タカ派化FOMC後に反転して来た金

タカ派化FOMC後に反転して来た金

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2022年5月9日

 

想定通りのFOMC

ニューヨーク・コメックスの金先物価格(以下、NY金)は、上値の重い展開の中で、下値を探る動きに転じている。注目の米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれた5月第1週は取引時間中に節目の1900ドルを上回ることはあっても、週を通して終値で切り上げた水準を維持できない状況が繰り返された。

注目のFOMCは、政策金利を22年ぶりの大きさとなる0.5%(50bp、ベーシスポイント)に引き上げ、QT(Quantitative Tightening)と呼ばれる保有資産の縮小を6月に開始するとしたが、金市場では織り込み済みのもの。ほんの2カ月前にはここまでのタカ派的政策決定を見込む向きは限られたが、4月中旬以降に議長を含むFRB高官の発言内容が示唆したのが、今回の決定内容だった。

イベント通過で上昇に転じてきたNY金

政策の方向性は、ドル高、米長期金利の上昇につながるもので、言うまでもなく金市場にはかなりの向い風となるもの。したがって、政策内容発表前日のNY金は一時1850ドル割れまで売られていた(5月3日、1849.70ドル)。ただし、下値はそこまでで環境を考えると、底堅さを感じさせるものといえた。一般的に利上げなど引き締め策が想定されるFOMC前にNY金は先行して下押すことが多く、その後、政策決定を受けたあとは織り込み一巡から反転上昇というパターンをみせてきた。実際に2000年以降ここまで2度の利上げ局面(2004年~、2015年~)でそれは起きている。今回も、米国を中心に高インフレ環境は当面続くとみられ、またウクライナ情勢の不透明感も払しょくされず、株式市場が非常に不安定な値動きを続ける中で、同様のパターンとなると見ている。

行き詰まりを感じさせる米株式市場

今回のFOMCに関しては、株式市場を中心とした市場センチメントと実際のFRBの政策意向との間で食い違いが見られ、今後の市場動向を示唆するものと思われた。
 それは終了後の記者会見にて、一部タカ派のFRB高官が言及し市場でも可能性を見込む動きが浮上していた75bpの利上げについて、パウエル議長は「参加者は積極的な議論をしていない」と否定的な見方を披露したことへの反応だった。株式市場は極端なタカ派化は回避との楽観論に傾き、ダウ30種平均株価が今年最大の値上がり(前日比937ドル、2.81%高)となるなど主要指数が軒並み大幅反発となった。おそらく比較する基準値の問題で、基準を75bp引き上げに置いた場合の50bp以下の引き上げは「買い」とコンピュータープログラムが判断したものと思われた。反転上昇の動きは、年初まで続いた株式市場での成功体験を思い起こさせ、買いの輪が連鎖的に広がり意外高に至ったとみられる。背景には流動性が低下し、値動き自体が荒くなっている市場環境があるとみられるが、いまだ維持されている戻りの期待が失われるときに、底割れにつながるのが経験則の教えるところでもある。FOMC前後の米株の動きは行き詰りを感じさせた。

同じ記者会見でパウエル議長は、「今後数回の会合で50bpずつの利上げを検討すべきだというのが我々の大方の見方だ」とも述べ、6、7月の会合での連続大幅引き上げを示唆しており、やはりタカ派化していることに変わりはない。また6月から実施されるQT(量的引き締め)についてもパウエル議長自身が「(市場への影響について)非常に不確実だ」としており不透明感は強い。それを映す形で翌5日の米株式市場は5%もの大幅な下げで年初来安値を更新したナスダック総合はじめ軒並み急反落となった。この株価の大幅安が金市場に影を投げかける。

上値を抑えるドル高とキャッシュアウトの売り

前述したようにFOMC初日3日に一時1850ドル割れまで売られたNY金だったが、FOMC明けの5日NY時間の午前には、一時前日比2.2%(41.90ドル)高の1910.70ドルまで買われていた。ただし、その後終盤に向けて急速に上げ幅を削り、結局、終わってみれば1875.70ドルと、いわば行って来い状態に終わった。結果的にNY金は、FOMC明けの反転の機会を生かすことが出来ずに1900ドル割れの水準に押し戻されている。背景にあるのは、2018年11月以来初めて3.1%を上抜けた米長期金利(10年債利回り)の上昇とドル指数(DXY)でみて2002年12月以来となる104ポイント台に乗せたドル高だった。

このところのドル高に関しては、他の主要中銀に比べFRBの引き締めスタンスが際立つことに加え、米株式市場(乱高下)と米国債市場(価格急落、利回り急騰)双方の不安定化という異例の状況を映した側面もあるとみられる。投資家が運用リスクを避ける動きを強めていると見られ、リスク回避のドル(キャッシュ)需要の高まりがドル高に反映されているとみられる。

特にドル指数の上昇は、ファンドのアルゴリズムを通じ買い持ち(ロング)の手じまい売りを進める。先週末に米商品先物取引委員会(CFTC)が発表した、5月3日時点でのデータによるとNY金先物市場では、ファンドの買い建て(ロング)の手じまい(取引解消)が急速に進んでいることが判明した。4月12日以降5月3日までの3週間の重量換算でネット172トン、22%減少しており、この間のNY金下落の背景を物語る。

不安定な市場環境でのポジション手仕舞いに際して、流動性の高い(換金しやすい)金が売られる状況はいつものこと。その売りは必要な投資家が売り切れば終了する類のものだ。一連の売りをこなした後に、NY金は反転上昇に向かうと見ている。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。