に大きな影響を与えるといえる。しかし、金市場にはFRBの存在も議長の名前も知らず、また関心もない、多くのアジアなど新興国の草の根的な一般の買い手も存在する。そして世界的なインフレの広がりの中で、買い意欲を高めている現状にも目を向ける必要がありそうだ。FRBの政策のみが金の方向性を決める要素ではないと言える。」(2022年1月19日更新)

こう書いたのは、昨年末にかけてインドや中国などの需要回復に力強さが出ていることをつかんでいたことがあるが、その傾向が欧米でも見られたことがあった。1月28日に世界的な金の広報・調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC、本部ロンドン)が公開した21年第4四半期(以下Q4)のデータが出そろったことで、それが数字の上で明らかになった。欧米需要という点で特に現物投資需要を表す「地金と金貨」が、年間ベースで米国が前年比69%増の117トン、ドイツが3%増の162トンとそれぞれ過去最高を更新した。ドイツは2年連続の更新となる。その結果、世界全体の2021年の地金・金貨需要は1180トンと前年比31%増となった。全体の水準は8年ぶりの水準となる。
 意味するのは、一般的に欧米とりわけ米国では、個人投資家は金現物より金ETF(上場投信)や金先物を選択するが、21年の現物投資需要の高まりは、いかにインフレが懸念されヘッジ対象として金が選ばれているかということ。さらに、この傾向は新興国でも同じで、足元でも現物需要の高まりは続いていると思われる。
 金価格の方向性を読むにあたって、ファンドなど投機筋の動向観測も重要だが、地味ではあるが現物需給が例年になく締まっていることにも留意する必要がある。

米長期金利上昇に耐性を示す金

足元の金市場では、1800ドル台をやや上回る水準での綱引き相場が続いている。
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表する週次のデータでは、1月25日までの1週間でNY金先物市場でのファンド(非商業筋=大口投機筋)のポジション(オプション取引除く、以下同じ)は重量換算で買い建て(ロング)がネットで80トン増加していたが、それらはFOMCの結果を受け売り手じまいされたとみられた。先週末2月4日に発表された同CFTCのデータでは、そのことがデータで示された。
2月1日までの1週間でファンドのネットの買い建てポジションは同149トンの減少となっていた。データが示すのは前週に買い持ち(ロング)を増やした以上の手じまい売りと、新規の売り建て(フレッシュ・ショート)の積み増しだった。しかし、それでもNY金の下値は1780ドル台までに限られることになった。むしろ先週の値動きは、1月の米雇用統計の想定外の上振れを受け1.9%超に急伸した長期金利を受け売り崩された後に、間をおかず再び心理的節目の1800ドル超に復帰した点で堅調地合いを印象付けるものとなった。米金利上昇に対する耐性を金市場は感じさせた。

上半期に集約されるリスク要因

足元の金市場は昨年12月以降、引き締め方向に大きく舵を切ったFRBの政策方針が大きな売り材料となり、派生的に表れる米長期金利やドル指数の上昇に上値を抑えられているのは周知のとおりだ。一方で、根強いインフレ懸念は日増しに存在感を増している。この1~3月期あるいは上半期を通しインフレ加速あるいは高止まりが予想され、金価格をサポートする。インフレの加速はFRBの引き締め圧力をさらに高め、株式市場の不安定化を長引かせ安全資産としての金への関心を高めさせる。冬季オリンピックをきっかけに中ロ首脳会談をもち中国の支持を明示的にも取り付けたかたちのロシア。ウクライナ侵攻の切迫化も上半期に高まるリスク要因となりそうだ。

煮詰まりつつある引き締めへの工程表

表面的には対峙する材料に変化はみられないが、内容には変化が見られ始めている。FRBの引き締め政策だが、初回は0.25%で始めて、5月のFOMCでも連続利上げし、インフレ動向に左右されるものの年内5回がFRB内のコンセンサスになるのではと思われる。少なくとも中間選挙がある11月の利上げは見送りとなる予想だ。

最大の注目事項は保有資産(バランスシート)の縮小問題となる。 
これこそ量的緩和(QE)から量的引き締め(QT)へと、比較的短期間に180度の政策転換を意味することによる。3、5、6月の3会合で話し合いを進め、早ければ節目の会合となる6月のFOMCでメンバー経済予測とともにスケジュールと手順を公開という段取りになりそうだ。

金融市場には厳しいQT(バランスシートの縮小)

すでに1月の会合で示されたが、バランスシートの縮小は償還分を乗り換えない「自然減」で実行されることになっている。しかし、これが曲者で、意外と減少額が大きくなる可能性がある。新型コロナ対応でFRBは償還までの期間が短い債券の買い付けが多かったことから、前回(2017年10月スタート)の縮小時に比べ大きくなる可能性が指摘されている。「自然減」でも月間1000億ドルほど縮小する可能性があるとされる。連続利上げの中で、これだけの減少の可能性が年央までに決まるとすると、前述のようにインフレがなお高止まりする中で、市場センチメントのみならず消費者セントメントを冷やす可能性が出てきそうだ。
株式市場の不安定化の継続は避けられず、乱高下を繰り返す中でインフレの高止まりを背景に、金は長期金利の上昇にも関わらず上昇で反応すると思われる。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。