FRBによる金融引き締め加速への警戒感強まる。スタグフレーションの可能性が浮上か?

(外国為替ストラテジスト) 川合 美智子
2022年4月9日

 
米3月の雇用統計は失業率が3.6%と市場予想を上回る改善を示しました。また非農業部門就業者数は+431千人と事前予想には届きませんでしたが、1、2月の雇用者数が上方修正されており、雇用市場は引き続き堅調さを維持しています。一方、サプライチェーンの目詰まりによる物価上昇圧力が収まらない状況に加えて、ウクライナへの侵略行為を止めないロシアに対する各国の追加経済制裁措置により農作物やエネルギー価格がさらに上昇する懸念が生じており、FRBはインフレ抑制策を急ぐ必要があります。地政学的リスクが緩和するのを待たずに5月のFOMCでは0.5%の追加利上げとバランスシートの速やかな縮小開始(950億㌦/月)に踏み切ることがほぼ確実視されています。一方、金融市場では金融引き締め加速への警戒感で足元では長短金利の逆転現象が起きており、物価上昇と景気減速を懸念する動きが徐々に高まっているようです。こうした中、12日に発表される米3月の消費者物価指数は今後のFRBの金融スタンスを探る上で特に注目されています。市場予想は前年同月比+8.4%と2月の7.9%からさらに上昇することが見込まれています。これ以上の物価上昇は消費に悪影響を及ぼす可能性があり、GDPの6割を占める消費を悪化させないためにもFRBの対応が急がれています。
一方、欧州経済も底堅く推移していますが、物価上昇圧力はさらに強まっています。ECBの議事録によれば複数の委員が金融正常化へ向けて一段の措置を求めたとあり、5月に前倒して資産購入を終了する可能性が浮上しています。また、年内と見られていた利上げも6月にも実施されるとの見方も増えつつありますが、ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁措置がヨーロッパ経済にも打撃を与える可能性が高く、物価上昇圧力と景気後退懸念の狭間でECBは今後の金融政策について難しい対応を迫られると見られることから、対ドルでのユーロ売り圧力がさらに強まる展開が予想されます。
日本は日銀が強い意志を持って長期金利抑制を図っており、各国中銀との金融政策に大きな隔たりがあります。また量的緩和策にも変更なく、欧米との景況感格差も改善していないことから、引き続き円は売られ易い展開となることが予想されます。但し、足元では125円台までのドル上昇が急であったことや日銀総裁によるトークダウンも見られることから、スピード調整の動きが強まると見られドル円は高値圏での揉み合いが暫く続く可能性があります。

チャートから見た注目通貨の方向性

1.ドル/円相場:短・中期トレンドは“ドル強気”。125円超えの越週で一段のドル上昇へ。122.50割れで“ニュートラル”に変化。121円割れの越週で下値リスクが点灯。

週足チャートで中期的な方向性を確認します。ドル/円は昨年1月に付けた102.59を基点として下値を切り上げる流れを維持しており、ドル高/円安の流れを変えていません。この中期的なサポートライン(A)の下値抵抗は114.00-10に位置しており、114円割れで越週しない限り、中期トレンドは“ドル強気”を維持します。また、短期的に見ても、昨年9月に付けた109.12を基点とする短期的なサポートライン(B)が下値を支えています。この下値抵抗は116.00-10にあり、116円を割り込んで越週しない限り、短期トレンドは変化しません。一方上値は124.60-70,125.00-10に週足の抵抗がありますが、これを上抜けて越週した場合は、新たな上昇エネルギーを得て126.50-60超えの抵抗をトライする動きが強まり易くなります。逆に122.50を割り込んで終えた場合は、陰線引けとなり、調整下げ局面に入る可能性が点灯します。さらに121円を割り込んで越週した場合は、週足の形状が悪化して120円割れのリスクが生じます。この場合でも、前述の通り、116.00-10,114.00-10に中期的な下値抵抗があり、これらを下抜けるほどの下げにも繋がらないと見られます。週足ベースで見た上値抵抗は前述の124.60-70,125.00-10と126.50-60に、下値抵抗は122.60-70,122.00-10,121.10-20にあります。31週、62週移動平均線は114.82と111.96に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

日足で足元の動きを確認します。日足は昨年9月に付けた109.12と今年1月の安値113.47を結ぶサポートライン(A)が短・中期トレンドを支えており、この日足の下値抵抗は116.00-10にあります。また、今年3月に付けた114.65を直近安値として下値を切り上げて来た短期的なサポートライン(B)が短期トレンドを支えており、この日足の下値抵抗は122.50-60にあります。もう少し近い所では、今年1月の116.35と3月に付けた116.34の戻り高値を結ぶレジスタンスライン(C)を3/11の陽線が上抜けて、ドルの上昇が急となっています。この3/11の陽線を基点として急角度で切り上げて来た短期的なサポートライン(D)は123.80-90に位置していますが、これを下抜けて終えた場合は123.00-10,122.50-60の抵抗をどこまで切り崩せるかトライする動きが強まり易くなります。さらに122.50を割り込んで終えた場合は、(B)を下抜けて短期トレンドが変化して、ドルの下落余地がもう一段拡がり易くなります。この場合でも中期トレンドがまだ強いことや、121.10-20に日足、週足の横サポートがあり、これを割り込んで終えない限り、下値余地も拡がり難い状態です。但し、121円割れで終えた場合は日足の形状がさらに悪化して120円割れトライの動きが強まり易くなります。この場合はドル急伸時に素通りした116~118円台の足元を固め直す動きが強まり易くなりますが、中・長期トレンドが強い状態を保っていることから、これらを全て下抜ける可能性は低いと見られます。週足が114円割れて越週しない限り、中期トレンドは大きく変化しません。一方上値は、124.60-70、125.10-20,125.40-50に強い抵抗が控えており、これらの抵抗を一気に上抜けるのも難しいと見られますが、日足が125.50超えで終えた場合は新たな上昇トレンドに入った可能性が高くなり126.50方向への一段のドル上昇に繋がり易くなります。日足の上値抵抗は124.60-70,125.10-20,125.40-50に、下値抵抗は124.00±10銭、123.50-60,123.00-10,122.50-60にあります。21日、120日、200日移動平均線は121.30,115.72,113.68に位置しており、短期トレンドは“ドル強気”の流れにあります。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

2. ユーロ/ドル相場:短期・中期ともに“ユーロ弱気”。1.0750割れで新たな下落リスクが点灯、1.1500超えで越週すれば“ユーロ強気”に変化。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けてユーロ圏の国々もロシアへの経済制裁を強めていますが、ロシアからの輸入に頼る国々も多く、コロナ禍でのサプライチェーンの目詰まりが改善していない中で、物価上昇圧力はさらに強まっています。インフレ懸念の高まりを受けてECBは量的緩和策終了の前倒しを検討していますが、対応が遅れれば景気を冷やす可能性もあります。米欧景況感格差や金融政策による米欧の対応にも落差がありユーロは対ドルで売られ易い状態が続くと見られます。
月足チャートで長期的なトレンドを確認します。月足は2008年7月に付けた1.6040を基点とする長期的なレジスタンスライン(A)を2020年12月足が一度は上抜けたものの、翌年の11月足が再びこの下に入り込んでおり、現在もこの流れを変えていません。長期トレンドは “ユーロ弱気”の流れにあります。この月足の上値抵抗は1.1450~1.1500にあり、これを上抜けて越月しない限り、長期トレンドは大きく変化しません。一方下値も2017年1月に付けた1.0341と2020年3月に付けた1.0638を結ぶ長期的なサポートライン(B)が1.0800~10830ゾーンにあり、4月8日現在これを下抜けきれていませんが、1.0800を割り込んで越月するか1.0750を割り込んで越週した場合は、新たな下落リスクが生じて、1.06方向への一段の下落リスクが生じます。短期的には2021年6月の戻り高値1.2254を基点とするレジスタンスライン(C)の上値抵抗が1.1200~1.1230にありますが、これを上抜けて越月した場合は下値リスクが若干後退します。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は1.1526と1.1523で収束しており、長期的な上値抵抗として働いています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

週足で短・中期的な動きを確認します。週足は、昨年6月に付けた1.2254を戻り高値として上値を切り下げています。このレジスタンスライン(A)の上値抵抗は1.1300~1.1320にあります。もう少し短期的な流れでは今年2月に付けた戻り高値1.1495を基点とする短期的なレジスタンスライン(B)が1.1040-50に位置していますが、これを上抜けて越週した場合は、1.12超えトライの動きが強まり易くなります。但し、この場合でも中期トレンドがまだ弱いことから、急伸にも繋がり難く、1.1450~1.1500を上抜けて越月するまでは下値リスクを残します。また、1.0750以下で越週した場合は2020年3月に付けた1.0638を意識する動きが強まります。31週、62週移動平均線は1.1350と1.1651に位置しており、中期トレンドが弱い状態にあることを示唆しています。

(出所:ワカバヤシエフエックスアソシエイツ)

株式会社ワカバヤシエフエックスアソシエイツ
代表取締役兼外国為替ストラテジスト川合 美智子(かわい みちこ)氏
川合 美智子(かわい みちこ)

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)在勤時に若林栄四の下で罫線分析を研究、習熟する。同行でカスタマー・ディーラーとして活躍した後、1989年より在日外銀で外国為替ストラテジスト、為替資金部長等を歴任。現在、(株)ワカバヤシ エフエックス アソシエイツの代表取締役兼外国為替ストラテジストとして罫線分析を基にした為替相場予測レポートを配信中。ストックボイスTVに出演の他、ブログ『川合美智子の為替相場と楽しく付き合う方法』やFX羅針盤にFXチャート分析コメントを掲載中。